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射程無限剣士、ド陰キャ戦法でS級モンスターをぶった斬ったら謎の暗殺者扱いされて鬼バズする  作者: 蒼唯まる
第1章 陰から白日へ、一歩

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下層、再び

 荒野のダンジョン二十三層。

 配信開始からもう二時間近くが経過しようとしていた。


「さあ、どんどん行こー! 目指せ、二十五層!」


”二十層超えてるのに余裕そうなのやばい笑”

”A級モンスター相手にも無双とか末恐ろしいな”

”マジでSランク昇格も時間の問題でしょ”

”あれだけ大技連発してまだまだ戦えるなんて魔力量どんだけなの”

“知らんのか? 四葉ちゃんの魔力量ってあの二階堂空にも匹敵するんだぞ”

“は? バケモンかよ……!”


 まだまだ元気が有り余っている様子の天頼。

 対して俺はというと、魔力量やスタミナ的には全く問題ないのだが、精神的にかなり疲弊してしまっていた。


 理由は単純——ダンジョン下層に足を踏み入れているせいだ。


 森のダンジョンを含めた多くのダンジョンに共通することだが、ある一定の階層を超えると、出現するモンスターの平均危険度が大きく跳ね上がる。

 全てのダンジョンに適用されるというわけではないが、モンスターの切り替わりはおよそ十層毎に発生し、その強さの跳ね上がりようはというと、最初の切り替わりでD級相当、二度目はA級相当となる。


 実際、下層に入ってからブラックズーをよく見るようになっていた。


 とはいえ、平均的な強さがそうなるというだけで、浅い階層でも飛び抜けて強いモンスターが出現することがあるけど。

 中層でブラックズーが現れたのがいい例だ。


 なので、さっきからずっと絶賛現在進行形で生きた心地がしていない。

 真っ向からタイマンするとまず確実に負けるからな。


 救いがあるとすれば、既に下層の空気を体感していること。

 何より——近くに天頼がいてくれることだ。

 じゃなきゃ、こんな場所、一秒だっていられるか。


 大抵の敵は天頼が一蹴してくれるおかげで、天頼から離れ過ぎなければ、まずやられる事はない。

 だが、安易な油断は死に直結する。

 どんなにおんぶに抱っこ状態だったとしても、自衛する心構えだけは常に持っておかなければ、いざという時に動けず、最終的に二人仲良くお陀仏というパターンだってあり得るのがダンジョンだ。


 そんなわけで二十層を超えてからずっと周囲を警戒しまくった結果、まだそんなに時間が経っていないにも関わらず、かなり精神をすり減らしてしまっていた。


 それでも弱音を吐いてなどいられないので、気を張り詰めて探索に当たっていれば、ふと天頼がこちらに振り返った。


「……SAくん、大丈夫? キツいなら少し休憩しよっか?」


 顔が見えなくても疲労困憊になっているのが丸分かりになっていたからか、天頼がこちらに歩み寄りながら声を掛けてくる。

 ただ、それがたまたまマイクのすぐ傍で囁くように言ったものだから、


”ひょえー! 耳が蕩ける……”

”あ゛〜、ゲリラ生ASMR半端ねえんじゃあ〜”

”ありがたや、なんという至福”

”SAてめえ、そこ代われ!”

”SAくん、グッジョブ”


 変態共が湧いて出てきやがった。

 代われるもんなら今すぐ代わりてえよ……切実に。


 気づけば、俺のことはSA呼びが固定されていた。

 毎回サイレントアサシンって文字を打つのが面倒だからだろうな。

 それから天頼もSAと呼ぶようになったのも大きいか。


[大丈夫、問題ない]


 勿論、虚勢だ。

 本当はさっさと帰りたいし、場所代われとコメントしたリスナーに譲ってやりたいくらいだ。


 ——だとしても、気勢を張り続けるけどな。


 それに気力はだいぶ削がれてしまっているが、探索に支障が出ている程じゃない。

 本当に限界が来たら、正直に伝えている。


 だけど、この文面だけだと少し味気ないっつーか、無理してる感があるか。

 ……念の為、もう一文書き足しておくか。


[天頼がそばにいてくれてるから]


「っ……!」


 途端、天頼の目が大きく見開く。

 ほんのりと頬も赤く染まっていた。


 しかし、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべて、


「そういうこと、他の人に言っちゃダメだよ」


 もう一度囁く。


”あ゛? SAてめえ四葉たんに何伝えたんだあ゛ぁ゛ん!?”

”おいSAてめえ! やっぱ今すぐそこ代われ!”

”このコメントは削除されました”

”生ASMR二度目あざ!!!”

”このコメントは削除されました”

”このコメントは削除されました”

”四葉ちゃんの乙女顔可愛過ぎか!!!???”

”このコメントは削除されました”

”SA表出ろや! オレっちが四葉ちゃんに相応しい男か見定めてやる!”


 AI判定で消されるって、何コメントしようとした?


 確か事務所で水森がモデレーターをしてくれているという話だったが、投稿とほぼ同時に消されるのはAI判定に引っかかっているということだ。

 よほど過激なコメントをしようとしたのだろう。


 というか、さっきから天頼ガチ恋勢みてえな奴がいるよな。

 まあでも、そうなる気持ちも分からんでもない。

 天頼って客観的に見ても美少女な上、明るくて人当たりもいいしな。


 顔も性格どっちも良ければモテるのは当然というか、自然の摂理だ。

 けどまあ、イケメン、美少女配信者の宿命とはいえ、ガチ恋勢を抱えるって大変そうだな。


 などと漠然と思っていた。

 ——次の瞬間だった。


「うわあああああっ!!!」


 遠くから突如聞こえてる悲鳴。

 若そうな男……恐らくは少年の声だ。


 すぐさま声がした方を振り向くと、数百メートル離れた先にモンスターと冒険者らしきシルエットが確認できる。

 急いでポーチから単眼鏡を取り出し覗き込むと、岩石の鎧を纏ったような巨人型のモンスター——ゴーレムナイトが新人らしき冒険者に向けて岩の剣を振り翳そうとしていた。


 ——まずい!


 危機を察すると同時、可能な限りの魔力を込めた遠隔斬撃をゴーレムナイトに繰り出す。

 飛ばした斬撃は、ゴーレムナイトが剣を振り下ろす前に命中するものの、岩石の表面をちょっとだけ削るだけに留まってしまう。


「……チッ!」


 この感じは、微塵もダメージになってねえな。

 やっぱ俺の技量じゃ、岩の鎧ごと叩き斬ることはできなかったか。


 だけど、ゴーレムナイトの意識を冒険者から引き剥がす事はできた。

 他力本願になってしまうが、後は天頼に戦闘を託すとしよう。


 ゴーレムナイトの標的を冒険者から俺に変えるべく、何度も斬撃を飛ばしつつ——任せてすまん、とジェスチャーをすれば、天頼は頭を振ってから、


「大丈夫、後は私に任せなさい!」


 親指をグッと立てた。


”何事!?”

”カメラの外側だから分からん”

”今の悲鳴だよね?”

”え、何が起こってるの?”

”もしかして今日もなの!?”


「詳しい説明は後! とりあえずこれからモンスターをやっつけるよ!」


 言いながら天頼は、手のひらに烈風を纏った魔力を生み出す。


 身体から迸る出力量は今日一番——ガチで仕留めに来たか。

 これならもう安心して良さそうか。


 念の為、新人冒険者の周りに別のモンスターが寄ってきた場合に備えて、ナイフに魔力を籠め始めた時——、


「いやああああああっ!!!」


 別方向からも悲鳴が聞こえてきた。

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