沈黙の一般冒険者
「みんなー、よっはー!! Aランク冒険者、天頼四葉です!! 今日も元気にダンジョン配信やってくよー!!」
”おー、始まった!”
”四葉ちゃん! よは!”
”良かった、今日も配信見れる……!!”
”四葉ちゃんよはよはー!”
”昨日の今日で配信すんのすげえな”
場所は移り、俺たちは新宿ダンジョンに訪れていた。
一面を荒れ果てた平原が覆う通称”荒野のダンジョン”——本日の天頼四葉のダンジョン配信は、その第十一層で開始された。
「昨日は心配かけちゃってごめんなさい。今日は、昨日の失態を取り返せるように頑張るから応援してよろしくね!」
”うん、期待してるよ!”
”頑張って!”
”いやいや、あれは失態じゃないって笑”
”命があるだけ儲けものでしょw”
うわ、やっぱ人気すげえな。
流石、勢いのある人気配信者……流れるコメントが全然拾いきれねえ。
俺が同じことをしようとしたら、テンパって噛みまくってまともにリスナーと交流が図れなくて放送事故になるのがオチだろうな。
ドローンカメラの画角外から天頼を見守りながら、そんなことをつらつらと考えていると、天頼がパンと手を叩いてみせた。
「よし! それじゃあ、そろそろ今日のダンジョン探索を始めよっか……と言いたいところだけど、その前に今日は皆んなにお知らせがあります!」
”なになに?”
”急にどうしたん”
”お、ワクワク”
”お知らせwktk”
”もしかして大手配信者とコラボ?”
お知らせ、という言葉にチャット欄がざわつき始める。
……なんだろう、ちょっと胃が痛くなってきた。
「今日は……なんと、スペシャルゲストが来てくれてます!」
”ええー!?”
”本当にいきなりすぎるwww”
”どんな人だろ?”
”コラボだと!?”
”誰だろ? まさかそらっちか?”
「誰だろうね〜。でも多分、皆んな分かったらあっと驚くと思うよ〜!」
天頼……頼む、煽らないでくれ。
ハードルを上げた分だけ、がっかりされた時のショックがデカいから。
多分、チャット欄がしらけでもしたら真面目に寝込むぞ。
「さてと、それじゃあ早速来てもらいますね! では、どうぞ!」
ものすごくカメラに映るのが憚られるが、こうなることは織り込み済みだ。
人気配信者と組むということは、世間の衆目に晒されるのと同義なのだから。
分かってはいたつもりだが、それでもビビるものはビビる。
だとしても——、
「……仕方ない、行くか」
腹を括って、俺はカメラの前に立つ。
——スケッチブックを片手に、不審者同然の格好で。
ドローンのインカメに映ったのは、デカめの襟巻きとフードですっぽりと顔全体を覆い隠した控えめに言ってやばい奴——もしくは厨二感満載の痛い奴だった。
直後、俺に反応したチャット欄が加速する。
”誰だよ!”
”知らん奴で草”
”見た目www”
”服装やば笑”
”え、四葉たんに男!?”
(……まあ、当然こうなるよな)
これに関しては想定内だ。
中にはちらほら揶揄するようなコメントも見受けられるが、素顔を晒して素性を知られるよりはずっとマシなので甘んじて受け入れるとしよう。
——天頼と一緒にダンジョンに潜るのは今回きりかもしれないしな。
ちなみに襟巻き含めた探索用戦闘服は事務所のを借りている。
自前のやつは家に置きっぱだったし、それでバレる可能性もなきにしもあらずだから丁度よかった。
「はい、まずは見ている皆んなに自己紹介をお願いします!」
こくりと頷いてから、手にしていたスケッチブックを開く。
[初めまして。一般冒険者です]
あらかじめ用意しておいたカンペを見せれば、
”喋らないんかい!”
”マジで誰だか分からんぞ”
”なんか持ってるなと思ったら、まさかの筆談w”
”配信で無言とか事故だろwww”
”随分と変j……面白い人連れてきたな笑”
お、意外と好感触……!?
