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◆3-2 探し物



 昼休みの終わり。

 レネアは学習用カバンの中身が足りないことに気づいた。


 筆記具と教科書、提出用のレポートを入れているカバン。

 そこには、いつもお守りのようにして手帳が一冊入っている。


 その手帳と、この間手渡された私的な『課題』のレポートが、そっくり抜けていた。


 ハッとしたように周囲を見渡す。

 小さく笑い合う取り巻きと、素知らぬ顔をしたエルナンドが、此方をチラチラと見ていた。


 アンディ・エルナンドは最近、兎にも角にもイラついている。


 原因は明白。

 初回の授業以降も、『例の魔術教師』には全く堪えたところがないからだ。


 エルナンドはいつも、都合の良いストレス発散としてレネアを使う。

 今日は、リディアが神殿の呼び出しで居なかった。


 鞄を荒らされた理由を挙げるなら、ただそれだけのことだろう。

 

 レネアが鞄から目を離したのは、ほんの少しの間だ。

 先週出したレポートについて、歴史学の教師が『記名がされていない』と確認しに来た時だけ。


 これが嫌だから、普段は少し離れるにしても鞄は持ち歩くようにしているけれど。

 一日中、学期の間ずっと気を張って過ごすだなんて無理な話だ。


 再度カバンの中身を確かめ直したレネアは、両手で握り拳の形を作る。

 深呼吸を一つ。


「エルナンド、返して」


 紛れもない断定だった。

 差し出した手は微かに震えているが、放たれた言葉は強く、鋭い。


 取り巻きの女生徒と冗談を交わし合っていたエルナンドは、不愉快そうに眉を寄せた。


「なんだ? 僕がやったっていう証拠でもあるのかよ! やだねえ、出来損ないは人を疑ってばかりで」

「返して」

「……だから、知らねえっつってんだろ! 誰があんな薄汚い手帳なんか盗むかよ!」

「手帳なんて言ってないけど」


 エルナンドからは舌打ちが返ってきた。

 その後方で、魔導書を読み耽っていたイサークが呆れたように額を手で押さえて俯いている。


 この通り、エルナンドは顔も良いし魔法も得意だが、若干頭がよろしくない。

 ついでに言えば、自白をしたところで痛くも痒くもない──というのもこの迂闊さに関係しているだろう。


 レネアにとっては、ある意味都合のいい話ではあった。

 被害に遭っている以上、そもそもとして前提がよろしくない話だが。


「返して、泥棒」

「はあ!? 誰が泥棒だよ! お前のものなんて盗んだところで僕になんのメリットがあるんだか!」


 エルナンドが、苛立たしげに立ち上がる。

 その場を離れようとした彼の腕を、レネアは思わず掴んでいた。


「返してよ、大事なものなの」


 エルナンドの碧眼が、やや狼狽えたように見開かれる。


「はっ、離せよ!!」

「きゃっ」


 大袈裟すぎるほどの勢いで振り払ったエルナンドのせいで、レネアは後方によろめいた。

 後ろにある机の端に手を突くことで、なんとか体勢を立て直す。


「行くぞ、イサーク!」

「……はいはい」


 本を閉じ、エルナンドの後ろへと着いていくイサークが、ほんの一瞬レネアを見やる。

 緋色の瞳に浮かぶのは、確かに憐れみと同情だった。



 エルナンド一派が教室を出た後。

 弁当を広げていた一人の女子生徒──ソフィー・アンバーが、そっとレネアの袖を引いた。


「多分、集積所にあると思う。さっき、用務員さんがゴミの回収してたから……」


 振り返る。ソフィーの顔には、なんとも言えない気まずさが滲んでいた。

 止めることは出来ないが、ただ見過ごすのも居心地が悪い。

 そんな顔だ。


 レネアはそっと、微かに痛みの滲む笑みを浮かべた。


「ありがとう。探してみる」

「ううん。……ごめんね」


 小さく謝罪を口にした彼女は、それきりレネアと目を合わせることはなかった。

 彼女の父親は、エルナンド家が関わる系列の工場で勤務している。

 あまり表立って庇うことなど出来ないのだろう。


 俯く彼女に、レネアはもう一度礼を言ってから、ひとまず購買へと向かった。


 学園には焼却炉があるが、生徒の立ち入りは固く禁じられている。

 中を見せてもらうには、管理人に話を通す必要がある。


 今すぐ探しに行きたいが、昼休みだけでは時間が足りない。


 焼却日は明日だ。

 今日中に見つけなければ、


 結局、午後の授業は、碌に集中出来なかった。

 そのおかげで、目をつけられているドリエルチェの嫌味も頭に入らなかったくらいだ。



    *   *   *


 

