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68.復讐の血

「っと、久しぶりだなアイラ。」


一ヶ月後。

最終決戦を翌日に控え、グレコはサイラス城に現れていた。


「あら、最終決戦の日まで会わないんじゃなかったの?」

「そのつもりだったが思ったより早く用意が終わったからな。お前らの様子を見にきてやったんだ。」


ランベリーを倒すための小細工。

言うだけなら簡単だが、実際にやってみるとかなり骨の折れる作業だった。

なんせ相手は世界最強の男である。

勝つためには、全力で臨まねば。

グレコは凝った肩を解しつつ、アイラに話しかける。


「お前が城にいるってことは、地位を取り戻したのか。」

「カッシルに民を説得させて無理矢理通したわ。この国のことを一番知っているのは王女。それを使わない手はないだろうって話でね。ここにはいないけど、お母様とライラも城内で働いてるわよ。」


そう言ってアイラが腕につけられた手錠を見せつけてくる。

魔導士であるアイラにこんなものをつけても何の意味もないだろうが、民へのポーズなのだろう。

結局民は自分の生活しか考えていない。

誰が国を仕切っているかなど、どうでもいいのだ。

見た目さえ整っていれば誰も気にしない。


「国内情勢もある程度整えたわよ。奈落までは手が回ってないけど、地上の汚い街並みは掃除したわ。」

「流石の手腕だな。俺がここにいても誰も咎めないあたり、セキュリティもしっかりしてそうだ。」

「皮肉で言ってるんでしょうけど、ちゃんと説明したのよ。全部の責任は魔王に押し付けたわ。少なくとも国内の騎士や文官はあなたのことを悪人だと思ってない。」

「それはありがたい話だ。俺はいつだって人畜無害な男だからな。」


アイラ・サイラスという女は最強の魔導士である前に、優秀な政治家だ。

国家運営を一人で担っていたフーネに比べればまだ経験が浅いが、その手腕は凄まじい。

王家が崩壊し市民政府というごちゃごちゃした組織が運営していた新生サイラス国。

荒れ果てたその国は、この一ヶ月で大きく姿を変えていた。


街の中に溢れていた乞食や孤児は全て福祉施設に収容。

その施設内での共同労働として街の清掃をあてがい、汚い公道も整備した。

王族を中心としたサイラス王国上層部に対する不満も払拭し、市民政府の歯車はしっかりと回り始めた。

市民政府の構造自体も大きく変容している。


「カッシルは大統領のままなのか?」

「えぇ、あの子が国内で一番人気なのは変わらないから。せっかくなら会いに行って来なさいよ。」

「どうせすることもないしな。そうしてやるか。」


グレコは城の中を堂々と歩き、カッシルのいるであろう部屋を目指す。

単に顔を見に行くだけではない。

グレコは、カッシルに頼みたいことがあった。


「奈落にいる住民の戸籍をまず再編しよう。その後代表者との会合をして奈落を再び管理下に置くぞ。この国に、無法地帯があってはいけない。」

「随分とまともなことをいうようになったな、カッシル。」


王の間、改め大統領の間に足を踏み入れる。

そこには部下に慌ただしく指示を出すカッシルの姿があった。

突如として大統領という立場を与えられたカッシルも、それなりに努力をしたのだろう。

かつての幼い十七歳の少女の姿はそこになく、ただ辣腕を振るう政治家の相をなしていた。


「グレコじゃないか。一応帰ってくる気はあったんだな。」

「当然だ。俺は裏切らない男だぞ。」

「はっ、舐めたことを。」


そこらにあった椅子へ勝手に座り、カッシルへと語りかける。

からかいに来たのではなく意図を持って話に来た。

グレコのそうした所作を読み取ったのか、カッシルはすぐに人払いをしてくれた。


「何の用件なんだ?作戦会議の内容なら随分前にアイラ様から聞いている。私はロッツやセドナと共にテネト率いる魔の物を相手取ればいいんだろう?」

「いや、その仕事にお前は要らない。お前の【障壁】の使い所は、別にある。」


グレコは手に持った駒を放り投げる。

今回こちら側にいる面子の中で、最も強力な駒は間違いなくアイラだろう。

火力、回復、防御。

ありとあらゆるものに秀でたあの女は、文字通り一騎当千だ。


対してカッシルは、最も変わった駒である。

火力を一切持たない代わりに、防御に全てを振っている。

この女を雑兵の指揮に使うのは、あまりに勿体無い。


「お前には、俺を守って欲しいんだ。」

「グレコを?」

「あぁ、ランベリーを倒すには、それしかない。」


懐疑的視線を向けてくるカッシル。

それを意にも介さず、グレコは話を続けていく。


「ランベリーは圧倒的火力を持ってる。俺がいくら策を仕掛けてもそれだけは変わらない。罠だろうと何だろうと、起動させなきゃ始まらないんだ。起動より早く俺が死ねば、ランベリーは殺せない。」

