表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/76

6.労働改革という名の報復

「そろそろ、金がなくなってきたな俺達も。」


例の王城の一室でベリオットはそう呟く。

魔王を討伐して以降、残党狩りが彼ら勇者パーティの仕事となった。

真面目に働いてはいるものの、魔王と戦っていた頃に比べると報酬は歴然の差。

本来ならばサイラス王家から支援の一つでもあっていいはずだが、ランベリーはその全てを断り普通の冒険者と同じ生活を送っている。

ライラ達が王族である以上この部屋だけはありがたく使っているが、生活自体は苦しいものである。

質素倹約、その生活にベリオットは不満を感じていた。


「別に生きていくには十分な金額なんだしいいじゃない。魔王が死んである程度平和になったから依頼料も依頼の数も減ってるのよ。」

「お前さんは王女パワーで最悪どうにでもなるからいいよなぁ。この前のオーガ討伐さえ上手くいってりゃぁ……。」

「金があろうがなかろうがどうせ酒とギャンブルに消えるだけでしょ、黙りなさい。」


ベリオットの発言で室内の空気が澱む。

彼はあの日眠りこけていたが、他の三人は戦いに赴き、グレコやコルワと対面している。

追放したのは自分達だが、いざ復讐を目の前で誓われると心が揺れる。

あの日のことをわざわざ思い出したい者など誰もいなかった。


「また別の依頼を受ければいいんだよ。俺は今日も冒険者ギルドに仕事を探しに行ってくる。」


ランベリーは笑顔を装い、鞄を肩にかける。

グレコは復讐のために多くの民を犠牲にすると言っていた。

それを防ぐには、情報収集がかかせない。

依頼を受けて日銭を稼ぎつつ、グレコに関する情報を集める。

ランベリーの中ではそれが日課となっていた。




「俺はグレコ、先日からこの賭場を仕切ることになった人間だ。」


初めて賭場を訪れた日の数日後。

百人弱の労働者の前に立ち、グレコは自己紹介をする。

できるだけ悪人に見えるように、その細い体が大きく見えるように。

奈落にいるような人間は、より酷い悪人を尊敬する。

対してグレコは中途半端に悪事を犯して勇者パーティから追放されたことになっている。

ここの人々からすれば最も馬鹿にされる経歴だ。

まずはその印象を払拭し、己に尊敬の念を抱かせねば。


「まずお前らの仕事を再編する。ファイターは借金で潰れた馬鹿だけを使うことにして、今戦っている奴隷達と暇な労働者達には、冒険者をやって貰う。」

「冒険者ぁ?んなもんできるわけねぇだろ!」


グレコの突飛な発言に、どこからか不満の声が上がる。

敬語を使ってこない辺り、唐突に現れた新たな上司に不信感が隠せないようだ。


「どうにかなるから指示してるんだろ、黙れ。細かい指示は後で知らせる。それじゃあ今日も頑張ってくれ!」


ざわめく聴衆を一蹴し、グレコは部屋に戻る。

奈落にいるような奴らは基本的に頭が悪い。

こんな奴らに真面目に説明しても無駄だ。

行動で全てを示し、結果を出してやれば信頼は後からついてくる。




「あ、おかえりー。」


賭場の裏側、グレコは事務所としてあてがわれた部屋に戻ってきた。

そこではコルワがアイスを食べながらくつろいでおり、若干のイラつきを感じつつも椅子に座る。


「仕事を再編するって話だったけど何をどうするのさ。僕を頭数に入れるのだけは勘弁してねー。」

「なら今すぐそれを食うのを辞めろ。見てて不愉快だ。」

「えーもしかして興奮しちゃった!?可愛い可愛いコルワちゃんが色っぽくアイスを食べる様なんて刺激が強かったかな!いやー参っちゃうなぁ!」


楽しそうに踊り始めるコルワをガン無視し、グレコは机の上に書類を広げる。

初めて賭場を訪れた日から数日、部屋に篭って策を弄した結果。

詳細な資料を持ってきてくれたダードの協力もあり、中々綿密な作戦を立てることができた。


「所詮ならずものの集まり、賭場はかなり無駄が多い。実際に必要な労働者は半分程度だ。この感じなら報酬を増やして生産性を上げれば事足りる。」

「それはまぁそうだろうけどそんなお金あるの?」

「そこをどうにかするために闘技場を一新するんだ。雑魚い魔物と奴隷の戦いなんて面白みがない。勝てば借金全額返済、負ければ死亡。そのルールに変えてやるだけで強いファイターが簡単に手に入る上、賭場の収益も上がる。」