 放課後。

 集積所まで来たレネアは、管理人に許可を貰うと、ゴミ袋を丁寧に探った。


「……面倒だから、下校時間までにしてくれな」

「はい、すみません。ありがとうございます」


 私的な課題だから、レポートは書き直せば良い。

 先生も、急かしたりはしないだろう。


 でも手帳だけは放っておく訳にはいかない。

 あの手帳は、入学の時に祝いとしてリディアと贈り合った品である。


 特殊な魔法がかかっていて、設定した以外の魔素では開かない。

 ヒトの魔素は固有なので、一種の鍵代わりということだ。


 レネアは魔素が作れない訳ではない。

 とても少なくて、使い勝手が悪いと言うだけで。

 手帳を開く度に、確かに自分にも魔素が作れるのだと感じられるのは、微かだけれど自信につながっていた。


 何より、大事な妹が一生懸命選んで送ってくれたプレゼントだ。

 他の何にも代え難い、大切な品である。

 絶対に見つけ出したい。


 けれども、膨大なゴミの山から探し切れる気はしなかった。

 管理人は許容はしてくれるが、面倒を嫌って生徒の問題事には無関心な老魔法使いだ。

 きっと、手伝ってくれたりはしないだろう。


 時間ばかりが過ぎる。

 段々と、レネアの顔から希望の色が失われていく。


 瞬きが増え、潤んだ瞳から涙が零れ落ちかけたその時。


「……ルクシュタインさん? どうかしたんですか」


 顔を上げる。

 そこには黒兎(ドライ)を抱えたヴァルターが居た。

 予想しなかった人物に、レネアは素っ頓狂な声を上げる。


「せ、先生! 先生こそ、どうしてこんなところに……?」

「あー……学園内の配置を覚えようかと思って、歩いて回っているんです。方向音痴なもので。

 特別教科以外は教師が教室に向かわないとならないので、結構大変でしょう?」


 そう言って笑う声に、レネアも曖昧な笑みを浮かべる。


 そのまま立ち去るかのように思えたヴァルターだったが、蹲るレネアを見下ろして言った。


「……探し物ですか?」

「はい! あっ、いえ……!」


 頷いてから、咄嗟に首を横に振る。


 どうしてこんなところで探し物をしているのか。

 察しの良いヴァルターならすぐに気づくことだろう。


 虐められているのだ、と知られたくなかった。

 もちろん、ヴァルターは教師であるのだから、学園に『出来損ないの神子』がいることくらい聞いているだろう。

 それが教室内でどんな扱いを受けているのかも。


 でも、目の当たりにされて、事実として認識されるのは別だ。


 助けを求めたい気持ちと、言えない気持ち。

 両方を抱えて身動きが取れなくなったレネアに、ヴァルターはあくまでも変わらぬ調子で微笑んだ。


「何を失くしたのか教えて頂いても? 孤児院育ちなもので、ゴミ漁りは割と得意ですよ」


 さらっと、なんてことはない口調で付け足された言葉に、レネアは思わずじっとヴァルターを見つめてしまう。

 ヴァルターは肩を竦めると、抱えていたドライを頭に乗せながら続けた。


「ああ。王都だと割と整備されて、そんな酷い環境の孤児院は少ないですよね。うちはちょっと、食料調達も自力な面が多かったもので。

