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63.囚われのお姫様

「と、いうわけで一ヶ月後俺はランベリーと戦争をする。」


天井には蜘蛛の巣、足元には鼠。

あの綺麗な城の中にこんな部屋があったのか。

そう思ってしまうような一室で、グレコは檻の前に立つ。


「それが、どうしたっていうのよ……。」


檻の中に縛られた一人の女。

綺麗な金髪は煤で汚れ、細い足は血で汚れている。

あの美しい王女の姿はもうないのだ。


「そんなに睨むな。俺はお前を助けに来てやったんだぞ。」

「はぁ……!?あんたが、あんたが私をこんな所にぶち込んだんでしょうが!」

「ぶち込まれたのが地下牢なだけマシだろ。俺はお前に汚いおっさんの()()をぶちこむつもりだったんだぞ。」


わざとらしく首を回し、グレコはシラを切っていく。

革命によって王座を奪われたアイラをこっそり誘拐し、性的に辱める。

それが当初の作戦だった。

しかし、事情は変わったのである。


「まぁとにかくこれを見ろ。これを見ればお前にも戦う理由ができるはずだ。」


グレコは手に持っていた一枚の紙をアイラに投げつける。

空を舞った固い紙をアイラが咥え、顎を頑張って動かしつつその内容を読み始めた。


「期日は一ヶ月後、場所はサイラスのはずれアルバ村。差出人はグレコ、コルワ、テネト?何、あんたコルワに裏切られたの?」

「あいつは元々誰かに忠誠を尽くすタイプじゃない。ここで裏切られたのはイラつくが、想定の範囲内だ。問題は三人目の方だ。」

「三人目?テネトって誰なのよこれ。」

「お前も見たことあるはずだぞ。まぁ名前を知ってるのは俺だけだろうがな。」


そう言ってグレコは牢の鍵を開き、中に入る。

ここからの話は、誰にも聞かれるわけにはいかない。

今から話す情報が世間に広まれば、全ての人の心に暗い雲がかかるだろう。


「クソ長い髪とババアみたいな口調のガキ。そういえばわかるか?」

「はぁ?もしかして魔王のこと……?まさか、本当にランベリーは魔王と手を組んだっていうの!?」

「そういうことだ。あと、魔王じゃなくて当代魔王って呼んだがほうがいいぞ。魔王は、一人じゃない。」


驚愕し、腕についた鎖を揺らすアイラ。

ここまではあのオーク達との戦いである程度想定はされていた部分だ。

この女にはまだ驚いて貰う話がある。


「コルワが裏切ったこと自体は想定内ではある。だが、お前が思っているコルワと俺が知ってるコルワには微妙に差異がある。」

「さっきから遠回しな話が多いわね……。コルワなんてただ【不死】なだけの狂人でしょう?」

「まぁそれも間違いではないが。あいつの正体は先代魔王だ。」


コルワの手首に付けられた枷を外しつつ、グレコは端的に事実を述べる。

【掌握】でコルワに触れたグレコだけが知っている話。

アイラからすれば、気が狂いそうな真実だ。


「お前の国を何度も襲い、先王ケインを筆頭とした多くの国民を虐殺した先代魔王。お前らが殺したくて殺したくて仕方がなかった存在。お前は、そいつと長い間旅をしていたんだ。」


