67.集めた駒
「よくやったぞオリッツ!」
「よくもやってくれたわねオリッツ!」
一階へと戻り、二人はオリッツに対照的な感情をぶつける。
まぁアイラが怒るのも当然だ。
彼女からすればグレコは一時の味方であり将来の敵。
いくらランベリーを殺すためとは言え、グレコを強化されてしまうことは自分の首を絞めることになる。
「左手で指が飛ばせるようになった時もかなりの強化に感じたが、今回のは格別だ。【固定】があれば俺のスキルはほぼ無敵じゃないか!」
一方でグレコは大喜びである。
左手の義手の効果は、無限に指を飛ばせること。
これによって遠隔で【掌握】を発動できるようになったが、この強化は不十分だった。
射出される指の速度が遅い上、指が視認できるため回避しやすい。
しかし、【固定】によってその弱点はほぼ克服された。
【固定】の効果は、斬撃や打撃など色々なものをその場所に【固定】すること。
これを使うことで、グレコは自分の手が触れる感覚を【固定】できるようになった。
つまりグレコが一度手を触れた場所に相手が触れた状態で【固定】を解除すれば、完全なる遠隔で【掌握】が発動できるようになったのである。
手が触れた場所などという概念的な物が【固定】された位置を確認する事など、誰にもできない。
完全なる透明で回避不可能の【掌握】。
これが、グレコに与えられた右腕の力である。
「け、けど結局【固定】を使うには色んな所に手を触れなくてはいけない上、解除も一斉にしか出来ないんでしょう?それに【掌握】された所でグレコを恐れていなければ大して意味はないわ!」
流石にアイラは【掌握】の対処法をよく理解している。
まずはグレコを格下と思い続けること。
【掌握】の発動がどれだけ容易になろうと、そこさえ守っておけばそこまでの脅威ではない。
「まぁともかく感謝しとくぞオリッツ。ただ二度と人の体を勝手に切り刻もうとするのだけは辞めろ。」
「心に刻んでおくよグレコ君!」
「……まぁいい。そうだ、俺はそもそもお前に魔導兵を貸して貰いに来たんだが。借りてもいいか。」
「あぁいいとも!僕は君にその腕をプレゼントできただけで大満足さ!魔導兵でも何でも好きに使っておくれ!」
本来の目的を思い出しオリッツに借用を申し出ると、即座に快い返事がやってくる。
右腕の義手と大量の魔導兵。
収穫は十分、そう考えてグレコ達はその場を後にする。
「期間は一ヶ月だったか。それまでどう動くんだ。」
すっかり新たな拠点と貸してしまったグレコの新居。
アイラ、ライラ、グレコ、ロッツ、セドナの五人は椅子に座り、作戦会議を開始した。
「まず相手の戦力でも確認するか。セドナ。」
「はい、ご主人様。」
指示に従い、セドナが手早くボードを持ってくる。
これはただの話し合いではない。
軍と軍をぶつけ合う軍議なのだ。
話し合いも真剣に行わねば。
「まずは一人。当代魔王テネト。サイラスの周りにいた魔物達みたいなのを従えてるのはこいつだ。」
一つ目の駒を置き、グレコはそう話す。
そこに答えたのは、テネトを知っている二人組だった。
「他のメンバーを考えると、テネトが一番楽な相手なんじゃない?私達が戦った時、そこまで強くなかったわよ?」
「詳しいことは言えないが……あいつの実力はあんなものじゃない。単体の戦闘力は確かにあんなものだが、あいつには他の力がある。契約による配下の強化と【死霊】によるネクロマンシーだ。」
戦闘する都合上テネトの力は皆に知っておいて欲しいが、テネトとの事を詳しく話す訳にはいかない。
いずれバレることがあったとしても、それは少なくとも今ではないはずだ。
魔族と契約して力を強化した、その事実が明るみになればこの同盟は崩壊する。
「【死霊】……?あの無限に起き上がる魔物達の正体はそのスキルってこと?」
「あぁ、俺も詳しいことは知らないが屍に触れたらそれを自在に動かせるらしい。あの魔物達の動きからして、生きている段階でも何かしらの仕掛けをしておけば、死後動かせるようになるんだろう。」
