7.適職検査という名の品評会
「アンバ、ポンド、タンリだったか。お前ら三人とも冒険者行きだ。」
「あぁ!?何で俺らがそんなめんどくさいことしなきゃなんねぇんだよ!」
「お前らがメダル磨きとかいう無駄な仕事やってるからだろ。」
「馬鹿野郎!兄貴はメダルを金ピカに戻す職人なんだぞ!舐めるんじゃねぇ!」
「そうだぁそうだぁ!にいちゃん達を舐めるなぁ!」
労働者や奴隷のうち誰を冒険者として派遣するかを決める選考会。
一列に並んだ労働者達を一人ずつ【掌握】しながら、グレコは能力を査定していく。
明らかに無駄な仕事に従事していたこいつらは、冒険者に転向させるしかない人材である。
「それにお前らはスキルも持ってるだろ。【傷害】に【切創】に【軽傷】って全員似たような能力しやがって……。最後のに関してはもはやふざけてるだろ。」
「な、なんでおでの能力知ってるんだぁ!?」
目の前の三兄弟のうち一際大きな体の男が素っ頓狂な声を上げる。
そりゃまあ相手からすれば触られただけで己のスキルや身体能力を把握されるのだ、気持ち悪いことこの上ないであろう。
だがしかしその気持ちの悪い能力は、極めて有用なのである。
所持スキル、身長体重、そして見た目の情報があれば対象の戦闘能力なんて簡単に把握できる。
無論データ上の話であるから戦闘における勘や性格は実際に戦わせないとわからないが、今回はそこまで質の高い戦闘要員が欲しいわけではない。
この三人組で長かった選考会も終わり。
ちょうど五十名、奴隷と労働者による混成冒険者チームの完成である。
「お疲れ様ですぞグレコ様。賭場の改革をすると言って部屋にお篭りになられた時にはどうなることかと思いましたが、流石の手腕ですな。」
「ヴィトからここを託された以上仕事は果たしたいからな。奈落で生きていくと決めたんだ、がむしゃらに働いてやる。」
「ご立派な心がけですな。そうそう、先日グレコ様がお助けになられた商隊ですが、あれに乗っていた奴隷達が別で残っております。そちらの方も一度確認していただけますかな。」
「あぁ、直ぐに行く。」
ダードはここ数日で随分とグレコを信頼するようになった。
グレコが「職務に忠実な男」を演じ切っていることも理由の一つだろうが、ダードとしては賭場が盛り上がればそれでいいのである。
この老人もまた、ヴィトから賭場の管理を任せられた者の一人。
賭場が盛り上がることがヴィトからの評価が上がることを意味する以上、一切の甘えはない。
ただ賭場を悪用する気満々のグレコとは違い、ダードは賭場、ひいては賭場を与えてくれたヴィトを心から愛しているのだ。
「こいつらが新しく奴隷になった奴らか、哀れなもんだな。」
「うんうん本当にこうはならなくてよかったねぇ。」
檻に入れられた十名ほどの人間。
老若男女様々ではあるが、どれも貧乏そうな見た目をしている。
奴隷狩りが狙うのは基本的に貧困の村。
人がいなくなったところで誰も気にしないことが絶対条件だ。
グレコ達二人もこうなっている可能性があった。
ランベリーが善人であるから正当な手段での追放が行われたが、パーティから追い出された挙句奴隷商人に売られて一生惨めな暮らし、というのは珍しくない話である。
「俺達昔はこういう奴らを狩ってくる仕事してたんすよ。その成果を認められて今や平和な賭場の労働者ってわけです。」
「へぇ〜!凄いねぇ、君達優秀じゃないか!」
「そうなんすよ姐さん!兄貴ったらすごいんですから!」
「おでらに仕事も教えてくれるし最高のにいちゃんだぁ!」
「馬鹿いえ、お前らがいたからここまでのしあがったんだろ!俺一人の功績じゃないやい!」
「兄貴ぃ〜!」「にいちゃぁ〜ん!」
