新しいタロットを買いに 4
証拠物として持って行かれてしまった、大切な占いグッツが無くなった寂しい自室でエレノアは机の上に置かれた買ったばかりのタロットカードを見つめた。
買ったばかりのタロットカードや占いの道具すべては浄化作業を行わないといけない。
と、魔女アグネスの本に書いてあるのでエレノアは買ったら一晩浄化作業を行っている。
昨日買ってきたタロットカードを箱から出して魔女アグネス先生のおすすめの通り、カードを浄化する作業を一晩行った。
水晶をカードの上に置き一晩放置していただけだが、エレノアは十分浄化されたと感じてカードを手に取る。
「これからよろしくね」
想いを込めてカードに挨拶をして何を占おうかと考える。
王子が亡くなったかどうかは気になるところだが、人の生死を占うのは良くないと本に書いてあった。
今までも占ったことは無いので避けることにする。
それとなると、とりあえず手慣らしに何がいいかとカードを見つめた。
「そうだわ、パトリシア姫様は素敵な結婚ができるかどうか聞いてみよう」
昨日見かけた二人はとてもお似合いだった。
変装していたとはいえ美しい姫と大きく体格のいい素敵な騎士と結婚生活は素敵なものになるに違いない。
エレノアはカードをシャフルして並べていく。
「今回は練習だから複雑なヘキサグラムにしよう」
呟きながら星型にカードを並べ最後の一枚を真ん中に置いた。
心を落ち着かせてカードを捲っていく。
一枚目は”恋人”の逆位置。
「アドルフに失恋したって事?姫様は本気だったのかしら」
エレノアは呟きながらカードを捲っていく。
2枚目現在は”吊るされた男”、3枚目未来を表すカードは”節制”の逆位置。
4枚目願望は”星”、5枚目は”死神”、結果はエレノアの大嫌いな”塔”のカード。
「うわっ、なんかいい感じではないわね。姫様は現在ちょっと身動き取れなくて奉仕をしている感じで無理をしているのかしら。キラキラした恋愛を望んでいるけれど、死神と塔のダブルパンチであんまりいい結果が出ないわね……。何かハプニングがあるって事かしら。まぁ、たかが占だし」
あまりいい結果ではなく、エレノアは軽く笑ってカードを山に戻す。
悪い結果が出たらいつもただの占いだしと結果づけて片付けてしまうのはエレノアの癖だった。
そもそもオーランド隊長の事をよく知らないとエレノアはまたタロットカードをシャッフルした。
「オーランド隊長はどうですか」
現在の彼はどういう感じなのだろうかと今度三枚引く。
コイン2枚を持っている男性が描かれた”ペンタクル2”と4枚のコインを大切に抱えている”ペンタクル4”が出て顔をしかめる。
「お金を動かしている?お金を大切に抱え込んでいるあたりお金に執着している人なのかしら」
呟いて最後のカードを捲った。
10本の剣が突き刺さって倒れている男性の姿のカード。
「ソード10ね。何か無茶をして終わる予感がするわ。あまりいいイメージがカードからは感じられないわね」
数回しか会った事は無いが、姫様の婚約者だけあって爽やかであり、騎士の隊長だけあってしっかりとして仕事できそうな美形だった。
「カードだけ見たら付き合いたいとは思わないわねぇ」
エレノアは呟いて、またカードをシャッフルする。
「今度は自分を占ってみよう“私とアドルフはどうなりますか”」
ドキドキしながらエレノアは3枚のカードを机に並べた。
一枚目は、子供二人が花の入ったカップを手にしている”カップ6”、2枚目は二つのカップを合わせている男女の”カップ2”、三枚目は二人の男女が並んでおり上には天使が見ている絵柄のカード”恋人”だ。
「カップ6…昔を思い出すカードそのとおりね。私たちは昔に出会ってまた会ったと、そして今は仲良くカップを合わせて精神的な結びつきもいい感じって事かしら、そして最後は恋人のカードね。愛し、愛させるってこと?悪くないわね」
カードに背を押されているような気持ちになってアドルフが相手でも悪くないような気がしてきてエレノアは恋人のカードを手に取った。
若い二人を天使が祝福するような素敵な絵に、タロットカードもエレノアとアドルフを応援してくれているような気がしてくる。
「悪くないのよ。アドルフは嫌いじゃないし、騎士だし。それに私を好きだって言ってくれるんだもの」
ときめかないと思っていたが真剣な顔をしたアドルフに可愛いと言われて胸がドキドキしている自分が居た。
あれを恋と言うのかは分からない。
それでもきっと上手くいくかもしれないとエレノアの心は前向きになった。
上機嫌でタロットカードを買ったときにくれたペンデュラムが目に入り手に取って水晶を眺める。
先が尖った透明な水晶が窓から差し込んだ太陽に当たって輝いていてとても綺麗だ。
「試しに使ってみようかしら」
机の上に置いてある地図を広げる。
遊びの一環と思いつつ、心に引っかかっている思いを呟いた。
「私が捕まった原因になった犯人はどこに居ますか」
揺れるはずはないと思いつつ、チェーンの端を手に持ち手の振動でぶらぶらと揺れる水晶を眺めた。
次第に水晶が大きく地図の上を揺れ始める。
しばらく揺れていた水晶は一か所で大きく円を描きどんどん小さい円になっていく。
地図の一か所で円を描いて回りだした。
「ここは、港ね……。犯人は港に居るってこと?」
大きな船が入ってくる港はエレノアの家からは離れている。
小さい頃に数回、新鮮な魚を買いに行ったことがあるが大きな魚市場と店が並んでいた記憶がある。
「犯人がここに居るかもしれないってことね。まぁ、ペンデュラムを初めて使った私の当てにならない占いを信じるのもねぇ」
そう言いつつも確かめたい。
一人で行くには危険だし、また犯人と疑われるのはこりごりだ。
だと言って親に話したところで反対されるに決まっている。
エレノアは考えてアドルフに頼もうと決心した。
「アドルフをデートに誘おう。それしかないわ」
デートと言えば絶対に彼は来てくれるはずだ。
机の引き出しを開けてなるべくお洒落な便箋を探す。
手紙などほぼ書かないエレノアの便箋コレクションは占いグッツの店で買ったものばかりだ。
タロットや、星座、竜などという怪しい絵柄しか見つからず仕方なく一番無難な星座の便箋を取り出した。
「手紙の内容は……デートのやり直しをしましょうって感じでいいかしら」
ペンデュラムで指した場所に行きたいなどは悟られてはいけない。
注意をしながらエレノアは手紙を書いた。