解決 2
「一体、何がそんなに面白いのですか?」
なぜ大笑いをしているのか解らずに、エレノアは横に座るアドルフを見た。
アドルフは気まずそうに顔をますます逸らした。
腹を抱えて笑っているジェミーはひたすら笑って落ち着いてきたころに右手を上げる。
「ごめん。いやーすごかったよ。アドルフはなんと!これを使ったんだよ」
笑いながらジェミーは鎖の先に水晶がついているペンデュラムをテーブルに置いた。
「えっ?これ私が持っているやつ?」
驚くエレノアにアドルフは気まずそうだ。
「占いグッツの店の横の通路に落ちていたんだよ」
「エレノアちゃんが攫われたかもしれないと大騒ぎになったがどこに行ったか目撃情報が無い。さぁどうしようと思っている時にアドルフはそれを手に持って地図の上に掲げた。頭が可笑しくなったのかなと見守っている俺達の前でアドルフは振り子の原理で揺れている水晶を見つめていたんだよ。大きく揺れていた水晶が地図上の港の倉庫で小さく回りだした。そうしたらアドルフが“ここにエレノアが居る”って言い張ってね。まぁ、俺達もアドルフがそう言うのなら行ってみるかと港へ行った」
「凄い。アドルフ凄いわ!占いの才能があるなんて」
尊敬の瞳で見つめてくるエレノアにアドルフはかなり気まずそうだ。
「占いなんて信じてないからな!今回だけだ!」
吐き捨てるようにアドルフが言うと、ジェミーは笑いながら頷いた。
「まぁ、それが大当たりってすごいよね。そこで、駆け付けた俺達はエレノアちゃんが殴られているところだった、隊が囲むより早くアドルフが駆けつけたってわけだよ」
「なるほど、本当に間一髪って感じですね。でも、昨晩のオーランド様が言っていることが半分もよくわからなかったんですけれど、王子から薬を買ったとかって言っていましたが」
エレノアが言うと、ジェミーはファイルを捲った。
「それねー。俺も調査不足だった。オーランドはかなり以前からハインリッヒ王子と取引をしていたらしい。王子がやたら我が国に来るのは薬の密輸だったんだ」
「その薬っていったいなんですか?」
エレノアが聞くと、ジェミーは袋をテーブルに置いた。
ピンク色の小さな錠剤と細長いお香の様なものが数個入っている。
「これがその薬。錠剤は飲み込むタイプで、こっちは火をつけて煙を嗅いでいい気持になるものだよ。下世話な話なんだけれどね、これを飲んでお香を嗅いで女性といいことをするとかなりの興奮と快感を味わえるらしい」
「あっ!ハインリッヒ王子から漂っていた甘ったるい匂いはコレってことですか?」
驚きながらエレノアが言うとジェミーは人差し指を立てた。
「そう!エレノアちゃんがハインリッヒ王子と会った時は必ずと言っていいほどいい匂いがしたと言っていただろう。俺はそう感じたことは無かった。要するに、いつもこのお香を焚いて女性とお楽しみをしていたわけだ」
「最低ですね」
エレノアが言うとアドルフもジェミーも頷いた。
「さて、ここからまだ話は続く。この薬は興奮を促すための飲み薬だ」
ジェミーはピンク色の錠剤を指さした。
「はい」
「今解析中だけれど、多分王子と二人の女性の死因はこの薬のせいだと思う。長く使っていた薬の効果が裏目に出たか、たまたまかは分からないが、異様な興奮をして心臓麻痺のような状態になったのではないかという我々の見解だな」
ジェミーが言うとアドルフは薬を見つめながら呟く。
「ということは、王子や二人の女性は自分のせいで死んだということですか?」
「馬鹿な事故って感じかねぇ。王子が女性と楽しむために薬を飲んで興奮することをして心臓麻痺に近い状態になり脳に障害が起きた感じかな。医者じゃないからわからないけれどね。この薬はハインリッヒ王子がオーランドに買わせていたらしい。オーランドは買い取ってそれを売りさばいていたようだけれど思うように売れずに借金だけが残った。それで最近イライラしていたようだね」
エレノアとアドルフは顔を見合わせる。
「港でオーランド隊長と偶然会ったんですけれど、それもこの薬の関係ですかね」
アドルフが言うと、ジェミーは頷いた。
「そうだと思うよ。オーランドは別名義で倉庫を借りていた。それが昨日エレノアちゃんを連れ込んだ倉庫だ。あの後ろに大量にあった木箱には驚くほどこの薬が入っていたよ。そりゃーあれだけ量があれば売れないだろう。金に目がくらんだか、金儲けを夢見たかは分からないけれど浅はかすぎる」
そこまで聞いてエレノアもピンク色の薬を見つめる。
見た目は可愛らしいが、恐ろしい効果のある薬だ。
オーランドを占うと必ずと言っていいほど出た“ペンタクルの4”。
男が大事そうにコインを抱え込んでいる絵を思い出す。
お金も薬も抱え込んでいたということだろうか。
「パトリシア姫と結婚しようとしたのはお金が目的だったのかしら」
「大いにあると思うよ。そもそも、パトリシア姫に近づき方も異様だった。オーランドらしくなく甘い言葉と態度でパトリシア姫に恋をさせていた感じだね。ただ、さすがの俺もエレノアちゃんの占いで“オーランドがお金に困っているのではないか”と言われるまでは気付かなかったよ。以外と占いも当たっているんじゃないかって思うよね」
ジェミーに言われてエレノアは大きく頷いた。
「今思うと、当たっている気がします。ハインリッヒ王子のこと以外は」
小さく言うエレノアに、ジェミーは一枚のカードを懐から取り出した。
白馬に甲冑を着た骸骨が跨っている絵の“死神”のタロットカードだ。
「まさに当たっていると思うよ。強制的な転換期や終焉、運命など、まぁ本によって解釈がさまざまだけれどまさにエレノアちゃんにとっては、アドルフとの運命的な出会い。
そして、新しい出発。幼馴染から婚約者として変わるのは必然ってね」
「そうか、占いなど信じていないが、俺達は幼馴染から新しい関係になったからな」
何やら感動しているアドルフの横でエレノアはじっとジェミーが掲げているタロットカードを見つめ声を上げて立ち上がった。
「そのタロットカード!金の光沢が入っている特別な印刷がしてあるプレミアのやつだわ!もう手に入らないのに!どうしたんですか?」
ジェミーはキラキラ輝いているタロットカードを懐から数枚取り出しエレノアに見せつけるようにヒラヒラさせる。
「買っちゃった。タロットで占うのも悪くないかなと思ってね」
「私もそれ欲しかったのに!アドルフ、私もあれが欲しい」
「アドルフに買えるかねぇ。俺、道具は最高級をそろえるタイプだからね」
アドルフは首を振った。
「買わない。買いたくない」
「ひどーい」
エレノアの悲鳴は廊下にまで響いた。