奴隷達の能力もさっさと【掌握】で把握しておこうと思った矢先。
グレコは後ろで騒ぐ四人組に痺れを切らす。
「おいコルワ、お前なんで着いてきたんだ。俺は一言も声をかけてないよな。何より、何でその馬鹿三兄弟を連れてきた。」
「やだなぁ〜僕らは一心同体、どこへ行くのも一緒の仲じゃないか♪彼らはさっき下僕にしたんだよ。アンバは弟想いだし、ポンドは頭がいいし、タンリは力自慢なんだ!ちゃんと名前を覚えてあげなよ支配人!」
「そうだそうだ!ボスの命令だからって言って名前も覚えてくれない奴には従わねぇぞ!」
全く、この男というか女というかはどうしてこうも面倒なのを連れてくるのだろうか。
大方持ち前の美貌で籠絡したのであろう。
自分の手間を省くために適当な男を誘惑してこき使う。
気分屋でめんどくさがり屋のコルワにとって常套手段だ。
グレコはやかましい三人組をスルーし、奴隷に手を触れていく。
「どいつもこいつも大して使えねぇな。やっぱ奴隷は駄目だ、スキルの一つも持ってねぇ。」
グレコは奴隷の頭を掴み地面に放り投げる。
まともなスキルを持っていれば冒険者になれるし、スキルがなくとも体が丈夫なら肉体労働である程度身を立てられる。
彼らが貧民である以上、ろくなスキルもなければ体も弱いというのはある種当然の話なのだ。
奈落の人間と違ってグレコを恐れているから、間違いなく【掌握】で操作までできるだろうがその価値もない。
グレコが諦めて帰宅しようとすると、コルワから声が上がる。
「グレちゃんグレちゃん!この人達なんか隠してるよ、毛布の下に膨らみがある!」
「変な呼び方してんじゃねぇ。ていうかこいつら住処も身分も全て失ったっていうのに何を守るっていうんだよ。」
呼びかけに応じ牢へと戻る。
コルワのいう通り、奴隷達の奥に散らかった毛布は妙に膨らんでいるようだ。
グレコは奴隷商人に牢の鍵を開けさせ、中に入る。
勢いよく毛布を剥がした先にいたのは、幼い少女だった。
「ガキ?面がいいな。こいつだけ風俗街にでも沈めるか。変態共には需要があるだろ。」
「待ってくれ!その子だけは!俺達はどうなってもいい!その子だけは許してくれ!」
少女の顔を確認するグレコの足に奴隷達がすがりつく。
そういわれると逆に気になってくるのがグレコという人間だ。
少女の綺麗な顔面を掴み、【掌握】を使う。
その結果を見て、グレコは笑いが堪え切らなかった。
「なるほどな、これは確かに隠すべきだ。いいぜ、こいつは丁重に扱ってやる。それだけの価値がある存在だからな。」
グレコは少女の顔を掴む手を止め、その手を少女の柔らかい髪の上にうつす。
どうやら本当に可愛がられているようだ、一人だけ明らかに衛生的である。
困惑するコルワ達と項垂れる奴隷達を他所に、グレコは少女を連れて帰路についた。
「ねぇ、なんでその子連れて帰ってるのさ。一言も喋らないし下の世話でもさせるつもり?」
「な訳ないだろ。直にお前らにもわかる時がくるさ。こいつはとんでもないピエロに成長する。」
グレコが気持ち良さそうに笑う。
この男がこんなにも上機嫌になるのは悪巧みをしている時だけだ。
それはコルワにしても重々承知、少女を気にするのをやめて再び歩き出した。
その瞬間、コルワの胸が貫かれる。
「絶対に、許さない!」
「そうだよなぁ!お前はやっぱりそうだよなぁ!」
コルワから剣を引き抜きこちらに殺意を向けてくる少女。
こうなることもグレコは予想していた。
この少女を掌握した結果からして、大人しくついてくるようなタマではないことは明白。
わかった上で暴れ始めるのを待っていた、少女の戦闘能力を確認するために。
さぁ、稀代のピエロのお手並み拝見だ。




