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容疑者エレノア? 3

翌朝目が覚めても、エレノアの環境は変わっておらず絶望的な気分で出された朝食を食べる。


思ったほどまずくはない食事を完食し特にやることも無くベッドの上でゴロゴロしていると騎士から親が面会に来たと知らせが入った。


冷たい廊下を歩き、面会室へと行くと待っていた母親ヘレンがエレノアの姿を見て泣き出した。


「あなた、王子をやったの?誰にも言うなって言われたけれど家族にだけは貴方の容疑を教えてもらったのよ」


「やってないわ」


親まで自分を疑うのかと怒りながらヘレンの前へと座る。


「でも、私に嘘をついてホテルに行くなんて。そんな子に育てた覚えはないわ」


それに関しては母の言う通りだとエレノアは返す言葉も無い。


「反省しているわ。アドルフにも怒られたし」


しょんぼりしているエレノアにヘレンはハンカチで涙を拭いながら頷いた。


「アドルフ君が大丈夫だからってわざわざうちに来て言ってくれたわ。頼りになるわね」


「そうね」


「娘に差し入れをする日が来るなんて……情けないったらないわね。アドルフ君はすぐにここから出られると言ったけれど、一応着替えを持ってきたわ。あと本も差し入れできるっていうから占いの本を持ってきたわ。好きなものを読んで少しでも元気になりなさいね」


泣きながらヘレンは風呂敷に包まれた荷物を机に置いた。

星占いと書かれた本をエレノアはペラペラと捲る。

新しいインクの匂いとすべすべした表紙の肌触りにわざわざ新しいものを飼ってきてくれたのだろうか。


「私の部屋にはない本ね」


「エレノアの部屋の荷物はほとんど持っていかれたわよ」


「……そうなのね」


一生懸命集めた本や占い道具など、持っていかれたのは惜しい気がするがこうなったら徹底的に調べてほしい。

気落ちしながらエレノアは頷いた。


「そろそろ時間だから、帰るわね。エレノアに変な噂が立たないようにすべて伏せられているってことよ。良かったわね」


「王子は本当に亡くなったの?」


幻滅はしたが、あの美しい人が死んでしまったのだろうかとエレノアが聞くとヘレンは首を振った。


「解らないわ。私も、アドルフ君と騎士の人達に話を聞いただけだから詳しい話は聞いていないの。ただ、新聞などには事件の事は載っていないわ」


「そうなのね」


知った人が死んだのは悲しいが、それ以上に自分の立場が辛すぎて王子を労わる気持ちはわいてこない。


(酷い人間なのかしらね。私って)


エレノアはしょんぼりしながら立ち上がった。


「ありがとうお母さん。そう言えば、お父さんはどうしたの?」


「ショックで寝込んでいるわよ」


自分も逆の立場だったら寝込んでいるだろうと思いエレノアは頭を下げた。


「お父さんに謝っておいて。あと私はやっていないからね」


「知っているわ、娘を疑うものですか。でもね、疑われる現場に行ったあなたも悪いわよ」


娘を信じてくれる親に感謝しつつ、エレノアは頷く。


「本当、私が馬鹿だったわ」


元気のないエレノアにこれ以上きつく言う事も出来ずヘレンも立ち上がった。


「寒いから風邪をひかないようにね」


「ありがとう」


親のありがたみを感じつつエレノアは牢屋へと戻った。

鉄の扉に鍵がかけられる音を聞き、簡素な椅子に座った。

鉄格子ごしに窓の外を見るとどんよりと曇っており、自分の心のようだと思い机の上にうつ伏す。


「最悪の状況だわ」


殺人容疑を掛けられた令嬢など前代未聞だろう。

唯一の救いは事件が明るみになっていないことだ。

まだ誰もエレノアが容疑者として拘束されていることは知られていないはずだ。

このまま、無実が証明されることをエレノアは祈った。


「アドルフが何かをしてくれるよりも、魔女アグネス様が香水の成分を解析してくれることが一番いいと思うわ」


本に書かれているレシピ通りに作った魅惑の香水を人が死ぬような成分ではないことをアグネスが証明してくれればいいのだ。

きっとそんな難しい事ではないはずだと自分に言い聞かせた。

人が死ぬようなそんな難しい成分が入ったものなど作れるはずが無いのだから。


「大丈夫。私はやっていないもの」


呪文のように唱えて気を紛らわせようとパラパラと本を捲った。

本当なら心を落ち着かせるためにタロットを触りたいところだが生憎、証拠品として回収されている。

星占いの本は内容が難しく、落ち着かない状態では頭に入ってこない。

自分の心を整理する術が無くなりエレノアはまた机の上にうつ伏した。


エレノアが牢屋に入れられて4日後、アドルフがやって来た。


「エレノア、元気か?」


ベッドに横になっていたエレノアは起き上がってアドルフに手を振った。


「元気よ。三食昼寝付きだもの。毎日暇で死んでしまいそうだわ。タロットカードが無いから少し不安で、このまま殺人の犯人にされてしまうのではないかと不安な考えしか出てこない最悪のメンタルよ」


