港デート 2
人ごみを通り抜けると大きな黒い船が停泊しているのが見えた。
見上げるほど大きな船はタラップが降りていて人が出入りしている。
大きな船を近くで初めて見たエレノアは感動しながら見上げる。
「船を近くで見るのは初めてかもしれないわ」
口を開けて船を見上げているエレノアの顎を掴んでアドルフが閉じさせた。
「口開けて見上げていると馬鹿みたいだ」
「失礼ね」
興味深く船を見上げているエレノアに、アドルフも船を見上げた。
「隣国の船だね。輸入の品や人を運んでいるんだろう」
当たり前の事を言われてエレノアは口元を押さえて笑った。
「それぐらい子供でも分かるわよ。要するに何を運んでいるかまでは知らないってことでしょ」
「色々運んでいるんだろ」
「いい加減ねぇ。まぁ、私も知らないけれど。授業で習った気はするけれどね。海は十分堪能したから、ジュミーさんおすすめのお店に行きましょう」
お腹の虫が鳴り始めて思わず抑える。
そんな姿も可愛らしいとアドルフは密かに笑いながらジェミー副隊長に案内された店を頭の中で地図を描いて思い出す。
「船が泊まっている場所から右手の道を行ったお店だって言っていた」
「楽しみだわ」
エレノアはアドルフの手を引きながら店へと向かう。
通りを歩くとすぐにジェミーお勧めの店があり、二人で入る。
「思ったよりお洒落ね」
見た目は寂れているが実は美味しい店を紹介されたのかと思っていたが、見た目も内装も女性受けするようなお洒落な雰囲気に嬉しくなる。
昼時のピークを過ぎたからか店内はさほど混んでおらず、カップルや男性一人で食事を採っている者が数人いる程度だった。
向かい合って座り、メニューを眺める。
魚介系のパスタやピザなどもあり種類も豊富だ。
「二人で分け合って食べたいわ」
エレノアの提案にアドルフは頷いた。
「エレノアとこうして出かけて食べ物を分け合って食べるなんて嬉しいな」
感動したように言うアドルフにエレノアはメニューを閉じてじっと見つめた。
「大げさじゃない?」
「大げさなものか。俺が何年この時を待っていたか。エレノアとデートができるなんて夢のようだ」
胸に手を当てて目を瞑って何かを噛みしめているアドルフを無視してエレノアは注文をする。
「この魚介のピザと、スパゲティーを頂けるかしら」
一通り注文をして、改めてアドルフを見ると彼はやはり何かに感動してエレノアを見つめている。
「何をそんなに感動しているの?変な占いの結果を確認したくて無理やり連れてきたようなものなのに、怒ってないの?」
「怒る訳ないだろう。俺はエレノアが好きだって言っただろう。エレノアが何をしても怒らないよ」
アドルフはそう言うと、一瞬黙って首を横に振った。
「いや、怒ることはあったな。王子の泊まっているホテルに行ったことだ」
あの日の事を言われるとエレノアも申し訳ない気持ちと情けない自分の浅はかな考えに気分が落ち込む。
「悪かったわよ。反省しているわ」
「あれで反省していないのなら考え物だけれど」
エレノアは頷きながらテーブルに運ばれてきた水を一口飲み、先ほどアドルフが言った言葉を思いだして盛大に噴き出しそうになる。
「ゴホッ。ちょっと待って。アドルフ、私の事が好きだから何をしても怒らないって言った?」
「言ったけど?」
何でもないことのように言うアドルフにエレノアの顔が赤くなる。
「そんなことを言うアドルフはアドルフじゃないと思うわ」
「どんなふうに俺は見られているんだよ」
どんな風と言われてもとエレノアは大人になってからのアドルフの言動を振り返る。
「そうね……ちょっと口が悪い?」
「ふぅん。エレノアは俺が褒めると意識するってことは理解しているよ」
「褒めるってなによ」
まだ顔を赤くしているエレノアにアドルフはにやりと笑った。
「俺はエレノアが可愛くて仕方ない。子供の時からずっとそう思っていたけれど大人になっても可愛いと思う。結婚したい」
「なっ、なっ」
口をパクパクさせて顔を赤くしているエレノアにアドルフは言葉を投げかける。
「俺が一人前の騎士になってから結婚しようって言いに行こうと思っていたけれど、まさかのエレノアは俺を忘れていた。凄いショックだった。俺はもうエレノアには手加減しないと決めたんだ」
「手加減?」
「エレノアと結婚すること。絶対手加減はしない」
物凄い野望だと思いつつ、エレノアは思わず頷いてしまう。
アドルフに好きだと言われると嬉しいし胸がドキドキする。
(これが恋なのかしら)
自分でもよく分からない感情を感じつつ、フト背後から視線を感じて振り返った。
店内にはカップルと若い男性数人が座って食事を採っている。
誰もエレノアの事などは見ている様子はない。
気のせいかと視線をアドルフに戻した。
「どうした?」
挙動不審なエレノアにアドルフは怪訝な顔をしている。
「何か視線を感じたの。気のせいだったみたい」
「見られている風はないけれど……」
アドルフも何気なく店内を見るが怪しい人は居そうにない。
するとすぐに店員が料理を運んできた。
美味しい匂いにエレノアのお腹が鳴った。
「お腹が空きすぎてもう無理」
お腹を押さえているエレノアが可愛くてアドルフは微笑んだ。