つーか、今変人って書きかけた奴いたよな、おい。
……まあいいや、拾ってたらキリないしここはスルーしよう。
淡々とページを捲っていく。
[得意な事は安全圏からの雑魚狩りです]
[なんやかんやで四葉さんとダンジョン探索することになりました]
[よろしくお願いします]
”ツッコミどころばっかな自己紹介やめい笑”
”雑魚狩りって何さ”
”大事な経緯が全く分からん”
雑魚狩りは雑魚狩りだし、なんやかんやはなんやかんやだ。
詳細な事言ったらめんどくなること確定だから、そこは黙秘を貫かせてもらう。
思っていると、
”知らん人見せられてもつまらんぞ”
”一般冒険者って自己紹介してたけど……うーん”
”本当に四葉ちゃんと一緒に探索するレベルの人なの?”
”雑魚狩り程度の強さなら四葉ちゃん一人でよくね?”
だんだんと否定的なコメントも流れ始めるようになる。
まあ、こうなるよな。
いきなりどこの馬の骨かも分からない輩(しかも男)が出てきて、一緒にダンジョン配信をするよ、などと言われても、はいそうですかってすんなり納得できないのが普通の反応というものだ。
一応、こうなることもある程度予測済みではある。
「うんうん、皆んなが言いたいことは分かるよ。だから、これから彼には、ちょっとしたデモンストレーションをしてもらうね。きっとこれから面白いものが見れるよ!」
天頼はぱちりとウィンクしながら言うと、遠くで徘徊している四足獣型のモンスター——マッドウルフの群れを指差す。
ここからマッドウルフまでの距離は百メートル強っていったところ。
余裕で射程圏内ではあるな。
「よし、それじゃあ……あそこにいるモンスターを倒してみて」
[了解]
変にハードルを上げるのは勘弁して欲しいが、雑魚狩りの相手には丁度良いか。
俺はサバイバルナイフを抜くと、刀身に魔力を流しつつ身体強化を施し、地面を薙いで振り上げる。
瞬間、スキルが発動——俺の手から離れた斬撃は地面を伝って真っしぐらにマッドウルフへと迫っていき、首筋を深々と斬り裂いて絶命させてみせた。
[ざっとこんな感じです]
スケッチブックに書き込んでカメラに向ける。
直後——、
”は?”
”おい、何が起きた?”
”え、離れた敵を斬ったの?”
”ちょっと待て、射程やばくない”
”あんな遠くにいる敵斬れるのエグい”
チャット欄が混乱したコメントで溢れ返った。
確かに見栄えはあるもんな、このスキル。
こけおどしみたいなもんだけど。
”いやいや、今のは偶然だろ”
”四葉ちゃんの風魔術でしょ、これ”
”流石に子供騙しに引っ掛らんよ”
しかし、まだ懐疑的なコメントも散見していた。
俺は更に斬撃を連続で飛ばし、残ったマッドウルフの首も撥ねてみせた。
すると、再び困惑したコメントでチャット欄が加速し始める。
流石に立て続けに見せつけられたことで懐疑的なコメントは鳴りを潜め、代わりに——、
”ちょっと待て、この冒険者あれじゃない?”
”まさか、サイレンスアサシン……?”
”いやいや、流石にそれはないだろ”
”え!? 四葉ちゃん、まさかサイレンスアサシン見つけたの!?”
徐々にではあるが、俺の正体に勘づくコメントが見受けられるようになる。
まあ、噂のサイレンスアサシンと攻撃の特徴が一致しているわけだし、結びついてもなんらおかしくないか。
それにこの戦い方を見せれば、バレるのは時間の問題だったはずだ。
だとしても、自分から「俺が噂のサイレンスアサシンだ」なんてつもりはないけどな。
[俺からはカミングアウトしなくていいんだよな?]
念の為、当初の予定で行くかカメラに映らないように見せて確認を取れば、天頼は何故か上機嫌そうに小さく頷くのだった。




