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72.姉と妹

「で、二人が僕の相手っていうわけ?」


こいつは、どうしてこんなにも威圧感があるのだろう。

男か女かわからないような細く平たい体。

それに加えて可愛らしい顔と甘い声。

この見た目からは想像できないほど、邪悪な雰囲気。


アイラとライラは、戦慄していた。


「よくあたし達を前にしてそんな軽口を叩けるわね。」

「ん〜。まぁ二人からすればぁ、お父さんを殺して国を襲って仲間まで奪った最悪の相手だろうけどぉ?コルワちゃん悪くないしぃ。国と仲間はグレコのせいじゃん?ケインはほぼ自殺だし♪」

「……っ!黙りなさい!」


ニコニコと笑うコルワの顔が瞬時に燃やされる。

肌は黒く焦げ、焼け爛れ。

しかしそんなダメージは一瞬で再生された。


「全く感情的な人だなぁ……。昔からそうだけど、アイラちゃん達って面白くないんだよねぇ。何ていうかやることなすこと当たり前っていうか。グレコやランちゃんみたいな狂気的発想が足りないんだよね。」


再生した頬を撫でつつ、コルワが歩き回る。

身に纏った綺麗なドレスを揺らしつつ、さぞ気分が良さそうだ。

そこに対し二発目を放とうとした時、アイラの目の前からコルワが消える。


「特に、ライラちゃんはさぁ!今も怖いんでしょ?僕を殺す未来は見えても、自分が望む幸せな未来が見えないんだもんねぇ!」


後方にいたライラの耳元。

そこを軽く舐めながらコルワが嘲笑う。

ライラの膝が震え、目には涙が潤み。

その様を見て、アイラは黙っていられなかった。


「ライラ!しっかりしなさい!どれだけ恐ろしい未来でも、私が切り開く!あなたはただ寄り添っていればいいのよ!」

「う〜ん嫌いじゃないよその姉妹愛!ま、面白くは無いけどね!」


アイラが放った氷をコルワが右手で殴り抜く。

燃やしても再生される、ならば凍らせて行動不能にしてやれ。

そういう意図の攻撃であったが、コルワには通用しない。

右手から波及していく氷が全身に渡る前に肩を自切。

トカゲのような動きをした化け物は、反撃に打って出る。


「さっ、今回はぶっ殺さなきゃいけないからね!本気で行かせて貰うよ!」

「アイラちゃん!右腰の辺り!固いバリアじゃないと守れない!」


ライラの指示に従い、コルワは細かくバリアを張る。

流石の未来予知。

コルワはぴったりその位置を殴打し、拳がバリアと当たって凄まじい音が響く。

【不死】があるだけで力も魔法もないコルワ。

その前提を軽く覆すような攻撃に、アイラは目を疑ってしまった。


「うーんやっぱり破れないかぁ。カッシルちゃんは無理でもアイラちゃんの魔法ぐらいは超えれるかと思ったんだけどなぁ。」

「あんた……戦い方までおかしくなり始めたのね……。」


グチャグチャに潰れた左腕。

【不死】がある以上、コルワに己の体を気遣う理由は全くもって存在しない。

だからといって己の体が壊れるほどに振り抜けるのは、間違いなくコルワが狂気的だからだ。

これほどの火力を持っているとなると、油断は出来ない。

アイラがそう判断し、一歩後ろに下がった瞬間。

横のライラの顔が青ざめていくのに気がついた。


「ライラ?どうしたのよ一体。幽霊でも見たみたいな顔をして……。」

「幽霊、いや、あれは幽霊じゃない……。何で、何でここに……。」


震える視線の先。

そこに目を向けると、コルワのニヤついた表情が更に歪んでいた。


「ふふっーん♪気づいちゃった?僕一人じゃ攻撃手段がないかなと思ってさ、連れてきちゃった!」

「何で、何であんたがそいつを連れてるのよ!」

「テネトちゃんに起こして貰ったんだー!ベリオットのおじさんも幸せだと思うよ?僕と一緒に戦えるなんてさ!」


森の中に立ち尽くす屍。

その顔は、見覚えがあるとかいうレベルではなかった。

長い間旅をし、喧嘩しながらも支え合ってきた頼れる男。


ベリオット・カイズナー。


その男が再びアイラ達の前に立ちはだかる。


「勿論戦いもバッチリこなせるよ!レッツゴー!」

「アイラちゃん!両肩を狙ってきてる!」

「くっ!」


かつての仲間。

それもコルワやグレコのような裏切り者ではなく、心から信頼していた相手が現れたことでアイラの思考は鈍る。

二方向からの攻撃であれば守るより反撃に出た方がいい。

それが通常の判断であるが、アイラはそれを躊躇してしまった。

ベリオットの槍の重さと、コルワの拳がバリアに重くのしかかり、アイラは軽く吹き飛ばされていく。


