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パトリシア姫とタロットカード 1

「アドルフ君との港デートはどうだった?」


紅茶を出しながらニコニコとヘレンに聞かれてエレノアは読んでいた本から顔を上げた。

港デートから帰ってきてから数日経っているが、母親は何度もアドルフとはどうだったかと聞いてくる。

エレノアはうんざりしながら母親を見上げた。


「何度も言うけれど、楽しかったわよ」


「そう。良かったわ」


上機嫌なヘレンは娘がまっとうに結婚ができそうだと全身から喜びがあふれ出ていてうんざりしてしまう。



(まだ結婚が決まったわけでもないのに)


左手についているガーネットのブレスレット見つめた。

あの日から変わらずキラキラと光り輝いていてとても綺麗だ。

結局、ペンデュラムが指し示した場所に行ってみたものの怪しい人や物を見つけることはできなかった。


しょせん、能力のないエレノアの占いなので仕方ない。

王子が生きているのか、本当に二人の女性も死んだのかどうか分からないままだ。

新聞を毎日確認しているが、王子の事は全くと言っていいほどニュースにはなっていない。

帰国したという事すらない。

どうなっているのか不安になるが、関わることはしない方がいいのだろうとエレノアは考えた。

それでもやはり、えん罪をかけられたエレノアの気は収まらない。

王子に変なことをされそうになり、殺しの疑惑までかけられた。

出来れば犯人に一言言ってやりたい。


「だめね、気分を落ち着けないと」


イライラしたままではアグネス著の“タロットカードと友達に”と言う本が頭に入ってこない。

最近出たタロットの本だが、知っていることも多かったが新しい解釈もあり大変勉強になる。

エレノアは集中しようとまた本を開く。


「エレノア。アドルフ君が来たわよ」


再度邪魔が入ったと思ったら予想外の母親の言葉にエレノアは顔を上げた。


「今日来るなんて言っていたかしら?」


「言ってない。突然、すまない」


騎士服姿のアドルフがリビングに入ってきてエレノアは驚く。


「仕事着ってことは、事件?私を捕まえに来たとか?」


自宅に来た騎士達がトラウマになって、後退るエレノアにアドルフはゆっくりと近づく。


「捕まえに来たわけではないが、ちょっと厄介な手紙を持ってきた」


「厄介な手紙?」


恐る恐るアドルフが差し出した手紙を受け取る。

可愛らしいピンク色の封筒には王家の紋章の蜜蝋で封がしてあり驚いて手を放してしまいアドルフが慌ててキャッチする。


「王族からの手紙だわ!私、何かした?」


パニックになっているエレノアの手を掴んでアドルフは手紙を乗せた。


「パトリシア姫がエレノアとお茶をしたいってさ」


「私とお茶をしたい?」


エレノアには何の権力も力もないのに姫様がお茶をしたいなどとおかしな話だと手紙を見つめた。

お茶をするほど仲も良くない。挨拶程度の仲だったはずだ。


「どうして急に……」


「同じ年ぐらいの女性と語り合いたいんじゃないか?もしくは、エレノアが牢屋に入れられたことを知って何か話したいとか」


「それだわ!私が殺人犯として疑われたことを聞きたいのかもしれないわね」


どっちにしても嫌だと思いながら封を切る。

封筒と同じ色の便箋には花柄の絵が描いてあり、花の匂いが漂う。


「この手紙いい匂いがする」


手紙を開かずに鼻に当てて何度も吸い込むエレノアを冷たい瞳でアドルフは見つめた。


「早く読んでくれ」


仕方なく手紙を開くと、綺麗な字でお茶会のお誘いと日時が書かれていた。


「これは、拒否することはできないわよね」


「拒否すれば、おじさんの立場が無くなると思うよ」


「解ったわよ。行くわよ……ただ気になるのは、タロットカードを持ってきてねと書いてあるわ、何か占ってほしいとか?」


タロットカードと言う単語にアドルフは眉をひそめた。


「タロットカードだと!エレノアの当たっているかどうかわからない占いに興味をもったということか?」


会話を聞いていたヘレンは紅茶をテーブルに置きながらエレノアを睨みつけた。


「エレノア、わかっているわよね。姫様に変なことは言ってはダメよ。どうせ当たらない占いなのだからもし悪い結果が出ても言ってはダメよ!」


「解っているわよ」


「姫様に変なことは絶対に言うなよ」


アドルフにも念を押されてエレノアは頷いた。


「解っているってば」


