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タロットカードのお告げ 3


背後にアドルフ、正面には可愛いパトリシア姫と大きな体をしたオーランドに挟まれてエレノアは引きつった笑みを浮かべた。

パトリシア姫と言う最上級の位の相手と話さないといけない状況に社交界を避けてきたエレノアはどう接したらいいかと途方にくれる。


王室と関わることなど一生無いと思っていただけに対応の仕方が分からない。

失礼があってはいけないというプレッシャーで体が硬くなる。


助けを求めるようにアドルフに視線を送るが、彼はそ知らぬふりして直立不動で前を見つめている。騎士としては100点満点の態度だが、エレノアにとっては幼馴染として助けてほしかった。

アドルフは助けにならないと諦めてエレノアは精一杯愛想のいい笑みを浮かべてパトリシア姫と向き合った。


「申し訳ございません、こういう場が苦手なもので」


笑みを浮かべながらも困ったように言うエレノアにパトリシア姫は意味ありげな顔でエレノアを見てからアドルフに視線を向けた。


「エレノア嬢が珍しく夜会に来たという事は、いい人を探しに来たのかしら?」


「恥ずかしながら、そうです」


エレノアが頷くと、パトリシア姫は満足したよう頷く。


「そうなの。誰かいい人がいまして?」


「まだ来たばかりなので……」


責めるような瞳で見つめられてエレノアは息が詰まりそうになりながら答えた。

誰かを見つける前にアドルフを見つけてしまったのだ。


めぼしい人なんて見つけている暇はと考えていた時に、エレノアは閃いた。


「そういえば、スイ国の王子が今日こちらに来られるとお伺いをしたのですが」


目を輝かせて言うエレノアにパトリシア姫は苦笑して頷いた。


「いらしているわよ。ただ、少し女と良い噂を聞かない人だから近づかない方がいいと思うわ」


「来ているのですね!」


やっぱり来ているんだとエレノアは喜んであたりをキョロキョロと見回すが姿は見えない。

そんなエレノアにパトリシアはクスクスと笑っている。


「そのうち会場にも現れるでしょう。では、私はこれで失礼しますわね。どうぞ、パーティーをお楽しみくださいな」


「はい、ありがとうございます」


エレノアが頭を下げると、パトリシア姫はオーランドと腕を組んで去って行った。

二人の姿が見えなくなると、アドルフが大きく息を吐いた。


「緊張した」


「緊張したのは私の方よ。アドルフってば気配を消して銅像のように動かないのだもの。酷いわ。助けてくれてもいいじゃない」


エレノアが頬を膨らませて怒る姿を見てアドルフはなぜか少し笑っている。

馬鹿にしているのかとエレノアは眉をひそめた。


「悪かったよ。あの姫様は苦手なんだ」


「苦手?凄く綺麗な人じゃない」


人ごみの中でも輝いて目立っているパトリシア姫を見ながらエレノアが言うと、アドルフは眉を上げた。


「綺麗だけれどねぇ。好みではない。実は、姫様に親衛隊に入らないかと言われて断ったんだよね。だからちょっと気まずい」


「親衛隊って聞いたことあるわ。姫様とか王子様が好みの人を集めて自分の護衛をさせるのよね。凄いじゃない」


エレノアが言うとアドルフは頷いた。


「名誉ではあるけれど、下手したら姫様と結婚させられるかもしれないじゃないか。怖いよ」


結婚と言う言葉にエレノアは噴き出して笑った。


「大げさねぇ。アドルフは私と同じ男爵貴族なんだからそんな身分が低い人を姫様が選ぶはずないじゃない。ちょっと自信過剰なんじゃない?」


「お前なぁ。こう見えて俺はモテるの。姫様の好みだったんだろ。姫様の親衛隊長に呼び出されてその気はあるかと聞かれたから俺の妄想ではないと思う」


アドルフの言葉にエレノアはショックを受けて目を見開いた。


身分が高いとは言えないアドルフになぜ、姫様との結婚話が出るのか。


(私なんて、誰からも縁談の申し込みすらないのに)


「嘘でしょ。アドルフが姫様と結婚できるなんて」


「だから断ったって。ちなみに、姫様は隣に立っていたオーランド隊長と婚約を先日しました」


「えっ?アドルフ振られたの?」


「振られたんじゃない。俺が断ったの!」


大人になったアドルフの見た目はかなり良い。

それだけで身分関係なく王族と結婚話が出るなんて、なんて夢のある話なのだろう。


「私、隣国の王子様を探してくるわ」


ドレスのスカートをたくし上げ鼻息を荒くして歩き出したエレノアの腕をアドルフが慌てて掴んだ。


「待てって。隣国の王子を見つけてどうするんだよ」


「私が見染められて、結婚してくれるかもしれないじゃない」


鼻の穴を大きくして言うエレノアにアドルフは絶句して一瞬言葉を失った。

腕を振りほどいて歩き出そうとするエレノアにアドルフは慌てて前に出て進行を止める。


「絶対無理だから。諦めろ」


「ふふん。見て、今日の夜会で“いい出会いがありますか”って占っていたら“死神”のカードが出たの。これはね、新しい出会いや出発って意味があるの。私が隣国の王子と出会って新しい恋が芽生えるって意味ね」