 ゴミ漁りの年季が違いますから、きっと力になれると思いますよ」


 あっさりとした口調に、気づけばレネアの身体からも力が抜けていた。

 するりと、こぼれ落ちるように呟く。


「あの……先生からの追加課題と、あと、手帳を……」

「成程。サイズと色も教えて頂けると助かりますが……もしかして、魔術の課題をしていたせいですか?」

「え?」

「魔法科の生徒が魔術に関わったために、理不尽な嫌がらせを受けてしまったのでは?」


 ヴァルターは、レネアに目線を合わせるように腰を下ろして尋ねた。

 眉根が僅かに寄っている。その表情が迷惑をかけていないかという心配から浮かんだものであるのは、レネアにもすぐに分かった。


「ち、違うんです! いつものことで! エルナンドがちょっと、虫の居所が悪かっただけなんです!」

「だとしたら、やっぱり私が与えた課題のせいでしょう。彼は魔術師が大層お嫌いなようですから」

「違います! エルナンドは、その、魔法も魔術も関係なくてっ、個人的に私が嫌いなんです! 先生のことは関係がないです!」

「それはまた、どうして?」


 慌てた様子で言葉を重ねるレネアに、ヴァルターは単純な疑問をぶつける。

 混乱した様子の彼女は、ワタワタと手を振りながら弁明のように答えた。


「む、昔に、低学年の時に、家の都合で婚約を結ばれそうになって……私がどうしても嫌だと断ったから、それ以来、前よりも酷い扱いをされるようになって……!」

「前よりも、ということは初めから酷い扱いではあった、と」

「……エルナンドは出会った頃からあんな感じ、というか、……昔はもっと、その、別方向に酷かった、というか……」

「あー、クソガキだったんですね」

「ク、……えっと……はい」


 反論の言葉を見つけようとして、結果として失敗したらしい。

 レネアは弱々しく頷いた。


「……エルナンドは、とにかく自分の思い通りにならないのが我慢できないんです。だからいつも、あんな態度でいて……すごく、嫌で……」


 その表情からは、エルナンドを心底苦手に思っているのがよく分かる。

 もはや、恐怖と嫌悪に近い。


 そして、対面に屈むヴァルターは、静かに何事かを察した。

 へー。ほーん。ふーん。なるほどね、と。

 ただ、その場でわざわざそれ(・・)を口に出すような真似はしなかった。


「きっかけは何であれ、困っているのは確かでしょう? 魔法学科の先生は……まあ、あんまり頼りにならないようですから。ここは一つ、私が手を貸しましょう」

「で、でも。いいんですか? 先生、私と一緒にいると……困るんじゃ……」


 出来損ないとはいえ『神子』が『魔術師』と親しくするのは、あまり良い顔をされない。

 故にレネアは、学園内では接触を控えるつもりだった。

 せっかく出会えた素晴らしい魔術の先生に、迷惑をかけたくはないからだ。


 不安に思って呟いたレネアに、ヴァルターはあっさりとした声で言った。


「そりゃあ、意味もなく一緒に居たら困りますが。この場合は管理人さんにも話を通してありますし、探し物という名目もありますし。それにすぐ見つかりますから、時間もかかりません。心配ないですよ」