「姫様にお茶に行く了承の手紙を受け取って俺は城に戻らないといけないのだが……」


疲れたようにアドルフはソファーに座って紅茶を手に取った。

それを眺めながらエレノアは面倒だと唇を尖らせる。


「アドルフが代わりに返事しておいてよ」


「姫様から手紙貰っておいて自分で返事をしないとか非常識だ。さっさと書いてくれ」


今すぐに持って帰りたいと言う雰囲気のアドルフにエレノアは仕方なくレターセットを取るために自室へ戻ろうとするのを止められた。


「どうせ、エレノアは普通のレターセットを持っていないだろうから買ってきた」


懐から真新しいレターセットを取り出すとエレノアの手の上に乗せる。

包み紙を開くと薄紫色にスミレの花が描かれているレターセットが出てきた。


「わぁ、可愛い。これをアドルフが買ってきたの?」


「人気のレターセットだそうだ」


偉そうに言うアドルフにヘレンは大げさに喜びながらクッキーをテーブルの上に置いた。


「ありがたいわ。エレノアはそういうセンスが無いから。レターセットもタロット柄とか骸骨とか意味が分からないものばかりなのよ。もっと年頃の女性らしい柄を選んでほしいわね」


あまりの言われようにエレノアの唇はますます尖っていく。


「酷い。占い師っぽくてかわいい柄よ」


「それを世間では妙な柄って言うんだよ」


不満気なエレノアの唇をアドルフは力いっぱい掴んで引っ張った。


「痛い!何をするのよ」


「さっさと返事を書けって言っているの」


やっぱり口煩いやつだとエレノアは仕方なくソファーに座ってペンを取った。

目上の人に返事を送るなどどう書けばいいか悩んでいると、アドルフが助言をしてくれる。


「いいか、俺の言う通りに書けよ」


「はいはい」


偉そうに言うアドルフが気に入らないが、城勤めの彼に従って書く方がいいとエレノアは言われる通りにペンを走らせる。


「できた」


何度か書き損じはしたものの、出来上がった返信を見てエレノアは満足して掲げる。

タロット持参で参りますと言う言葉が気になるが、姫様が持ってこいと言うのならば仕方ない。


「姫様も私なんかより、魔女アグネス様に占ってもらえばいいのに。王家直属の占い師なのでしょうに」


エレノアは手紙を封筒にしまって封をしながら言うとアドルフは胡散臭そうな目で見つめてきた。


「占いそのものが信じられない。そんなもの何が楽しいんだ?」


「楽しいわよ。未来がこんな風になるのねって期待が持てるっていうか」


そう言っていて、エレノアは占いの結果通り散々な目にあったことを思い出して動きを止めた。

期待を持った結果が悪く、そしてその通りになった。

タロットカードのせいで散々な目に合っていることを思い出す。

表情を硬くしているエレノアを見てアドルフは腕を組んで頷く。


「ほらな。知らない方がいいこともあるんだよ。当たっているって言えば当たっているな」


ニヤニヤ笑っているアドルフに言い返すことはできずエレノアは確かにそうだなと頷きそうなってしまう。


「そういえば、アドルフは私がプレゼントしたネックレスは付けてくれている?」


エレノア的には最高にカッコいいと思っているネックレスをなぜかアドルフは嫌なようだ

意地悪のつもりで聞いたエレノアに、アドルフは苦虫を嚙みつぶしたような顔をして頷いた。


「つけているよ」


まさか付けてくれているとは思わず逆に驚いてしまう。


「あれだけ嫌がっていたのに?」


アドルフは顔を背けてボソボソと何かを言っているのでエレノアは耳を近づけた。


「なに?」


「エレノアがプレゼントしてくれたから付けているって言ったの」


小さく言うアドルフの顔が可愛くてエレノアは笑ってしまう。


「アドルフらしく無くて面白い」


「言っておくけど、俺の趣味はこういうのではないからな」


「解っているわよ。お店の人が言っていたけれどそのペンダントは身を守ってくれる模様が入っているんですって。しかもそのプレートは特別な石を加工しているって言っていたわ」


エレノアの説明にアドルフは嫌な顔をした。


「そんな怪しいものを俺によこすなよな……」


「私は魔力が宿っているようで、嬉しいわ」


「変なもので喜ぶのはエレノアだけだよ」


エレノアから手紙を受け取ってアドルフは立ち上がった。


「じゃ、手紙をパトリシア姫に届けるよ」






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