「言っていることはわかるが……。ランベリーとはタイマンを張るのではなかったのか?」

「確かに作戦会議ではそう言ったが……。流石に相手が強すぎた。そうだ、アイラやライラには黙っておいてくれよ。あんなに見栄を張って結局無理だっただなんて、あいつらにバレたら笑われる。」


子供っぽく笑いながらグレコはそう話す。

言っていることは至極真っ当。

カッシルもそれ以上の追求はしてこず、グレコの指示を復唱した。


「じゃあ私は部下に指示だけ出してグレコについていけばいいんだな。」

「あぁ、ランベリーをぶっ飛ばしたあとは好きにしてくれ。アイラでもライラでも必要な所へ救援に行くといい。」

「了解した。今はグレコに従うのが民にとっても最良だろうからな。任せてくれ。」


己の胸を叩き、カッシルが決意を示す。

どれだけ立場が変わろうと、この女の方針は変わらない。

ただ民を守るため。

それだけだ。




「総員!進軍開始!!!」


カッシルの高らかな声が響き、大群が動き始める。

本当にこれが人の体から出る音なのか。

そう思いたくなるような足音と叫び声。

士気は十分である。


「よくこれだけの数を集めたもんだな。お前らほんと、何で俺らと旅なんてしてたんだ。」

「数だけじゃなく練度も高いわよ。私達にはサイラス騎士団という土壌があるもの。集団戦なら全世界でも最強よ。」


小高い丘から蠢く兵士達を眺める二人。

今更ながら、グレコはとんでもない奴らを相手にしていた。

世界トップの魔導士と未来を見る術師。

そしてその二人が従える大国。

一度はその喉元までナイフを持っていけたと思うと、中々狂った話である。


「そういえば、ライラはどうなったんだ。」

「今日も今日とて怯えてたわよ。私がコルワを殺す未来は見えるらしいんだけど、その先が見えないらしくて。」

「まぁあの変態を殺すだけなら猿でも出来るからな。」

「ライラってひたすら私の未来しか見ないのよねぇ。ロッツやカッシルの未来も見えるはずなのに。シスコンがすぎるのよ。」


アイラにとっては国が全てだが、ライラにとってはアイラが全てだ。

国家が滅んだとしてもアイラが生きていればそれでいい。

そういうメンタルであることはグレコも百も承知。

あの女の未来を見る力はとんでもなく強力だが、使い方という面でライラは最悪である。


「それにほら、あの子クーデターを防げなかったことを悔やんでるのよ。あの頃は魔王の動向を掴むのに必死だったから、国内にまで目が向かなかったのよね。」

「未来が見えるっていうのも大変だな。どこにでも手が届くってのは恐ろしい話だ。」


極論を言ってしまえば、ライラは全ての悪いことを回避することが出来る。

全ての人の肩に印を書き、全ての人の未来を常に監視すればだ。

しかし、そんなことは出来ない。

ライラがしっかりと未来を見るには水晶が必要。

そして水晶では一人分の未来しか映せない。


彼女は全てを救えるが、全てを絶対に救えないのだ。


「けど未来なんて関係ないわ。悪い未来があるなら捻じ曲げればいいのよ。私は、その為に力を磨いたんだもの。辛い未来を見て涙を流すライラの姿なんて、二度と見たくないのよ。」

「ご立派な姉妹愛だな。是非、頑張ってくれ。」


ライラが初めて見た未来は、自分の父親が死ぬ未来であった。

何者かに刃を刺され、血を流す父親。

その姿を見はしたものの、当時のライラにはその未来を変える術が無かった。

誰かに話しても失笑され、ただその悲劇が訪れるのを待つのみ。

彼女が占星術に目覚めたのを周囲の人間が気づいたのは、国が崩壊した後だった。


「よし、じゃあ未来を作りにいくぞ。俺達の未来は、あいつらを殺さないことには始まらない。」

「ええ。次会う時は魔族の死骸の上にしましょう。」


かつて殺し合ったとは思えないほどの笑みを浮かべ、グレコ達も移動を始める。

こうして、最後の戦いが始まったのであった。

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