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タロットカードのお告げ 1

「お化粧よし、髪の毛よし、ドレスよし」


エレノアは鏡の中の自分の姿を見ておかしなところが無いか確認をすると笑みを作った。

金色の髪の毛に青い瞳、決して不細工ではないが今年22歳になるのに結婚相手が見つからない。

男爵令嬢と言えども貴族の端くれとしては普通ならばお見合いの一つもして婚約者ぐらいいるのが当たり前だ。

エレノアには婚約者はおろか恋人すらいない。

お見合いの話すら一つも舞い込んでこないエレノアが相手を探すには夜会やパーティーしかないのだ。夜会やパーティーは社交が苦手なエレノアには苦痛しかなかったが、それでも結婚はしないといけない。

燃えるような恋愛をしてみたいと希望はあるが、とりあえず自分の理想は下げて同等ぐらいの家同士で、話が合って、できれば顔がいい人がいいと希望を持って何度か出席しては見るが、ピンとくる相手がいなかった。


「今日こそは結婚相手を見つけるわ!」


宣言をするエレノアに母ヘレンは娘のドレスの皺を伸ばしながら大きく息を吐いた。


「前向きなのはいいけれど、占いが好きとか魔術が好きとかそういう話を男の人に話してはダメよ」


「話さないわよ。でも、今日のパーティーで結婚相手が見つかりますかって占ったら見て!良い結果が出たの」


エレノアは一枚の使い込まれたタロットカードを取り出して母親に見せる。

黒い甲冑を着た骸骨が馬に乗っている絵柄が描かれたカードを見てヘレンは顔をしかめた。


「いいカードに見えないわ。死神みたいなのが描かれているわよ」


「“死神”って言うカードよ。新しい出会いや出発って意味があるのよ。きっと今夜は素晴らしい出会いがあるわ」


「その調子でいいお相手を見つけてほしいものね。死神が出ているから無理だろうけれど」


エレノアの占い好きには困ったものだと思いつつ、母ヘレンは頷いた。

母親には不吉に見える死神のカードも、占い好きのエレノアには良い意味のカードに見えるらしい。

エレノアはタロットカードをパーティー用の小さなカバンにしまった。

それを見たヘレンがまた顔をしかめる。


「カードは必要ないでしょう?」


「いつも持っていたいのよ。尊敬する魔女アグネス様がタロットカードと水晶はいつも身に着けていると著書に書いてあったわ」


「またアグネスさまのお話ね……。いい加減お母さん頭が痛くなってきたわ」


幼少期にタロットカードをプレゼントされて以来エレノアは占いにハマり、魔術にハマって行った。そのおかげか、お見合いの話が一切来ないのだ。


女性達が集まるお茶会ではエレノアはある意味人気だった。

占い好きの女性達の恋の行方を占い、皆でお話をする。それだけなら良いのだが、エレノアの占いと魔術好きという噂が一人歩きして、魔女になりたい変な令嬢というレッテルを貼られたエレノアにいいお見合いの話は来ることは無かった。

大好きな占いを取り上げることもできず、エレノアの部屋は魔術書と怪しい道具などが置かれとても22歳の男爵令嬢の部屋には思えない。


そんな部屋へと戻り、エレノアは香水の瓶を手に戻ってきた。


「忘れていたわ。この魅惑の香水を付ければ異性が私にメロメロよ」


「メロメロなんて言葉は今時使わないと思うわよ」


香水を振りかけているエレノアから花の強い匂いと卵が腐ったような匂いが漂ってくる。

鼻がひん曲がりそうな匂いに、ヘレンはハンカチを取り出して口元を覆った。


「魔女アグネスさまの本に書いてあったのよ!この香水を付ければ異性をメロメロにできるって。アグネス先生は嘘つかないから」


エレノアが尊敬している魔女アグネスというのは“魔女になる方法”と言う本を出している自称魔女だ。

世間に姿を出しているわけではなく、噂では不老不死で王家のお抱え魔術師だと言われているが真相は不明。

ただ、魔術書や占いの本が売れていて、マニアの間では知らない者は居ないと言われている人物だ。

エレノアはすべての本や道具を所持して、日々魔術の研究をしているが実際それが生かされたところは見たことが無い。


実際今、振りかけた異性をメロメロにする香水とやらは臭すぎるとヘレンは鞄から扇子を出してパタパタと仰ぎだした。


「お母さん、失礼よ。そんなに臭くないわよ」


「臭いわ。頭が痛くなりそう。一緒に馬車に乗っていくのだからいい加減にしてちょうだいね。その香水腐っているわよ」


顔をしかめている母親にエレノアは自分の体の匂いを嗅いでみる。


「そんなに匂わないわよ」


首を傾げるエレノアにベレンは首を振った。


「お父さんも臭いって言うわよ」


「そんなバカな」


エレノアは自分が煎じ念を込めて作った香水の匂いが臭いと言われてショックを受けながらも部屋に入ってきた父親を振り返った。


パーティー用のタキシードに着替えた父親はエレノアが口を開く前に顔をしかめる。


「なんだ、臭いぞ。卵でも腐っているのではないか」


「嘘、いい匂いだもの。アグネス先生の本の通りに作ったのよ」


「また魔女アグネスか」


父親のうんざりした顔を見てエレノアは頬を膨らませる。


「臭くないもの」


「まぁ、仕方ない早く会場へ行こう。今日は隣国の王子がお越しになるらしいから遅刻はできないからな。エレノアの結婚相手の事はどうでもいい。臭いままで結構」


「えっ?隣国の王子様が来るの?きっと私と出会うために来たのね」


エレノアはタロットカードのお告げを思い出しながら顔を輝かせた。


(新しい出会い、出発ってきっと王子様との恋愛だったのよ!)


一人喜んでいるエレノアに両親は首を振る。

臭い匂いがする男爵令嬢など王子が相手にするはずがないだろうと。

そんな両親の想いはエレノアには届かなかった。




*タロットカードの解釈は調べていますが、エレノアのフィーリングです

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