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一般冒険者の日常

 剣城(つるぎ)鋼理(こうり)、十七歳。

 職業、高校生兼一般冒険者。


「……はあ〜、詰んだ。終わった。死んだな、俺」


 どうやら今日は、俺の——命日になりそうだ。






 世界各地に”ダンジョン”なるものが現れてから数十年。

 それに伴って人類には魔力が顕現し、魔術やスキルと呼ばれる異能を扱う人間も出てくるようになった。


 まさに絵に描いたようなファンタジーの世界が現実を侵食するようになって、世界情勢は大分変わったという。


 世界中が混沌に包まれたのは言わずもがな、最初はダンジョン内から出現するモンスターの対処に追われていたらしい。

 数年を要して防衛が落ち着いてからは、逆に人類がダンジョンの中に足を踏み入れるようになり、今ではダンジョン内を探索し、資源を持ち帰る”冒険者”が一つの職業と認められるようになった。

 更にここ数年は、ダンジョンで探索する様子をネット上で公開する”ダンジョン配信”が人気を呼び、一大ジャンルを築くようになっていた。


 とはいえ、配信で有名になるような人間は、総じて派手な術式や強力なスキルを持つ人間が大半だ。


 炎や雷、氷などの自然現象を高いレベルで操れる。

 超絶技巧の大技や見栄えの良い戦い方が出来る。

 ただただ肉体のスペックが桁外れに高い……etc.


 動画が伸びたり、配信中の視聴数、チャンネル登録者数を増やせることが出来るのは、そういう()()()を引けた一部の人間だけだ。

 中には配信者のキャラクター性で人気を獲得する場合もあるけど、それ以外の冒険者は、モンスターの素材やダンジョン内に自生する植物や鉱物、モンスターから回収できる”魔石”をせっせと集めて売ることで生計を立てている。


 それでも食っていくには困らない程度には稼げるし、そもそも冒険者になれるだけでも十分選ばれている側の人間だ。


 ——だとしても、冒険者ほど才能が物を言う業界もねえよなあ。


 魔力量、術式、スキル。

 それらは生まれつき肉体に刻まれていて、単純な努力だけではどうやっても覆せない部分が多いからこそ、ダンジョン配信者は羨望の対象になっているのだと思う。


「ま、俺には縁のない話だけど……な!」


 洞窟の中に鬱蒼とした森林が広がる異様な光景が特徴の池袋ダンジョン。

 別名”森のダンジョン”——第三層。


 俺は木陰に身を隠しながらサバイバルナイフを振り上げ、地面を薙ぐ。

 瞬間——繰り出した斬撃が地面を這い、数十メートル先にいる二足歩行型の豚みたいな頭部を持つモンスター……オークに迫ると、足元を伝って首を斬り裂いた。


「よし、決まった……!」


 地面に倒れるオークを眺めながら、ぐっと拳を握り締める。

 周りにまだ何体か別個体のオークがいるが、俺に気づいている様子はない。


 ここなら居場所がバレることは無いだろうが、奴らはかなり鼻が利く。

 念の為、もう少し距離を取っておくか。


 姿を隠しながら、毎回少しずつ位置を変えながら、地面を這う斬撃を放つのを何度も繰り返し、一体ずつ確実に仕留めていく。

 やがて、全てのオークの首をぶった斬ったことを確認してから俺は、慎重にオークの元へと駆け寄った。


「……うん、ちゃんと倒せてるな。じゃあ、さっさと魔石だけ回収して撤収するか」


 遠隔斬撃——これが俺のスキルだ。

 スキルが発現した当初、遠くから敵を斬れるとか最強じゃね!? とか舞い上がったものだが、ちょっと冷静になって考えれば雑魚スキルとは言わずとも、とても微妙なスキルだという事に気がついてしまった。


 確かに離れた位置から斬撃を飛ばせるのは便利だ。

 でも別にスキルを使ったからって攻撃の威力が上がるわけでもないし、遠くから攻撃するなら普通に銃一つ……なんなら弓矢で事足りるし、そっちの方が威力もある。

 

 加えて俺の戦い方は、基本こそこそ物陰に隠れて、安全な場所から一方的に敵を狩るド陰キャ戦法だ。

 やり方が陰湿過ぎてとてもじゃないが人様にお見せできるようなものじゃない。

 仮にこのスキルを売りに配信をしたとしても、まず映える映像を撮れることはないだろう。


 そもそも俺自身そんな強い部類じゃないしな。


 まあでも、地味で結構。

 配信なんかしなくても普通にバイトするよりは大金を稼げるし、今の戦い方ならわざわざ前に出なくても良いから怪我するリスクも抑えられる。


「よし、こんくらい集めれば十分だろ」


 亡骸から魔石を回収したところで、俺は地上に戻ろうと踵を返す。

 それからすぐの事だった。


 ——突如として足元が光りだす。


「……え?」


 途端、視界が真っ白に染まり——気が付いた時には、周りの風景がガラッと変わっていた。


 青々とした森から一転、荒れ果てた地面に草木一つ生えない枯れた森。

 生命の欠片すら感じさせないその光景は、俺を瞬時に絶望の淵に叩き落とした。


「ここ……ダンジョン下層じゃねえか」

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