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射程無限剣士、ド陰キャ戦法でS級モンスターをぶった斬ったら謎の暗殺者扱いされて鬼バズする  作者: 蒼唯まる
第1章 陰から白日へ、一歩

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四大蹂躙

 ベヒーモスが仰向けになって倒れ、再びのたうち回った。

 今度はダメージが入ったようで、命中した箇所が焼け焦げていた。


 ふと背中に風を感じる。

 振り返れば、両脚には風の魔力を纏わせた天頼がベヒーモスに狙われていた少女を抱え、ゴーレムナイトに襲われていた少年を風魔術で浮かせていた。


「ごめん、お待たせ! 大丈夫だった!?」


「ああ、誇張抜きで今際の際っ際だったけどな。間に合ってくれて本当に助かった。ありがとう、天頼」


「こちらこそ、どういたしまして!」


 天頼はにいっと表情を綻ばせ、抱えていた少女と浮かせていた少年をゆっくりと地面に下ろした。


 声を掛けようと思ったが、すぐに断念した。

 少女は会話もままならないレベルで顔面蒼白となっていたし、少年はというと——、


「……こいつ伸びてるのか?」


「多分だけど、怖さのあまり気を失っちゃったみたい。モンスターを倒して保護した時には、もう白目剥いて倒れてたから」


「……そうか」


 まあでも、下手に錯乱して発狂されたり暴れられるよりはいいか。

 そんなことを思いつつ、手短に作戦会議を始める。


「これからどうする?」


「——わたしが時間を稼ぐから、剣城くんは二人を連れて離脱して」


「……っ!? お前また——!」


「ううん。そうだけど、そうじゃないよ。これが()()()で生き延びる為の最善手だと思っているからお願いしてるの。だから、剣城くん。二人を安全な場所に連れて行ってちょうだい。その方が——わたしも存分に戦えるから」


