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タロットカードのお告げ 4

人々の熱気でムッとしていた空気が、廊下に出ると少し冷たい。

口煩いアドルフと、人の熱気からは解放されてエレノアは熱を冷まそうと頬に手を当てた。

ヒンヤリとした冷たい指先が今は心地よい。


「そうだった、トイレに行かないと」


早く戻らないとまたアドルフが煩く言ってきそうだとエレノアはトイレへと向かう。

華やいでいた広間を出ると廊下は薄暗く、人通りも疎らだ。

所どころに騎士が護衛のために立っているため、恐怖は無いが人通りが少ない薄暗い廊下を注意深く歩く。

冷たい風に乗って甘すぎるような不思議な匂いがしてエレノアは足を止めた。

臭くは無いが、頭がボーっとするような強い匂いにくらくらしていると誰かが背中に当たってきた。


「あっ」


当たった拍子にエレノアはバランスを崩し廊下に転倒しそうになる。

エレノアの腰を誰かが掴んで、転倒を免れることができた。


「大丈夫かい?僕の不注意だ」


優しくエレノアを気遣う声に腰を支えている人を見上げると、キラキラと輝く笑みを浮かべた美しい男性の姿。

あまりに美しい姿にボーっと見つめていると、男性は苦笑してエレノアから少し離れた。


「怪我は無い?」


「は、はい。ありがとうございます」


美しい男性は、まっすぐな銀色の髪の毛、褐色の肌に瞳の色は薄い灰色。

白い王子様の様な礼服を着ている男性を見てエレノアは目を見開いた。


(隣国の王子様に違いないわ)


絵本から出てきたような綺麗な姿の王子に、釘付けになる。

驚いているエレノアに苦笑しつつ、男性は軽く胸に手を当てた。


「怪我が無くてよかった。僕はハインリッヒ。招待を受けてしばらくこの国に滞在をするからどうぞよろしくね」


「は、はい。エレノア・ランプリングと申します」


スカートを持ち上げて膝を折って挨拶をするエレノアを見てハインリッヒは微笑んだ。


「可愛いお嬢さんだね。もしよかったら、この国を案内してくれると嬉しいな。このホテルに滞在するからよかったら来てね。明日にでも……待っているよ」


囁くように言うと、エレノアの手の平に紙きれを握らせた。


「皆には内緒だからね」


「は、はい」


美しすぎるハインリッヒの姿に夢なのか現実なのかわからなくなり、上の空で答えるエレノアの頬に軽くキスをすると手を振って去って行った。


「凄い。美しかったわ」


ハインリッヒの姿が消えた後も、心臓がドキドキしてボーっとしているエレノアは握らされた紙きれをそっと開いた。


クチャクチャになっている小さな紙には、ホテルの住所と部屋番号が書かれている。


「お誘いされちゃったわ。やっぱりタロットカードは嘘つかないのよ」


渡された紙から漂ってくる甘ったるい匂いをエレノアは大きく吸い込んだ。


「いい匂いー」




トイレを済ませて会場に戻ると、険しい顔をしたアドルフが待ち構えていた。

入口に立っているアドルフは腕を組んでエレノアを睨みつける。


「遅い」


「女性のトイレの長さを指摘するなんて、失礼ね」


先ほど会ったハインリッヒとは大違いだとエレノアは唇を尖らせる。

アドルフも顔は良いが、ハインリッヒは美しすぎる男性だった。

気品も匂いも素敵だったとうっとりしているエレノアにアドルフは鋭い目を向ける。


「何かあったな!」


顔を赤くしてうっとりしているエレノアの腕を掴むと、ポロリと小さな紙が床に落ちた。

慌てて拾おうとするエレノアよりも早くアドルフが紙を拾い上げた。

クチャクチャの紙を広げて書かれている内容を確認すると、アドルフは紙を細かく破り始めた。


「何をするのよ!」


「ハインリッヒ王子と会ったのか?」


ギロリと睨まれてエレノアは思わず頷いてしまう。


「偶然、廊下で会ったわ」


「あの王子は女にだらしがないんだ。この滞在しているホテルに行ったら酷い目にあうぞ」


アドルフには関係ないじゃないという言葉を飲み込んでエレノアは唇を尖らせた。


「王子は私の事可愛いって言ってくれたわ。真実の愛かもしれないじゃない」


「お前は馬鹿か。あの王子は女性には誰でもそう言うんだよ。絶対に行くなよ!」


「……アドルフが紙を破いたから行きたくても行かれないわ」


不満そうに言うエレノアに満足したのか、アドルフは頷いて細かく破いた紙をポケットに突っ込んだ。

恨めしそうにアドルフのポケットを見つめるエレノアにアドルフはため息をついた。


「俺は今日夜勤だから、午後にエレノアの家に行くよ」


「どうして?」


「久々に会って話したいことができたから」


これ以上話すことがあるだろうかとエレノアは首を傾けた。


「あら、こんなところに居たの?」


会場から出てきたエレノアの両親がやっと見つけたと声を掛けてきた。


「お久しぶりです。叔父様、おば様」


先ほどまでエレノアを睨みつけていたアドルフは人のいい笑みを浮かべてエレノアの両親に挨拶をする。

先ほどまで怒っていた人とは思えない態度に、大人になったのだなと妙な所でアドルフの成長を感じてしまう。


「あら?もしかしてアドルフ君?大きくなったわね」


騎士姿のアドルフに驚きつつ、ヘレンが懐かしそうに声を掛けるとアドルフは頭を下げた。

「はい。久しぶりにエレノアと会って話が弾んでしまいました」


「まぁ、そうなのね。騎士になったと聞いていたけれど、立派になって。ウチの娘とは大違いね。毎日、アドルフ君に貰ったタロットカードを使っていて困ったものだわ」


ヘレンの言葉にアドルフは苦笑した。


「先ほど伺いました。まさかこんなに占いにのめり込んでいたなんて驚きました」


「そうでしょう?だからお嫁に行かれないのよね」


アランは頷いてエレノアをちらりと見た。

占の話と結婚の話をされると少し居心地が悪くエレノアは顔を逸らした。


「エレノアともっと話がしたいのですが僕はまだ勤務中なので、明日お伺いしてもよろしいですか?」


「もちろんよ!ぜひいらして」


「ありがとうございます」


自分を抜かしてどんどん話が進んでいくのを眺めながらエレノアはバッグの中をゴソゴソとあさりタロットカードを指先だけでなぞる。


(明日、ハインリッヒ王子に会いに行ってもいいですか?)


心の中でタロットに尋ねながら取り出した一枚のカードを眺める。

心臓に三本の剣が突き刺さっている絵にエレノアは顔をしかめた。


(最悪のカードが出たわ)


エレノアの長い占い人生の中でこのカードが出た時はだいたい最悪の時だ。

良い事があったことは無い。

タロットカードを眺めているエレノアは、はっとして自分を無言で見つめているアドルフと両親に気づき慌てて頷いた。


「えっと、明日楽しみね?」


「占いから少し離した方がいいと思う」


アドルフが呟くと、ヘレンは大きく頷いた。




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