お前も妻にならないか 〜悪役令嬢を婚約破棄してザマァされる王子に転生した俺が破滅回避するためのたったひとつの冴えたやり方〜
俺は賢人。日本人のありふれた会社員だ。正確にはだったと言うべきか。
気づくとアニメの王子、キランに転生していた。
これはいわゆる、「乙女ゲームの悪役令嬢に転生した女性が、婚約破棄宣言してきた婚約者にザマァする系」の物語だ。
姉貴がリビングで鬼リピートしていたアニメなんだが、キランって変な名前ーと思っていたから覚えている。
そして前世の記憶を取り戻したタイミングが最悪だった。
今日は婚約破棄イベントの前日なのだ。
アニメのシナリオ通りだと、俺は明日、学園の卒業パーティーで、婚約者である令嬢ローズマリーに婚約破棄宣言&ゲームの主人公リエラと結婚したい宣言をする。
結果、両親や臣下たちを失望させ、王位継承権を失い、僻地で農夫になる。
前世非モテだった俺。ハイスペックな王子に転生したのにザマァされて農夫エンドなんて嫌だ。
そもそもだ。
婚約者のローズマリーは侯爵令嬢で、しかも顔がいい。俺が大ファンの女優にうり二つ。つまり、黙っていれば自動的に女優と結婚できる勝ち組だ。
婚約破棄する理由が見つからない。
そして男爵庶子でゲーム主人公というポジションのリエラは、おっぱいがでかい。メロンを通り越してスイカップ。目算Gカップはある。
リエラと結婚できたら毎日あのおっぱいを揉んでGカップに挟まれて眠れるんだ。
ローズマリーとリエラ、片方だけなんて選べん。
そうだ、婚約破棄ではなく、二人とも嫁にすれば解決するじゃないか!
異世界転生ものでハーレムは鉄板だからな!
そしてきたるパーティー当夜。
俺はローズマリーとリエラたん、二人を前にして話をする。
「今日はローズマリーとリエラに大事な話があるんだ」
ローズマリーは眉をひそめ、リエラは静かにキランを見つめた。
「俺は卒業後に、予定通りローズマリーと結婚する」
「ええ、そうですわね。お父様たちが決めたことです」
ローズマリーは頷く。
「あの、殿下……? なぜ私も呼ばれたのでしょう」
「リエラ。俺はリエラのことも好きなんだ。つまり……お前も妻にならないか。ローズマリーとリエラ、二人ともが俺の妻になるんだ。これで解決、みんな幸せだ!」
瞬間、広間は静まり返った。次の瞬間、ローズマリーは顔を赤くして叫んだ。
「何を馬鹿なことを仰っているの!? 二股を認めさせようと提案するなんて、わたくしを侮辱しているのですか?」
リエラも、喜んでくれるかと思いきや青ざめている。
「殿下、私は男爵家の末子ですが、庶出です。そんな私が側室になんてなれるわけありません。それに側室は、他国でなら二人まで持てますが我が国で認められていません。ローズマリー様に失礼だと思います。冗談はやめてください」
あれー? なんで二人ともがNOって言ってるんだ。
俺の予定では俺の懐の深さに感激して二人が抱きついてくるところだぞ。
「いや、これは本気の提案だ。俺はローズマリーとリエラ二人とも好きなんだ。片方だけを選べない」
ローズマリーは俺を遮った。
「もう結構です。一夫一妻制の国の王子が、重婚を提案するなんて。本当はわたくしを妻にしたくないからそのようなことを仰るのね? お父様と陛下に、『キラン様はわたくしとの結婚が本意ではないようだ』とお伝えします。ごきげんよう。もう会うこともないでしょう」
口元を扇でかくして、広間を去った。
リエラはお辞儀して立ち去る。
「殿下、私も失礼します。ごきげんよう」
二人が出ていき、俺は広間に残された。
まわりにいた生徒たちは遠巻きに俺を見て、近づこうとしない。
俺は振られただけでなく継承権剥奪の上で農村行きが決定。
王位は弟が継ぐことになった。
というわけで俺は今、毎日雇われ農夫として畑で野菜を育てて生活している。
スイカおっぱいをモミモミ生活するはずだったのに、自分のこった肩を揉む日々。
「どうしてこうなった」
余談だが、ローズマリーとリエラは学園卒業後、それぞれ誠実な男性と結婚して幸せになったらしい。
二人と結婚できた男よ、その場所を代わってくれ。
END