これまでの闘技場はあくまでも興行のレベルであった。

安全のために弱い魔物しか使えず、ファイターの方もわざわざ金で買った奴隷を使っているため、両者共に中途半端。

かつて見かけた試合にしても、ベヒーモスを名乗る犬っころを大量の男達がボコボコにするだけのものだった。

大きな怪我もなければ費用もかかる。

借金を背負ったギャンブラーにしても奴隷の身分に落とされて働かされているため、絶望するばかりで戦う気がない。

しかし借金全額返済という触れ込みがあれば別だ。

勝った時のリターンがあることでファイターにも熱が入るし、元が客であるから費用もかからない。

借金全額返済というのは負担になりかねないが、相手はギャンブラーだ。

ギャンブルに負けても闘技場で勝てば良い、その思考を植え付ければ奴等はもっと金を落とす。


「改革が終わった暁にはこのシステムにベリオットを嵌める。あいつの死に様は衆人環視の元魔物に八つ裂きで決定だ。」

「う〜ん、中々いいプランだねぇ!魔物を倒しまくり自分が最強!って思ってるおじいちゃんが血塗れになってるのを想像するだけで……。面白そう!」


ここまで頭を捻ってやったのは何も賭場を改革してバルトラを大きくするためではない。

勇者パーティの一員であり、ギャンブル狂の戦士。

ベリオット・カイズナーを地獄の底に突き落とすためである。


「けどそもそもあのおじいちゃんがこんな所に来るの?いくらギャンブル狂とはいえ奈落の賭場に行くことなんてランちゃんが許さないと思うんだけど。」

「だから二つ目の改革なんだろ。あいつらからは色々と奪ってやるつもりだが、まずは仕事を奪ってやる。」


グレコはそう言い放ち、机の上にもうひと束書類を重ねる。


「今朝冒険者ギルドへ行って話をつけてきた。俺の部下っていう名目で新人冒険者の枠を五十名分確保してある。この枠で奴隷や労働者を冒険者登録し、片っ端から仕事を受けさせる。」


ここサイラス王国は魔王城から比較的離れており、残党の魔物達が未だ大量に蔓延っている。

一つ一つの依頼は少額かつ簡単なものばかりだが、冒険者ギルドには日々大量の依頼が舞い込んでいるはずだ。

これを全てグレコの部下達で独占する。

追放されていてもグレコが強力な元冒険者である事実は変わらない。

冒険者ギルドなど魔物を倒してさえくれれば、働いた者の経歴などどうでもいいのである。

魔王討伐を果たした勇者パーティの収入源がそれらの依頼の報酬である以上、彼らは立ち所に収入を失うはずだ。

そうなればベリオットは必ず奈落の賭場へやってくる。

金がないほど一発逆転を目指して賭け金の高いギャンブルに手を出す、それがギャンブラーという愚か者の習性だ。


「ふむ、確かに中々完璧な作戦だねぇ。よくそこまで考えられるものだよ、最早キモイ!」

「土に埋められたくなかったら黙れ。さっさと闘技場の方へ行くぞ。【掌握】で冒険者に向いてる奴を探す仕事が残ってる。」


一般の奴隷や労働者を簡単に冒険者として派遣するわけにはいかない。

スキルを持っている者は絶対に冒険者にするとして、その他にも筋肉量や身長など条件は様々だ。

本来ならば細かい身体測定やスキル判定が必要なその判別作業も、【掌握】を使えば一瞬。

汎用性が高いのが【掌握】のいい所だ。


「ねぇねぇ何をどうやったらそんなに陰湿な作戦が思いつくの?性格も悪ければ発想も最悪って凄いよね。ある意味天才だと思うよ。人に復讐するためだけに生きてて楽しい?」

「だから黙れって言ってるだろこのクソアマ!」

「ざーんねん!アマじゃなくて男でっーす!ふっふー!」


グレコが先ほどからコルワのおふざけをガン無視していたのが気に食わなかったのか、彼女ないし彼がいつものごとくクルクルと回転する。

俺が復讐のために生きているというならば、お前は人を弄ぶために生きているだろ。

そう言いたくなるのを必死で堪え、グレコは部屋を後にする。

何をどう足掻いても自分を格上と認識しない唯一の人間、それがコルワである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