グレコはテネトを【掌握】で操作していた。
その関係上スキルについても知っているが、細かいことまではわからない。
あくまでスキル名と大体の能力がわかるだけ。
個人が編み出した使い方や、複雑な仕様などはグレコの知るところではないのだ。
「こいつがいる以上相手の雑魚は無限湧きみたいなもんだ。だからこいつらは魔導兵やサイラスの戦力に任せたい。」
「まぁそれが一番良さそうね。カッシルにもそう話しておくわ。」
「俺もその戦いに参加しよう。俺はどちらかといえば暴れる方に適性がある。」
「じゃあセドナもそこだな。こいつも暴れるの向きだ。」
無限に蘇る魔物達など普通に考えれば勝ち目がない。
故にその相手に戦力を割くのではなく、雑兵を回して魔物の気を引く。
それが最善の策だとグレコは考えた。
魔導兵は勿論カッシル配下であれば守りに関して秀でているため目立った被害も出ないはず。
セドナやロッツがいれば、テネト本体ともある程度張り合えるだろう。
互いに被害を出さず、大軍を交わし合う。
今回の戦いは国家通しの潰し合いではない。
グレコかランベリー、どちらかが死ぬまで続く大将戦なのだ。
「で?次はコルワかしら。」
「そうだな、【不死】を持つ大変態。はっきり言ってこいつを討伐するのは不可能だと思うが。どうするか。」
「コルワさんなら……私達に任せて欲しいな。」
珍しくライラが口を開く。
普段から蕩けきっているライラの眼は凛と吊り上がり、固い決意を滲ませていた。
「私も同意見だわ。あの変態は……私達が殺してみせるわ。」
この姉妹のコルワへの恨みは計り知れない。
父を殺され国民も大量に殺され、挙句そいつと長い間旅をしていた。
例え相手が【不死】の化け物だろうと、絶対に許せはしないはずだ。
そして、グレコにも許せない相手が存在する。
「じゃあ俺はランベリーとタイマンを張らせてもらうぞ。」
「タイマンって……大丈夫なの?」
「大丈夫だ。俺はあいつのことを知り尽くしてる。あいつをぶっ殺す策ならもう万全だ。」
不安げにグレコを見つめるアイラ。
その不安も当然だろう。
今回の敵の中で最も強いのは間違いなくランベリー。
そしてこの中で最も戦闘力が低いのは、間違いなくグレコである。
いくら因縁の相手と言えど、タイマンを張っていい実力差ではない。
「考えてもみろ。俺はお前らを一度地の底まで叩き落としてるんだぞ?普通に戦えば瞬殺されるような実力差があるお前らをだ。一ヶ月も時間があれば、相手がランベリーだろうと問題なく潰せる。」
「それはそうでしょうけど……。言っておくけど私達は助けに来れないわよ。相手はコルワだもの、早々決着をつけれないわ。」
「あぁ、そうだろうな。心配しなくてもランベリーと相対するのは俺一人で十分だ。」
ボードに置かれた駒を動かし、グレコは笑みを浮かべる。
ランベリーを意味する一際大きな駒、その手前にグレコはピンを刺した。
「何で、あんただけ駒じゃないのよ。まだ駒は余ってたでしょう?分かりにくいわね。」
「これで間違ってない。俺は駒じゃないからな。」
「相変わらず思い上がった男ね……。まぁいいけど。」
ある程度の作戦会議を終え、アイラがどかっと椅子に座る。
「期間は一ヶ月あるが、俺はその間色々とやる事がある。多分お前らと次会うのは決戦の日だ。それまでお前らはサイラスの治安維持にでも努めておけ。」
「分かったわ。治安を取り戻せば動かせる兵士の数も増やせるはずだしね。魔王討伐の大義名分を掲げれば冒険者も集められるはずしょう。任せておきなさい。」
元王女が立ち上がり、それぞれがそれぞれの為すべきことをするため動き始める。
決戦の時は遠いようで近い。
ことグレコに関しては、一刻の猶予もないのだ。
最後の復讐を果たすため、グレコもその頭を動かし始めたのであった。




