62.決戦の地
「ほぉ〜随分とボロボロのとこじゃのう。」
三人は魔王城から場所を移し、荒れ果てた土地に立っていた。
家は軒並み崩れ、木々は枯れ。
生物といえば汚らしいカラスのみ。
かつては街だったであろう場所で、ランベリーは腰を落とす。
「テネトはまだしも、コルワは来たことがあるはずだろ。覚えてないのか。」
「覚えてないね!僕、過去を振り返らない主義だから!」
全く自慢することではないが、コルワが偉そうに胸を張る。
魔族にまともな記憶なんて存在しない。
フラフラと現れ、全てを破壊し、フラフラと去っていく。
あの時も、そうだった。
「ここは昔サイラスの領土だった場所だ。今も一応サイラス領ではあるらしいが、誰も来ないし誰も覚えてない。そして、ここが俺の故郷だ。」
「俺の故郷ってことは……グレコの故郷ってことだよね!」
「あぁ、俺とあいつが幼少期を過ごし。先代魔王たるお前に滅ぼされた。最も、その話を覚えているのは俺だけらしいがな。」
歴史上何度かあるサイラス襲撃。
その一つによって、ランベリー達の村は滅ぼされた。
他でもない、コルワの手によってである。
圧倒的な力の前に、幼いグレコとランベリーは何一つ抗えず蹂躙された。
勿論魔族の王たるコルワの顔など見ることもできず。
ただ、無慈悲に全てを奪われた。
「僕は覚えてないし、グレコも記憶ないもんね。あれ?けど街ってことは他の人間も居たんじゃないの?」
「よくお前がそんなことを言えるな……。元々家族はいなかったが、街には大勢人がいた。皆貧乏だったが、決して悪い奴らじゃなかった。それも全部お前に殺されたがな。」
「あー。そうだね、うん、そうだ。一応謝っておくよ。全く覚えてないけど。」
不穏な空気を察したのか、コルワが頭を下げる。
勿論真面目な謝罪ではなく、幼児が親に怒られた時のような適当さ。
本来であれば激昂して然るべきだが、ランベリーにはもうそんな感情が存在しない。
過去の因縁も、怒りも、今はどうでもいい。
グレコを殺すこと以外に重要なことなどないのだ。
「昨日、グレコに挑戦状を叩きつけた。一ヶ月後、俺はこの荒廃した街であいつを殺す。」
最終決戦の場について、ランベリーは色々と考えていた。
自分のスキルの都合上、人がいないところというのは絶対条件だ。
【無視】で全てを更地にしてしまっても、構わない場所。
そこで思いついたのがここだ。
そして何よりも、ここにはグレコとの全てが詰まっている。
「グレコの作戦を受け入れるとは聞いたが、ここは流石にグレコ有利すぎないか?壊れているとはいえ建物が多いし、地形としても包囲したりなんだりやりやすそうじゃが。」
「地形を利用してくるなら壊せばいいし、建物も壊せばいい。」
「ついこの間まで勇者を名乗っていた人とは思えない発言だなぁ。そうだ、一緒に戦うんだからさ。ランちゃんの力について教えておいてよ!」
コルワがそう言いながらランベリーの前に立つ。
裏切りの権化と言える存在にスキルの詳細を話すなどあってはならないことだ。
もう一度グレコ側に裏切られてしまえば全てが台無しになる。
しかし、それは弱い人間の話。
ランベリーほどの強者であれば、どれだけ情報を握られようと問題はない。
「物理法則、感覚、常識。ありとあらゆる物を何か一つ【無視】することが出来る。簡単にいえばそんな感じだ。」
「そして妾との契約によってそれは強化。現在此奴は己の頭が回る限り複数の要素を無視できる。」
「言ってみればグレコの【掌握】と同じだ。簡単な内容なら容易く無視できるが、細かい内容は数個しか無視できない。」
【無視】
間違いなく最強のスキルであるそれは、テネトとの契約によって大幅に強化された。
だが、未だに様々な制約が存在する。
例えば、距離を【無視】して遠くの敵に攻撃を当てる。
これは非常に簡単な話だ。
頭の中で攻撃を当てる地点をしっかりと認識し、武器を振るうだけで実現できる。
しかし、高速で移動するというのは非常に難しい。