 言うや否や、ヴァルターは山のように重なった袋の中から一つ選んだ。

 慣れた手つきで漁った彼の手に、見慣れた手帳が握られている。


「これですか?」

「そ、それです!」


 深く艶やかな色合いの革表紙。

 揃いでつけた銀色の羽根を模したチャーム。

 ホルダーに差したままの万年筆。


 一緒に放り込まれた雑多なもののせいで、少し汚れてしまっている。

 だが、それは確かにレネアの大切な手帳であった。


「ありがとうございます……!」


 感激から目を潤ませて手を伸ばす。

 しかして、ヴァルターはさっと手帳を持ち上げた。

 鈍色の瞳が、驚いたように幾度か瞬く。


「汚れてしまってますから、浄化の魔術をかけておきますね」

「えっ、そんな、そこまでしてもらう訳には……!」


 探し出して貰っただけでも十分過ぎるほどである。

 申し訳なさに縮こまりながら、中途半端な位置で手を止めたレネアに、ヴァルターは小さく笑った。


「【浄化(クエント)】」


 レネアの目の前で、鮮やかに魔述式が展開する。

 瞬く間に、手帳は前と変わらぬ美しさを取り戻した。


「すごい……」


 呟きに返事を返すかのように、頭上のドライが、僅かにぷう、と鳴く。

 鳴き声に釣られて目を上げたところで、対面のヴァルターが明るい声を出した。


「はい、では問題です」

「えっ?」

「【浄化(クエント)】は確かに汚れを落としますが、人体に対する干渉と無機物への干渉では効果が異なります。法則性の発見者の名は?」

「えっ、あっ、レ、レイドリック・プラメラスキー……?」

「大正解です。では景品として、身体にもかけて差し上げましょう」


 唐突すぎる。

 目を白黒させながら受け取った手帳を見下ろすレネアに、ヴァルターはついでとばかりに再度【浄化】をかけた。

 それがゴミ捨て場を漁ったせいですっかり汚れてしまったレネアを気遣ってのものであることには、すぐに気づいた。

 そもそも、このやり取りの何もかもが、気遣いの一つなのだろう。


「先程おさらいした通り、これは応急処置みたいなものなので。自宅……寮かな? とにかく、戻ったらちゃんと身を清めてゆっくりしてくださいね」

「はい。ありがとうございます」


 ではこれで、と踵を返そうとしたヴァルターを、レネアは思わず呼び止めていた。


「あ、あのっ、先生」

「はい? なんでしょう」

「えっと……」


 不思議そうに首を傾けるヴァルターの頭上で、ドライも一緒に首を傾げている。


「ど、どうして今日は態度が丁寧なんですか……」


 なんだろう。もっと違うことが聞きたかった筈なのに。

 レネアの口から出たのは、休日に出会った時との態度の違いについてだった。


 意外な言葉をかけられたかのように目を瞬かせていたヴァルターが、ふっと微笑む。

 同い年だと気付かされるような、悪戯じみた少年の顔だった。


「今は仕事中ですからね。アレは休日限定です」


 軽やかに告げたヴァルターに、レネアもぎこちなく笑みを浮かべる。

 自分の顔が変に赤くなっていないか、それだけが心配だった。


 どうしよう。

 心臓がものすごく痛い。


 レネアは綺麗になった手帳を抱きしめたまま、いつまでもヴァルターの背を見つめていた。



    *   *   *



 王立魔法学園(メーティス)には学科ごとに学生寮が存在するが、入寮は希望制である。


 寮生は全学生の六割程度だ。

 実家の方が過ごしやすい、というものも少なくない。


 基本的には実家が遠く、通いづらい者が入寮している。


 学科ごとに立地が異なり、上位の富裕層は更に良い部屋が個別に与えられている。

 