鞄の中から一枚のタロットカードを取り出してアドルフに見せ、エレノアは得意げに微笑んだ。

使い古されたタロットカードを見つめてアドルフは額に手を当てる。


「お前、占いに凝っているって話は聞いていたけれど、まだそのカードを持っていたのか」


「まだってなに?」


「そのカード。昔俺が誕生日にプレゼントしたやつだろう」


アドルフに言われてエレノアは急に過去の記憶が蘇った。

6歳ぐらいまでは毎日の様に遊んでいたが、タロットカードをプレゼントした日からアドルフは来なくなったのだ。

遊び相手が居なくなり、暇を持て余した時に出会ったタロットカード。

タロットカードで遊ぶうちに占いにのめり込んでいったのを思い出し声を上げた。


「思い出したわ!アドルフがくれたんだったわ!どうもありがとう。毎日使っているわよ」

「思い出してくれて嬉しいよ。占いにのめり込んだ今のお前を作った原因が俺だと思うと申し訳なくなるな。それより、俺がタロットをプレゼントしたことを忘れているとか勘弁してくれよ」


疲れた様子で言うアドルフの肩を一人の男性が叩く。


「遊んでないで、警備しろよ」


「警備はしていますよ。ちょっと立て込んでいて……」


敬礼をしながらアドルフが答える相手に視線を向ける。


茶色い髪の毛を短く切り込んだ普通の顔の特徴のない男性が立っていた。

黒い騎士服を着ているから同僚だろうかと見ているとアドルフが男性を指さした。


「この人は俺の上司。ジュミー副隊長。姫様の婚約者であるのが隊長で俺は城の警備の一隊員」


「どうも、ジュミー副隊長だよー。君は見ない顔だね」


両手をヒラヒラさせて挨拶をするジェミーの軽い雰囲気に驚きながらエレノアは頭を下げた。


「エレノア・ランプリングです」


「あぁ、君がエレノアちゃんか。いやー会いたかったよ」


「なぜ、私の事をご存じで?」


なぜみんな自分の事を知っているのかと驚いているエレノアにジェミーは意味ありげに微笑んだ。


「ん?風の噂?」


「また風の噂って……」


一体何を噂されているのかと不安になっていると、ジュミー副隊長は鼻をヒクヒクさせた。


「なんか、凄い臭い香水の匂いがするんだけれど……」


どこから匂ってくるのかと、鼻をヒクヒクさせながらエレノアに近づいてきたジュミーは顔をしかめた。


「エレノアちゃん、腐った香水でも付けてきた?」


「あぁ、確かにエレノアから臭い匂いがしていたな」


顔をしかめたアドルフにも見つめられてエレノアは頬を膨らませる。


「失礼な。私が作った香水ですよ。“魔女になる方法”の本の通りに作ったので間違いは無いです!意中の人をメロメロにする匂いですよ」


「えっ、思ったよりこの子ヤバいよ?“魔女になる方法”って何?」


オーランドは驚いてアドルフを振り返った。

アドルフは頭が痛いのかこめかみを指で揉みながらエレノアに聞いてくる。


「占い好きになったのは知っていたが、魔女ってなんだ?」


「魔女アグネス先生の著書よ。アドルフはお城に務めているのに知らないの?王家お抱えの魔女なんでしょ?」


当たり前のように言うエレノアにアドルフは首を振った。


「聞いたことも無い。それよりお前は魔女を目指しているのか?」


「そうよ。占いと魔女で将来食べていくつもり。結婚は世間体ね」


両手を腰に当てて宣言をするエレノアにアドルフは額に手を当ててため息をついた。


「思ったよりヤバイ状況だった。俺が早く何とかするべきだった」


ブツブツと呟いているアドルフを横目で見つつ、エレノアは手を叩く。


「そうだった。私は隣国の王子様を探しに行かないといけないんだったわ!ではごきげんよう」


颯爽と去って行こうとするエレノアの手をアドルフはまた掴む。


「だから、止めろって言っているだろう」


「なんでよ。もしかしたらって言う事もあるでしょう」


なぜ止めるんだと不満そうに見上げるエレノアにアドルフは首を振った。


「無いから!むしろ王子に失礼をして罰せられたらどうするんだ」


アドルフの言葉にエレノアは動きを止めてゆっくりと見上げる。


「……王子に失礼をして罰せられることなんてあるの?」


「ある。王族なんて近づかない方が身のためだと思うぞ」


アドルフに言われてエレノアは思考を巡らせる。

王子様という存在に浮かれていたが、もし失礼をして罰せられたら元も子もない。

益々結婚から遠ざかってしまうではないか。


パトリシア姫の王家の圧迫感ともいえるほどのオーラを感じて確かに自分には無理かもしれないとエレノアは思って息を吐いた。


「解ったわ。王子は諦めるわ。パトリシア姫も凄いオーラだったものね。王族はちょっと私には無理な気がしてきたわ」


エレノアが言うとアドルフは安心したように腕を離す。


「よかったよ。エレノアが王子に失礼なことをしなくて。きっとタロットカードがどうのとか言い出すだろう。頭が可笑しいと思われて牢屋行きだったよ」


「失礼ね。タロットは真実しか言わないわよ。まぁいいわ、とりあえず私トイレに行ってくるから止めないでね」


「あっそう。トイレね。まだ話すことあるから戻って来いよ」


「はいはい」


(大人になったアドルフはカッコいいけれど口煩いのが嫌だわね)


成長したアドルフの口煩さうんざりしてエレノアは会場を出て廊下へと向かった。





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