↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/39

●第三十三話 メタエリア

 母屋に戻ると、警官を何人も集めた佐久間刑事が檄を飛ばしていた。忠恵と源蔵もその場にいる。何かあったようだ。


「どうかしましたか」

「夜見月か。いつも言っているだろう。君も容疑者の一人なんだから、勝手に動き回らんでくれ」

「ちゃんとこちらにも警官は付いていますよ。僕らの事なら心配は要りません」

「ええ、こちらは問題ありません」


 私達にずっと付いている若い警官が胸を張ってうなずく。


「フン。そうだといいが、いいか、目は絶対に離すなよ。長男の剛が行方をくらませた。今から応援も引っ張ってきて、この家をしらみつぶしに家宅捜索だ」

「剛さんが?」


 私と夜見月は思わず顔を見合わせる。


「おじいちゃんが犯人なの?」


 不安そうな顔で希海も聞いてくるが。


「いや、彼は自分の身を案じて、姿を隠しているだけだろう。もう残っている相続人の候補は三人だけ、剛氏、留美那氏、そして陽奈、君だけだからな」


 夜見月が言う。


「ええ……そうですね」


 七人いた候補が半分以下になった。格闘家の巧は警察署で事情聴取を受けているが、彼は犯人でないのはもう明らかだ。警察もこの家に戻すよりは、警察署で保護したほうが安全だと判断しているのかもしれない。


「あれ? 留美那お姉ちゃんは?」


 希海が見回して聞く。


「留美那さんはお部屋におられますよ。なんでも今から一時間は絶対に誰も部屋に入らせないようにということで……」


 忠恵が困惑顔で言う。割烹着姿で料理の途中だったようだ。それにしても、留美那は何をしているのだろうか? 


「一時間ですか? それまたどうして?」

「さあ、理由までは聞いていないので……大学生ですから、何か論文やレポートでもあるんじゃないですか?」


 だが、佐久間刑事が気にしていないのなら、たぶん問題はないのだろう。


「そうですか。じゃ、僕らも捜索を手伝いましょうか、刑事さん」


 夜見月がニコニコ顔で言うが……。


「余計な事はしなくていい。部屋で待機しているように」

「わかりました」

「いいか、この大雪だ! 車もある! 容疑者は絶対に家の外には出ていない。徹底的に探せ!」


 怒鳴り散らす佐久間刑事の声を背に、私達は客間へと向かった。


「今の、わざと手伝おうかって言いましたよね? 夜見月さん、その気はさらさらないのに」

「ああでも言わないと、ずっと側にいろ、なんて面倒な事を言い出しかねないからね、あの刑事は」


 夜見月はさらりというが、巧みに人の心理を突く彼に、私は敬服し、同時に一抹の恐ろしさも感じた。彼がその気になって心理学を悪用すれば、犯罪もお手のものだろうから。犯人を裏から操り、完全犯罪だって成し遂げてしまうかもしれない。

 その夜見月が、後ろを付いてくる警官に振り向いて言う。


「君、VRヘルメットをもう二つ、調達してきてくれ。希海ちゃんの分も必要だが、君の分も必要だろう。純の部屋にあったはずだ」

「わかりました。夜見月さん、ちゃんと部屋で待っていてくださいよ?」

「ああ、もちろんだ。心配いらない」


 警官が持ってきたVRヘルメットを四人で同時に被る。私、夜見月、希海、そして警官の人。暗闇に緑色の文字が浮かびあがった。


『生体データチェック中……結城陽奈さん、認証しました』


 たちまち目の前が明るくなり、私は白い空間の中に猫娘として登場していた。


「ああ……このぷにぷにの肉球が触れたら良かったのに」


 手をにぎにぎして残念に思う。


「触覚デバイスはプロトタイプがもう完成しているけど、ちょっと安全面に問題があってね」


 驚いた事に、目の前に純が生前のままの姿で現れた。


「あなたは……!」

「どうも初めまして、かな、皆さん。僕はサポートシステムによって生み出されたインターフェース。わかりやすく言うなら、AIのアバターになるね」

「AIか。つまり、君の本体はもう生きてはいないんだな?」

「おっと……その質問がきたからには、どうやら僕のマスター、オリジナルかな? 彼はもうこの世界には接続できない状態になってしまったようだね。困ったなぁ。まだ未調整の部分がいろいろとあるのに」

「純お兄ちゃん。このチャットはお兄ちゃんが送ったものじゃないの?」


 ピンクのウサギ姿になっている希海が持っているスマホを見せる。現実のスマホよりも一回り大きい。表示が私にも見えたが、ちゃんと内容はリンクされているようで少し驚いた。


「ああ、マスターが作っていた文書だね。うん、出したのは僕だよ。マスターが出そうとしていたけど、途中で接続が切れちゃったから、メタエリアにそのままデータが残っていたんだ。ちょうどいい、内容を話すよ。この人達にも聞かせていいのかな?」

「うん、大丈夫だよ」


 希海が笑顔でうなずく。


「AIが会話してるなんて……」


 警官の彼は犬の警官のアバターにしたようだが、驚いた表情もそのまま再現されているようだ。つぶやくと口の動きもそれに合わせて動くようになっており、本当にこのシステムはよくできている。


「やあ、希海ちゃん、君に伝えておいたほうがいいと思って、これを記録として残しておくよ。まだ証拠がないから、あまり人に話したりしないで欲しいんだけど、賢い君ならわかってくれるよね。


 今この家で起きている殺人事件のことなんだ。僕は犯人の正体がわかったかもしれない。ただ、どうして彼女がそんなことをするのか、ちょっとわからない部分もあるんだけどね。この推論が間違っていたらうれしいけど、それはそれで、別の犯人がいることになっちゃうから困るのだけど。


 第一の殺人、翔一君が金庫の中に死体で見つかった事件だけど、彼が殺されたのは金庫の中ではないはずだ。だって、そこに血痕なり荒らされたあとがないし、そんな場所で殺そうとすれば翔一君を金庫の中におびき寄せなきゃいけない。どうして犯人が金庫の鍵をもっていたのか、それを翔一君は問い詰めるはずだし、すぐには信じないだろうと思うんだ。


 足だけが見つかったのも、犯人が運びやすかったからじゃないかな。巧君みたいな体格の良い男性じゃなきゃ、大人の男性を運ぶのはきついからね。僕だってせいぜい二十キロの物を数メートル運ぶのがやっとじゃないかなぁ」


「その通りだ。もし、金庫の外で殺害して死体を運びこむとなれば、死体をバラバラにする必要がある。バラバラにしないで運び込めそうなのは、格闘家の巧君と、少し年配でお腹がたるんでいるが、剛さんくらいのものだろう。石崎弁護士や源蔵さんもそれなりに力はあるだろうが、老人である彼らにはきつい仕事のはずだ」


 夜見月が肯定する。その他の候補者達は全員女性で腕力があるタイプではない。


「そこで、僕は考えたわけだ。どうして犯人はそんな面倒な手間を掛ける必要があったのかなって。金庫が密室になるから、警察の捜査を攪乱できると思う人もいるかもしれないけど……でも合鍵やバックドアがあればそれは密室でもなんでもない。警察だってそのくらいのことはすぐに突き止めるはずだからね。

 つまり、この犯行は、僕ら遺産相続人の候補者に見せつけるための儀式だったんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。