拡がりの条件
ボスに声をかけられたのは、前回の森のダンジョン配信から三日後のことだ。
ダンジョン探索に向かうべく顔をすっぽりと覆い隠すフードとデカめの襟巻きが特徴のSAくん衣装に身を包み、腰に打刀と脇差を差し終えたタイミングだった。
「——鋼理」
「ん……なんですか、ボス」
「ちょっと俺に付き合え。何、手間は取らせない」
「う、うす」
……珍しいな、ボスから話しかけてくるなんて。
ボスは基本的に自分から声をかけないタイプの人間だ。
しかも話すにしても必要最低限のことしか話さないから、未だにボスがどういった人物かよく分からないんだよな。
ボスに連れられて移動した先は、事務所の地下。
エレベーターで数十秒かけて降りたところにある広大な空間だった。
「ここは……?」
「訓練場だ。元々は対モンスター用のシェルターを改造したものだから、多少派手に暴れても崩れることはない」
「へえ、なるほど。だからこんなに広いのか」
多分、サッカーとか野球ができるくらいのスペースがあるぞ。
なんか秘密のアジト感があってちょっとワクワクするかも。
「それはそうと……俺をここに連れてきたのは、どういった理由で?」
「特訓だ。お前がスキルを拡張させる為のな」
「スキルの拡張……っすか」
「ああ、お前の遠隔斬撃——あれはまだ、ほんの一面しか性能を引き出せていない」
ボスは断言する。
「そのスキルには、まだまだ伸び代がある。成長すれば、四葉にも劣らない程のな」
「……っ!?」
いやいや、流石にそれは過大評価でしょ。
ボスの言う通りスキルは、拡張させる事で新たな能力を顕現することが可能だ。
だがそれは、一部の優れたスキルと才能を併せ持った天才ができる所業であって、俺みたいな凡人冒険者には到底無理な話だ。
それこそ昨日、遠隔斬撃の弱点対策として一瞬だけスキル拡張が脳裏に浮かびこそしたが、あまりにも現実的じゃなさ過ぎて速攻で一蹴したくらいにはな。
「ふん、信じられないって顔をしているな。無理もないか。スキル拡張に至った冒険者は、そう多くないからな」
「じゃあ、俺には縁の無い話っすね」
期待してもらったところ悪いけど、俺程度の実力じゃ——、
「何を言っている? お前なら出来ると思っているぞ、鋼理」
「……へ?」
「スキルを拡張させるのに肝要となるのは、弛まぬ研鑽と鍛錬を重ねてスキルの練度を向上させること。自身のスキルの解釈をどれだけ自由に拡げて、成長後のイメージを鮮明に、具体的に組み上げられるかということ。後は……ちょっとしたセンスと些細なきっかけだ」
「えぇ……」
最後だけなんか雑じゃない?
しかも、センスとか俺に縁遠いワードだし、きっかけに至っては俺一人じゃどうしようもねえじゃん。
「あの……ボス、気休めはいいっすよ。期待してくれるのは嬉しいですけ——」
「気休めでこんな事言うか」
言い終わる前に遮られる。
「確かに現時点では難しいかもしれない。だが、一つ殻を破るだけで実力が一変する事があるのが冒険者だ。特に鋼理、お前みたいなタイプはな」
「……それは、俺が親父の息子だからですか?」
訊ねるも、ボスは即座に頭を振る。
「お前が決して怠る事なく剣を振り続けてきた人間だからだ。お前の親父さんの事は関係ない」
「……っ、なんでそれを……!?」
「お前の手を見れば一目で分かる。ここは開放しておくから、好きに使うと良い」
言うと、
「戻るぞ。手間を取らせたな」
踵を返し、訓練場を後にしたので、俺もその背中を追うことにした。
* * *
練馬ダンジョン——通称”洞窟のダンジョン”
階層が狭い通路で構成された天然の迷路のようなダンジョンだ。
このダンジョンの特徴は、一定周期で構造が変わるというなんともクソ——もとい厄介極まりない仕様があるということか。
派手な技をぶっ放すと天井が崩落する恐れがあり、使える攻撃が限られているせいで、あんまり配信には向かないダンジョンではあるのだが、わざわざ選んだのには理由がある。
「——今日の配信は、告知していた通りになんと……アシスタントくんがメインで戦うよ!」
”いえーい!”
”SAくん回キタ!!”
”待ってましたー”
”マジでやるの”
”遂にSAくんの実力が露わに……!”
まあ、つまりはそういうことだ。
……うん、普通に意味が分からん。
なんで天頼の配信で俺が主役になるんだよ。
つーか、俺に需要があるのおかしいだろ……!!
ちなみに何故俺がメインを張るようになったかというと、昨晩事務所に戻った後、何を思ったか天頼がSNSでちょっとしたアンケートを実施したのがきっかけだ。
そのアンケートとは『SAくんがメインで戦う配信を見てみたいか』——というもの。
結果、圧倒的格差で『見たい』に票が集まった為、本来の予定を変更して俺メインの配信をやることになったわけだ。
「さて、それじゃあ早速アシスタントくんに意気込みを聞いてみようか。アシスタントくん、見てくれてる人に一言どうぞ!」
[色々ツッコミどころ満載だけど、お手柔らかにお願いします]
”肩の力抜いて気楽にでええんやで^^”
”かっこいいところ期待してるよ〜”
”SAくん頑張ってー”
拒絶されるよりはマシではあるけど、こうも自然と受け入れられ過ぎるのも考えものだな。
小さくため息を吐きつつ、俺は腰に下げた大小の刀を引き抜くことにした。