部屋の中に響くグレコの声と、アイラの呼吸音。

枷は外れ体への負担は減ったはずだが、その息遣いはどんどんと荒くなっていく。

それほどに、受け入れ難い内容だろう。


「お前に復讐する時にこの話を使ってもよかったんだが。下手に話すとコルワがどう動くか分からなかったからな。今の今まで黙っていた。」

「……。」

「これで分かったか?復活した当代魔王と、忌まわしき先代魔王。そしてそれと手を組んだ勇者。例えついこの間復讐した女であろうと、力を借りなければ倒せない相手だ。」


一切悪びれもせず、グレコはそう語る。

コルワの正体自体はテネトと契約した頃から知っていた。

これまで黙っていたのは他でもない、何かに使えそうだったから。

先代魔王はグレコにとっても恨むべき相手だが、同時に最も有効な手札でもあった。

そんなことを考えつつグレコがあくびをしていると、アイラが勢いよく立ち上がる。


「有り得ない……!そんな、あの、あの変態め……。絶対、絶対に殺してやるわ!!!」


アイラが両手から火を噴き出し、辺りに熱気が立ち込める。

その様を見て、グレコはかなり驚いていた。

今、アイラは魔法の詠唱をしなかったのだ。


「お前……詠唱はどうしたんだよ。」

「詠唱なんて魔法の正確性を高めるためのものに過ぎないわ。ただ敵を燃やし尽くすだけなら、そんなもの必要ない。私はまだ本気の八割も出してないわよ。」


怒り狂ったアイラが口早に語り、炎が消えていく。

確かに、グレコはアイラの本気を見たことがない。

これまでにもアイラの戦闘シーンは数多く見てきた。

オークと戦った時のように疲労することはあれど、相手に対し戦闘力の面で劣ったことは一度もないのだ。

ランベリーはスキルの面において人類最強だが、アイラはスキルなしの戦闘において世界最強である。


「まぁお前がまだまだ元気ならそれはそれでいい。で、俺に協力するのか。」

「してあげるわよ。どうせしなくても【掌握】で強制的に協力させるつもりでしょう。」

「流石俺のことをよく理解してるな。」


落ち着きを取り戻したアイラと共に檻を出て、無人の看守室に置いてあった椅子に腰掛ける。

戦いのための話し合いをするのに牢屋の中というのは些か落ち着かない。

かといってかつての王城には帰れない以上、これぐらいが今の立場にぴったりだ。


「いい?あんたを許したわけじゃない。ベリオットを殺したことは事実だし、私の大切な国民達を大勢殺したのも事実。だけど、今倒すべきはあんたじゃなくて魔王達。そのことを理解しておきなさい。」

「全く同じことを俺も返してやるよ。俺はまだお前に復讐し終えてない。ただお前らの力を借りないとランベリーを殺せなくなったから利用しにきただけだ。何もかも終わったら、お前を殺す。」


互いに睨み合い、殺意を交わす。

この二人は決して信頼しあう仲間ではない。


魔王と勇者の撃破


ただその共通目標のために手を組むだけ。

志を共にする刹那の友。

それがアイラとグレコの関係性である。


「けどあの三人を倒しに行く前にまずはお母様とライラを救わなきゃ。私にとっての最優先事項はそっちよ。」

「それに関しては俺も協力してやる。フーネはともかくライラは立派な戦力だ。あの三人を相手にするなら、仲間は一人でも多い方がいい。」


アイラはあくまで次女。

王女たるフーネと第一王女であるライラとは全くもって扱いが違う。

それは牢獄にしても同じことであり、現在あの二人はここよりもっと厳重な牢に幽閉されている。


「あの二人は今この城とは少し離れた砦の中に閉じ込められているわ。民兵を中心とした人々によって警備されてるからそう簡単には救出できないはずよ。」

「というか、ここが簡単に入れすぎだ。国家の中心たる城の地下牢だっていうのに、ここまで誰にも見つからなかった。」

「あんたのせいで国内は大混乱なんだから仕方ないじゃない。国軍も騎士団も今はそれどころじゃないのよ。」


アイラがぐっと体を伸ばし、息を吐く。

たった数日の間とは言え、ずっと鎖で縛られていたのだ。

体を動かせることだけで幸せなのだろう。


「相手が民兵なのが厄介なのよ。下手に暴れると簡単に殺してしまうし、そもそも暴れること自体が問題だわ。」

「お前らは今国家で一番恨まれた存在だからな。フーネ、ライラ、アイラの順でトップスリー。そして第四位が俺だ。」


国民からの不信感を募らせ、自発的な革命を促す。

そういう作戦だった以上、グレコ達が国民に恨まれているのは当然だ。

そして民のことが大好きなアイラが国民に対して無闇に抵抗しないのも想定内。

アイラの牙は強力だが、それが民に向けられることは決してない。


「言っとくけど民を【掌握】して警備を辞めさせるなんてことは絶対に許さないわよ。私と手を組む以上、民には品行方正でいてもらうわ。」

「分かってる。心配しなくても【掌握】どころか唾を吐くつもりもない。俺が利用するのは、別の人間だ。」


グレコはそう言って椅子から立ち上がり、階段の前に立つ。

サイラス王城の最下にある地下牢。

ここから目指すのは、城の最上階にある王の間である。


「俺達は民に死ぬほど嫌われていて、尚且つ民に手を出せない。それなら民が今一番信頼している人間に会いに行き、民に指示を出して貰えばいいんだ。」

「それって……私達に変わって国家を仕切り始めた市民政府のトップに会いに行くってこと?私すぐとうごくされたから誰が上にいるのかすら知らないわよ。」


アイラが背後に立ち、共に上を見上げる。

確かにアイラは知らないだろうが、グレコは市民政府のトップに誰がいるかなど想像がついている。

市民政府の樹立に関しても、仕組んだのはグレコ自身だ。


「カッシル・ハルトマン。サイラス騎士団団長にしてサイラス国初代大統領。最早何度目かわからないが、あいつをまた利用しに行くぞ。」


齢十七の若き支配者。

その力を借りるため、グレコ達は階段を登り始めた。

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