実力と相性
ダンジョン探索は順調に進み、現在十六層。
中層に位置される階層で俺は、裏方で配信のサポートに徹していた。
といっても、やることはドローンカメラの微調整と天頼が高ランクのモンスターとタイマンを張っている間、遠隔斬撃で他のモンスターが横槍入れないようにするくらいしかないのだが。
あくまでこれは天頼の配信で俺はただの同行者。
無理にカメラも映る必要もないし、そもそも一緒にダンジョンに潜っているのは、本当にバディを組むかどうかを確かめる為だ。
これで俺が下手に動いて天頼の足を引っ張ろうものなら、バディ結成の話はまず間違いなく流れるだろう。
如何に”信頼と信用”が重要と言っても、足手まといになるくらい実力が離れていると、結果的に自分の首を絞めるはめになるしな。
そんなわけでカメラの外側で黙々と俺の仕事をこなしていたわけだが、
”カメラを調整してくれる人が居ると画面が見やすくて助かるわ”
”黙々とモンスターの首刎ねるのホラーなんよ……”
”本当にサイレンスアサシンしてんな”
”こうやってダカスラも倒したのかあ”
”なんでこれほどの冒険者が世に出てなかったのかが不思議でならん”
俺宛のコメントもちらほらと流れていた。
別に俺のことはいないものとして扱ってくれてもいいんだけどな。
まあでも、そういったコメントは一部であり、天頼に対するコメントがチャット欄の大半を占めている。
配信主なのだから当然といえば当然なのだが、一番の理由は言わずもがな——高い実力と映える戦闘だろうな。
——天頼から魔力が迸る。
「刃嵐」
術名を唱えた瞬間、天頼の前方で強烈な暴風が渦巻いた。
荒れ狂う竜巻は鎌鼬を生み出し、トラックを超える程の巨大な黒い怪鳥のA級モンスター——ブラックズーをズタズタに切り裂く。
暴風に飲まれ、怪鳥は数瞬だけ動きを制限させられる。
僅かに生まれた隙、そこを見逃さず第二波の術がブラックズーを襲う。
「巌墜」
怪鳥の頭上に大量の岩石が発生し、怪鳥目掛けて一斉に降り注ぐ。
先端が鋭く尖った岩石は、怪鳥の肉体を穿ち、抉り、荒野へと叩き落とす。
だが、天頼の追撃はまだ止まらない。
「獄炎」
怪鳥が地上に墜とされた直後、真下の地面が盛り上がると、強烈な火柱が空高く突き上げるように勢いよく立ち昇った。
業火が怪鳥を一瞬にして焼き尽くし、周辺の岩石を溶岩へと融解させる。
そして、炎が消え最後に残ったのは、僅かな灰と表面が冷え固まっただけの岩石のみだった。
「ふう、一丁上がり! 皆んな、今の活躍どうだった?」
”四葉ちゃんえげつないなあ……!”
”すげえ、これが次世代Sランク冒険者候補筆頭……!!”
”カッコよかったよ四葉ちゃん!”
”えっと、今のA級モンスターでしたよね?”
”赤子の手を捻るくらい簡単に倒しちゃったよ”
”圧倒的過ぎる……”
だよな、と俺も無言でリスナーに同意する。
実際、見ていてドン引きするような戦闘内容だった。
傍ら、天頼は流れるコメントを眺めて満足そうに笑みを浮かべた。
「皆んな褒めてくれてありがとう! 今日は、ちゃんとかっこいいところを見せたかったから、頑張った甲斐があったよ!」
——頑張った、で倒せるような相手じゃないんだけどな。
ブラックズーは本来、並外れた膂力と高い飛行能力を持ち、翼を羽ばたかせることで魔力を含んだ衝撃波を飛ばすことで知られる凶悪なモンスターだ。
そもそものサイズも脅威的で、奴によって命を落とす冒険者も毎年出ているくらいには危険なはずなのだが……何、このどちゃくそイージーゲーム?
あいつ、一歩も動かずに術式だけで圧倒したぞ。
(——これがAランク冒険者、天頼四葉か……)
でもまあ……勝利したことそのものに驚きはない。
寧ろ、これが本来の天頼の実力なのだろう。
昨日は相性の問題で思うように力を発揮できなかっただけで、通常であればS級モンスターとも渡り合える性能の術式と技量を持ち合わせている。
やはり天頼は、俺とは比べ物にならない程に強い。
というか、比較するのも烏滸がましいレベルだ。
俺が狙撃銃だとすれば、天頼はマップ兵器——そこそこ一芸が秀でたとしても、圧倒的な火力と攻撃範囲に敵う訳がない。
その事実を改めて痛感させられていた時だった。
「ねえねえ、きみはブラックズーに勝てるのかって質問が結構きてるよ」
天頼に言われ、チャット欄を見れば、確かにその類の質問が散見された。
世間からすれば、俺……というよりサイレンスアサシンは、S級モンスターを一太刀で沈めた正体不明の冒険者だ。
気になるのも当然といえよう。
ただ、期待を裏切るようで申し訳ないが、残念ながら答えは”ノー”だ。
これは断言できる。
力量差は当然として、遠隔斬撃には致命的な弱点があるからだ。
それは、地面と接していない敵には絶対に攻撃が当たらないこと——斬撃が地面を伝播して対象に飛んでいく性質のせいだ。
おかげで空中——それと水中——にいる相手には地力で戦うしかなくなる。
そうなれば、どう足掻いても俺に勝ち目はないだろう。
力関係を逆転できる唯一の手札を失ってしまうのだから。
[正面きっての勝負ならまず100%勝てないです]
なので、正直に事実を伝えれば、様々な反応が返ってくる。
”謙遜でしょ”
”マジ?”
”S級を倒せてA級を倒せないのは意味わからん”
”典型的な一芸特化タイプなのね”
”スキルの相性が悪いってところか”
”というかランク幾つだよ”
”強いのか弱いのか判断がつかない”
スキルはまずまずだけど、本人は雑魚だぞ。
中層にいること自体が場違いなくらいには。
はっきり言って、遠隔斬撃のない俺はお荷物でしかない。
思っていると、天頼が真面目な表情で訊ねてきた。
「……なるほど。ちなみに勝てないって思う理由、教えてもらっていい?」
[俺のスキルは地上限定]
[空中の敵相手には無力だ]
俺はすぐに天頼にだけ見えるようにスケッチブックを掲げた。
本来、チーム内であっても自身のスキルの弱点はあまり他人には教えるべきではないのだが、今の俺の実力ではそんなことも言ってられない。
それに俺だけ弱点を晒さないというのは不公平だしな。
理由を把握した天頼は、ぐっと親指を立てた。
「おっけー! じゃあ、そこはカバーするね。その代わり……ああいう系はお願いね」
天頼が視線を向けた先には、土色のスライムが徘徊していた。
恐らくはマッドスライム——地属性の魔力を吸収する性質を持つ。
ランクはC級と天頼にとっては雑魚同然のモンスターだが、俺の方が楽に倒せる相手だ。
(……スライム系は俺に任せたということか)
まあ、元から雑魚狩りは俺の役目だけど。
それでも改めて頼まれたことで、少しだけ気が楽になった。
俺は短く頷き、マッドスライムに向けて斬撃を飛ばした。