まず自分の体の重さを【無視】し、そこから更に空気抵抗や重力を上手く【無視】して移動速度を上げる。
【無視】するものの数も多い上、頭への負担も非常に大きくなるのだ。
「相手と自分の距離は簡単に認識できるが、自分の足にかかってる空気抵抗、なんてものは普通認識できない。そういう認識しにくいものを【無視】しようと思えば思うほど、脳への負担が多くなって同時に【無視】できる数が減っていくんだ。」
「なるほどねぇ。前に僕と戦った時にやってたお腹の硬度を【無視】する奴とかは比較的やりにくいってことか。」
「そうだな、腹の硬さなんてわかりにくい。視覚で認識できるものが一番【無視】しやすい。基本として五感で認識出来るとやりやすいな。」
そう言ってランベリーは手に持ったリンゴを放り投げる。
己の足の重さは認識しにくいが、リンゴの重さは簡単に認識できる。
圧倒的な力にみえて、意外と繊細な操作を必要とするのが【無視】というスキルである。
「後はそうだな……。最大の弱点としては、不意の攻撃に弱いって所だ。攻撃は大体無効化できるが、攻撃が来ていることに俺が気づかないと【無視】出来ない。」
ランベリーがかつてグレコに敗北を喫したのも、この性質が理由である。
地下など見えない所から来る攻撃に対してランベリーは無力。
その為辺りを索敵できるグレコや、不意の攻撃を予測できるライラを必要としていた。
「まぁその点は僕がカバーしてあげるよ。不意の攻撃に無茶苦茶強いのが僕だからね!」
コルワがドンと胸を叩く。
コルワのいう通り、勇者パーティはあれでいてかなり完成された集団だった。
火力役、タンク役、ヒーラー兼後方火力、索敵役、支援役、オールラウンダー。
決して意図的に集められた集団ではないにせよ、全員がそれぞれの役割を全うしていたのである。
「う〜ん、一ヶ月後が楽しみだねぇ!グレコの死に顔が観れると思うと楽しみで仕方ないよ!
「うむ。妾の雪辱、晴らさせてもらうぞ!」
二人の魔王が息を巻く。
決戦は一ヶ月後。
勇者と魔王の陣営は、既に覚悟を決めていた。
「はい、ということでね!こちらが一ヶ月経った戦場になりまーす!」
あれから一ヶ月。
時はあっという間に流れ、遂に決戦の時が訪れていた。
正面突破の作戦を取ることにした以上、ランベリー達に仕事はなく。
この一ヶ月間、ただひたすらに己の技を磨き続けていた。
「お主らはただ筋トレやら何やらしてただけじゃろうがな!妾は大変だったんじゃからな!」
「まぁまぁテネトちゃん。そう怒ると可愛い顔が台無しだよ?」
額から汗を流すテネト。
そしてその後ろには、大量の魔族や魔物が控えていた。
「こいつら全員、強化してあるのか。」
「勿論じゃ。力を強めるのは勿論、死んでからも自動で動くようにしておる。死後はお主らのことも見境なく攻撃するから気をつけるんじゃぞ。」
この戦いは、あくまで戦争である。
グレコがどういう手段を取ってくるかは知らないが、あちらも何かしらの軍勢を引き連れてくることは間違いない。
「テネトは魔族を率いてグレコの軍勢をどうにかしろ。コルワは多分やってくるであろうアイラの相手だ。そして俺が、グレコを殺す。」
「オーケーオーケー!グレコが誰を連れてこようと、ぜーんぶ僕が引き受けてあげるよ!だから安心して殴り合いな!」
単に説得してくるのか、【掌握】で操作して連れてくるのか。
どちらかはわからないが、間違いなくグレコはアイラとライラをこの戦いに連れてくるだろう。
なんせランベリーがグレコに送った挑戦状は、二人の魔王との連名で送られてくる。
そんな所に単身突撃してくるほど、グレコは頭が悪くないはずだ。
「さて、どうやら来たらしいぞ。目的の相手がな。」
テネトがそう呟き、三人の視線は遠くの空に集まる。
巨大な鳥に乗り、こちらへ近づいてくる一つの影。
そしてその下を闊歩する無数の人々。
長い長い復讐の終わりが、すぐそこまで迫っていた。
来週からはまたグレコに戻ります