「一応は、元気そうで良かった」


ホッとして笑みを見せるアドルフの後ろには久しぶりに見るジェミー副隊長が手を振っている姿が見えてドアに駆け寄る。


「何か進展はありました?」


「あったよ。待望の魔女アグネスが到着して成分を分析してくれた」


「それで!?私は無実ですよね!」


必死に言うエレノアにジェミーは答えず薄く笑っている。


「なぜ答えてくれないんですか!」


答えをじらすジェミーにイライラしながらエレノアは鉄のドアを軽く揺らした。

アドルフが慌てて間に入ってエレノアを宥める。


「まぁ、まぁ。魔女アグネスがちゃんと成分を分析してエレノアの作った香水には人を殺すような成分は無いと証明してくれたよ」


「良かったー」


安心して力が抜けてへなへなと床に座り込んだ。


「早く開けてください」


アドルフがジェミーにせかすとゆっくりと懐から鍵を取り出して牢屋の扉を開けた。

鍵が開くとアドルフは部屋に入り安堵で座り込んでいるエレノアの腕を掴んでそっと立たせる。


「もう、大丈夫だ」


「このまま殺人犯として処刑されたらどうしようかと思ったわ」


エレノアの言葉にジェミーは肩をすくめる。


「その割にはちゃんとご飯食べて昼寝していたけれどね」


「神経が図太いのはエレノアの良いところだな」


エレノアはちっとも褒められているとは思えず部屋に入ってきたアドルフを睨みつけた。


「酷い。凄いショックだったのに」


「本当のことだろ。エレノアが犯人である可能性はほとんどなくなったという事だ」


アドルフの言葉にエレノア目を細めた。


「犯人である可能背はほとんどなくなった?ですって?」


無罪になったわけではないのかとゆっくりと言うエレノアにアドルフとジェミーは当たり前のように頷いた。


「そりゃ、犯人は見つかっていないからね。今の所怪しいのはエレノアちゃんだよ。凶器が香水じゃなかったという事だ」


ジュミーは面白そうに言った。


「私は王子の事なんて何とも思っていないわよ」


「わかっているよ。とにかく、一応は解放されたんだから家に帰って静かに静養していた方がいいよ」


興奮しているエレノアを慰めるようにアドルフは背中を叩いた。

これ以上エレノアが余計なことを話して犯人だと思われたら厄介だ。


「そうね!自分の部屋に帰りたいわ。占いの本も読みたいし、タロットカードも新しく買わないといけないものね」


「もし、タロットカードを買いに行くのなら俺が付き合うから一人で出かけるなよ」


アドルフに釘を刺されエレノアは頷いた。


「そうね、一人で行動するのは控えるわ」


「頼むよ」


心からのアドルフのお願いにエレノアは頷いた。


「じゃ、さっそくアドルフはエレノアちゃんを送っていくといい。報告書は俺が書いておくからさ」


ジェミーはアドルフの肩を叩いた。


「ありがとうございます」





「本当に、酷い経験をしたわ」


牢屋から解放され、実家までアドルフに送ってもらいながらエレノアは両手を空に伸ばし久しぶりの外に解放感を感じて大きくあくびをする。

アドルフは馬を操りながら前に乗っているエレノアが落ちないかとヒヤヒヤしてしまう。


「しっかり掴まっていろよ。落ちるよ」


「いいじゃない。ものすごい解放感よ。これが娑婆の空気はうまいって事かしらね」


「刑期を終えた犯人じゃないんだから……」


呆れているアドルフにエレノアは青い瞳をキラキラさせて大きく息を吸い込んだ。


「空気が美味しいのよ。閉鎖されたかび臭い空間から解放されたのよ、みんなこうなるわ」


「言うほど悪い部屋じゃなかっただろう?」


ゆっくりと馬を走らせながらアドルフは言った。


「そう言えばそうね」


想像していた牢屋と言うイメージよりは良い環境だったことを思い出してエレノアは頷く。


「もっと、鉄格子だけの何もない部屋で虫が出てきて寒いイメージだったわ。パンもカチカチの冷たいものが出ると思っていたけれど、食事もまぁまぁおいしかったわ」


「一応貴族専用みたいな牢屋と言う名の特別室だからね。ジェミー副隊長もエレノアを本当の犯人だとは思っていなかったという事だ」


「貴族専用の牢屋なんてあったのね」


関心しているエレノアは動きを止めた。


「ちょっと待って、私の事を本当の犯人だって思ってないって言った?」


「言った。まぁ、もしかしたら本当にあの香水が人を殺せる可能性があったし、エレノア以外容疑者がいなかったから特別室に入ってもらったって感じらしい。言っておくけれど、エレノアだって疑われることをしているからね。一人で王子のホテルに行ったり、妙な香水を作ったりしていたから」


「だからって、逮捕しなくてもいいじゃない」


「逮捕はしていないだろう?手錠を掛けられた?」


アドルフに言われてエレノアは首を振った。

確かに、手錠はかけられていない。


「一応、捜査は完璧にしておりますよと言う相手側のパフォーマンスも含まれているよ。令嬢を容疑者として話を聞いたという事実で随分王子の国と信頼関係は築けたって言われたよ」


「私の信頼は地に落ちたわよ。両親に顔向けできないわ」


落ち込むエレノアにアドルフは励ますように少し微笑んだ。


「エレノアを責めない様におじさんと叔母さんには言ってあるから多分大丈夫だと思う。それに、エレノアが参考人として城に呼ばれたことは極秘だから外には漏れていないと思うよ」


「アドルフの言葉を信じるわ」


「でも、エレノア以外今の所容疑者が居ないってことも忘れるなよ」

「あの王子の事だもの、絶対に恨みを持っている女性入るはずよ。殺しならってことだけれども」


王子達がどうやって亡くなったのかわからないので何とも言えない。

エレノアは祈るような気持ちで自宅へと帰宅した。




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