 神子であるレネアとリディアには、歴代の神子が使っていたのと同じ屋敷が与えられていた。


 祈りのために、王都の教会へ向かいやすい立地に建ててある。

 二人の他には、寮母とも呼べる使用人の女性が一人住んでいるだけだ。


 両親は、二人の入学時に療養のため南方の港町へと越していった。

 貴族の身分も持たず神子を孕った母は、周囲の期待という重圧に耐えきれず、少し精神を病んでしまった時期がある。

 その対処法が、王都を離れての療養だ。


 誰が悪いとも言えない状況で離れただけなので、家族仲は至って良好である。

 長期休暇の際は、両親の方から会いに来てくれるくらいだ。


 次に会えるとしたら夏休みかな……。

 なんて思いながら、レネアは何処かぼんやりとした顔で屋敷へと戻った。


 玄関扉を開ける。

 途端、上階から慌てた足音が響いた。


「姉さん! 今日、エルナンドがまた酷いことやらかしたんだって!?」


 リディアは、飛びつくような勢いでレネアを出迎えた。

 神子のお役目で整えたらしい髪も、すっかり乱れてしまっている。


「えっ? あ、ああ……だ、誰かに聞いたの?」

「……イリスタが教えてくれた」


 ロマノ・イリスタは、教室内では中立の立ち位置にいる男子生徒だ。

 表立って双子を庇うようなこともないが、エルナンドの派閥に入ることもない。

 貧乏伯爵家の出だが、貴族としての歴史だけは確かなので、命令されようとのらりくらりとかわしている。


 補講の申請で学園に立ち寄ったリディアに、たまたま顔を合わせたイリスタが教えてくれたそうだ。


「ごめん……私がいたら良かったのに……」

「そんな顔しないで。悪いのはエルナンドで、リディはきちんと仕事をしてきただけなんだから。式典の準備もあるし、他にも神子の仕事もあるでしょ?」

「けど……」


 本来はレネアも同様にこなす筈の仕事だ。

 神子の仕事では、どうしたってシルフ様の象徴である風の魔法を使う必要がある。

 失敗などしたら、それこそ本当に目も当てられないのだ。レネアには、神子の役目は到底上手くこなせない。


 神殿はリディアには目をかけているが、やはり双方が揃っていない為か、都合よく使っているばかりで敬意はない。

 大事な妹を、そんな場所にひとりで送り出している。

 むしろレネアの方こそ、申し訳なさを感じるばかりだ。


「本当にいいの、気にしないで。手帳も無事に戻ってきたし」

「そうなんだ? 良かった、見つかって」

「うん、先生が見つけてくれたんだ」

「先生って、サーキスタ先生?」


 きょとんとした顔で名前が上げられる。

 学園でレネアに親切にしてくれるような者は、悲しいことにそう多くはない。

 それも『先生』となると。

 リディアに思い当たるのはラフル・サーキスタくらいだった。


「あ。えっと、ヘルエス先生……」


 レネアは手帳を握りしめたまま、俯きながら答えた。

 その頬は薄く紅潮し、目線は動揺に揺れている。


 ほう、とリディアは思った。

 玄人の顔である。

 いや、まあ、彼女もさして恋愛経験があるわけでもないのだが。


 しかして。

 恋愛小説は姉より十倍は読んでいる自負があった。


 何より、初恋もまだ(・・)の姉よりは男女の機微に聡い自信はある。


 ついでにザマーミロとも思った。

 ざまあみろ、アンディ・エルナンド。

 と、確かに思った。


 リディアは満面の笑みを浮かべる。


「そっか。ヘルエス先生って優しいんだね」

「そうなの! 優しいけど、でも全然、私のこと、可哀想だなんて思っていない態度でいてくれて。嬉しかったな……」


 心の底から喜んでいる姉の顔を見つめながら、リディアはそっと吐息をこぼす。

 眩しくて愛おしいものを目の当たりにした時の、抑えきれない感情を吐き出す為の仕草だ。


「ところで姉さん。先にお風呂入ってきたら?」

「え。あ! に、臭う!?」

「……うーん、ちょっと」

「やっぱり!? ごめん、臭くて!」


 【浄化】は、やはり人体には完璧に作用しないのだ。


 小さく悲鳴を上げたレネアは、慌てて荷物を置きに私室へと向かった。

 姉の背を見送りながら、リディアは小さく呟く。


「……ヘルエス先生か。……なんだろう、今日親切にされたから、ってだけじゃなさそうだったな」


 ちょっとした疑問は、そのまま空気に溶け消えた。



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