「やっぱアイラちゃんは普通の人だねぇ……。ベリオットのおじさんを殺したグレコや、その死体を利用したランちゃんとは大違いだよ。」

「うるさいわねぇ!私だって、それぐらいの覚悟はあるわよ!」

「アイラちゃん……!駄目!」


挑発に乗りアイラが炎魔法を構えたタイミングで、ライラが声をあげる。

彼女の水晶に移る数秒後の未来。

そこには地面に倒れたアイラの姿が映っていた。


「言ったでしょ?戦いもバッチリこなせる。つまりスキルも使えるってことだよ!」


放たれた炎をベリオットが防ぎ、そのままの勢いで槍を振り下ろす。

【蓄積】によって強化されたその一撃は、アイラを叩き潰すのには十分だった。


「アイラちゃん!だ、大丈夫……?」

「大丈夫……まだ動けるわ。任せて。ベリオットのことなら、私が一番わかってる。」


直前で壊れかけのバリアを張っていたアイラ。

彼女はゆっくりと立ち上がり、鼻から流れた血を拭う。

最早バリアを張る力は残っていない。

持てる手段は後一つだ。


「ライラ……一つ聞かせてちょうだい。あなたが見える一番遠い未来、そこにコルワとベリオットは立ってる?」

「見てもいいけど……それを見たらアイラちゃんの支援が……。」

「しなくていいわ。一発で片付けるのに、防御も回避も要らないでしょ。」


アイラがそう告げ、呼吸を整え始める。

ライラは困惑のまま水晶を見つめ、占星術を発動させた。

見える限りの未来。

といっても数日後だが、それを見通すにはかなりの労力を必要とする。

それほどの力を使えば、ライラに余力は一切残らない。


アイラの身を常に案じる普段のライラであれば絶対に受けない提案。

だがそれを了承するぐらいには、今のアイラの瞳は覚悟に満ちていた。


「いない……。印を描いた人の未来は大体見てみたけど、誰の未来にもコルワさんもベリオットさんも、グレコさんもいない。いるのは、お母様と私だけ……。アイラちゃんの未来は……。」

「その先は聞かないでいいわ。その未来が聞けただけでも、命を賭ける価値があるじゃない。」


いるのはフーネとライラだけ。

その言葉を聞き、アイラは泣き始めた姉の頭を撫でる。


「コルワを倒しても魔物が襲ってくる可能性はある。だからライラに仮死魔法をかけるわ。これを使うとあなたの意識はしばらく無くなるけど、心臓が止まって他人からは死んだようにしか見えなくなる。魔法が解けた時には、お母様の元まで走りなさい。」

「そんな高度な魔法……アイラちゃんの魔力が尽きるんじゃ!」

「ふっ、天下の大魔道士を舐めないことね。」


ライラを仮死状態へと変え、アイラは振り返る。

これで大事なものは守られる。

後は恨むべきものを潰すだけだ。


「コルワ!決着をつけさせて貰うわよ。」

「お、やっと本気出してくれる感じ!?いいねいいねー!なら僕も、本気出しちゃお!」


そう言ってコルワが指示を出し、ベリオットがコルワの体を二つに斬り裂く。

自殺か裏切りか。

アイラの思案を待たずして、コルワの体は再生していく。

ただの再生ではなく、ベリオットの朽ちた体を取り込みながら。


「前から思ってたんだよねぇ。僕の体、くっつく時に体の中に異物があったらどうなのかって。それを今、実験させて貰うよ!」


そんな声を響かせつつ、コルワはベリオットと一体化していく。

食虫植物の捕食を思わせるその動きは、ついに終わり。

完全に再生したコルワが再び目の前に現れる。


「う〜ん、やっぱ死体を取り込むと体が腐っちゃうなぁ。可愛くないし最悪〜!」

「ほんととんでもない発想ねあんた……。」

「ふっふ〜ん!それほどでもないよ!」


見るも無惨な姿となったコルワはゆっくりとアイラに近づき、手を差し伸べる。


「アイラちゃん、勝負しようよ♪」

「勝負……?」

「今の僕は【蓄積】も使えるからさ。今僕を殺すとその力を自分の物に出来るんだよね♪その代わり、【不死】の力が弱まっててあんまり粉々にされちゃうと復活できないんだ。」

「私があんたを殺し切るか、あんたが耐えて私を殺すかってことね……。いいわ、やってあげるわよ。」

「うーんアイラちゃんの理解が早いところは大好き!」


コルワの手を取り、アイラは左手を高く掲げる。

残された全ての魔力を込めて放つ一撃。

アイラは、詠唱を始めた。


「全てを焼き尽くす終焉の悪魔よ!その神なる槍をここに振るえ!!ムスペル!」


空を埋め尽くす炎の槍。

それがコルワに向かって突き刺さり、戦いは終結した。

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