 真っ直ぐと俺の目を見ながら天頼は言う。

 未だ若干の不安や緊張が残っているが、瞳には強い覚悟が秘められているのが見てとれた。


 ——信じろ、ということか。


「……分かった。そっちは任せた。二人を無事に送り届けたら、合図を送る。それと……思っているよりもずっと早く肉体が再生するから気を付けろよ」


「おっけー。じゃあ……そっちも任せたよ」


 ああ、短く頷いたと同時、俺らは一斉に動き出す。

 俺は新人冒険者二人を担ぎ、出口に向かって全速力で駆け出し、天頼は魔力を迸らせ、術式を起動させた。




   *     *     *




「——烈風弾(れっぷうだん)肆穿(しせん)!」


 四葉の収斂した魔力から放たれるのは、烈風を内包した四つの弾丸。

 それらが、ようやく起き上がろうとしたベヒーモスの後脚ピンポイントに撃ち込まれる。

 異常なまでの頑丈さ故に肉を穿つまでは至らなかったが、動きを鈍らせることには成功する。


 そこから間髪入れず四葉は、


刃嵐(じんらん)!」


 ベヒーモスのいる場所に荒れ狂う暴風を発生させる。

 更に畳み掛けるように、


「獄炎!!」


 足元から空高く突き上げる火柱を噴出させる。

 瞬間、火柱と暴風が融合して業火の竜巻を化し、ベヒーモスを焼き尽くし、切り刻んだ。


 通常であれば、これで仕留めているところだが——四葉が戦っている相手はS級モンスター。

 加えて、先ほど鋼理から忠告を受けていたこともあって、いつでも次の術式を発動できるようにしながら距離を取り、不測の事態に備えておく。


 そして、四葉の警戒は——見事に的中する。


 ベヒーモスが火炎の竜巻を強行突破で脱出し、四葉に襲いかかってきた。

 まだ眼球は完全に再生しきってはおらず、灼熱で嗅覚が使い物にならず、風魔術で全ての脚をずたずたに裂かれていたにも拘わらず。

 それでも的確に四葉のいる地点を狙えたのは、高い魔力感知能力……もしくは獣の本能によるものだろう。


 しかし、いかに並外れた肉体再生能を持っていたとしても、ボロボロの身体で挑もうとするのは無謀と言わざるを得ない。

 事実、ベヒーモスの動きは鈍く、隙だらけだった。


 無論、四葉がその隙を見逃すはずもなく、両手それぞれに地属性の魔力を生み出す。


「——地隆震衝(ちりゅうしんしょう)巌墜(がんつい)!」


 術式の二重発動——地面を割って噴出する岩石と頭上から降り注ぐ無数の岩石が、ベヒーモスを無慈悲に押し潰しにかかる。

 流石にこれで圧殺することは叶わなかったが、上と下両方から押し寄せる岩石によって埋もれ、身動きを取らせなくすることには成功する。

 それでも息を入れる間もなく四葉は、新たな術式の発動準備に入った。


「ああ、やっぱりキツいなあ……!」


 魔力を収斂させながら、四葉は弱音を吐露する。


 ゴーレムナイトとの戦闘や移動を含めて、多くの魔力を消費する術をほとんど休む間もなく発動し続けてきた。

 おかげで額から汗が滴り、どっと疲労が押し寄せていた。

 このまま立て続けに術を放ち続ければ、魔力を消耗し過ぎた反動で恐らく数日は、身体にダメージが残るだろう。


 そうだとしても四葉は、一切の躊躇なく全力で魔力を練り上げ、術式を構築していく。

 だが、発動態勢が整っても四葉は、次の術を放とうとしなかった。

 ——否、放つにも放てなかった。


(今、ここで発動したら、剣城くんたちが巻き込まれちゃう——)


 今から解き放つのは、四葉が持つ術の中でも最大級の火力を誇る反面、範囲がとてつもなく広く、不用意に放てば周りの人間も巻き込んでしまう。

 出力を抑えれば、被害範囲を減らすことはできるが、生半可な攻撃はベヒーモスには通用しないだろう。


 けれど、このまま攻撃を中断すれば、やがてベヒーモスが岩石の拘束から抜け出してしまう。

 ベヒーモスを自由にさせてしまうことが一番の悪手——そうなると、巻き込まれない場所まで移動してくれている可能性に賭けて発動させるべきか。


 迷っている猶予はない。

 今こうしている間にも、ベヒーモスの肉体は再生しているはずだから。

 悩んだ末、折衷案で少しだけ威力を落とそうとして——。


 突如、四葉の足下で地面が削れた。


「、っ!?」


 まるでナイフで切りつけたようなそれは——脱出を知らせる合図だった。

 気づいた直後、憂いが解消した四葉は、不敵に笑うと、


「——赫灼隕(かくしゃくいん)!!」


 魔力を全開にして激らせ、術式を展開した。


 四葉の上空で極限まで圧縮した魔力が核となって生成された巨大な火球が、隕石のようになってベヒーモスへと落とされる。


 火球が地上に落下するまでは、僅かながらタイムラグが発生する。

 その間に四葉は、自身の身を守るべく、


霞羽衣(かすみのはごろも)


 防御用の術式を起動。

 水属性と風属性の魔力で構築されたベールが四葉を覆うと、未だ岩石に埋もれたままベヒーモスに火球が直撃する。

 刹那——衝突の余波で生まれた莫大な熱波が一帯の全てを飲み込み、悉くを焼き尽した。


(っ、——)


 熱波が通り過ぎた後、少し遅れて水と風のベールが消失すると、数秒前よりも空気が乾燥し、気温が上昇していた。

 見渡す限りの光景が焦土と化しており、改めて前方を見据えれば、融解してマグマとなった岩石に全身を焼かれても尚、しぶとく生き残っているベヒーモスの姿があった。


「——やっぱり、これでも倒れてくれないか」


 けれど、何となくそうじゃないかと思っていた。

 だからこそ、四葉は次の術式を放つ用意をしていた。


 ——正真正銘、とっておきの一発を。


 そして、怪物に引導を渡すべく、術式を発動させるのだった。


「——流龍滅瀑(るりゅうめつばく)!!!」

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