61.揃った駒
「よし、さっさと蘇生しろ。」
サイラスから帰還した二人は、担いできた二つの麻袋を机に投げる。
人間の骨と砂が入っているわけだから相当に重く、それを運ぶ作業はイラつきを産むものだった。
「ここまでバラバラの死体だとまずは首を探すところからじゃのぉ……。適当に手を突っ込んで片っ端からやってみるとするかの。」
テネトが大層めんどくさそうにしながら袋に手を突っ込む。
どういった状態の死体でもパーツさえ揃っていればゾンビとして動かせる。
とはいったものの、能力の発動条件である「首を掴む」という部分は達成しなければならないらしい。
適当に手を突っ込んで、首だったものに触れることを祈りつつ。
テネトが骨と砂を掻き回していく。
「お、いけた気がするぞ!ほーれ!蘇れぇ!」
高らかな声が上がり、麻袋が一人でに動き始める。
やがて袋の口が完全に開き、中からぬらりと起き上がってく一つの人影。
大柄の体型と太い腕が特徴的で、背筋が凛と通っている。
八割は朽ちているものの、これが誰かなど一目瞭然だった。
「久しぶりだな。ベリオット。」
あられもない姿になったかつての仲間。
最早返事がすることも、あの豪快な笑い声を上げることもない。
生きた屍とは、こういうことを言うのだろう。
「話しかけても返事はせんぞ。妾の【死霊】はあくまでも死者の体を使っておるだけじゃ。死者蘇生の類とは全く違う。妾の言うことは聞くがな。ほれ、動け。」
その指示に従い、ベリオットの骸が動き始める。
人間らしい歩き方とはかけ離れた動き。
恐怖しか感じないその動き方で、ベリオットはゆっくりとこちらに近づいてくる。
「妾がちゃんと動かせばスキルを使ったりも出来るぞ。どれ、戦ってみるか?」
「俺が戦っても絶対に勝てるから意味がない。コルワ、戦ってみてくれ。」
「げ、僕……?嫌だなぁこんな不気味なやつと戦うの。」
コルワが渋々、といった様子で立ち上がり、腕の筋肉をほぐし始める。
基本的にコルワは人の頼みを断らない。
魔族の性質なのか個人の性格なのか知らないが、昔からそうだ。
「よーし、ばっちこーい!」
高らかな叫び声が上がり、コルワがベリオットの腹を殴る。
自分達が殺した相手、それも【死霊】で蘇った屍だが、こうも遠慮なく殴れるあたりこいつはやはり魔族だ。
人を殴れと言われて殴れる人間は、そういない。
コルワが放った打撃はベリオットの腹を貫き、屍が軽く体勢を崩す。
「お?ベリオットおじいちゃんにしては随分と簡単に倒れるね!?僕のパンチ力が上がったのかな!?」
「ふふふ、ここからが妾の力の真髄じゃ。」
テネトが不敵に笑い、ベリオットの体が再び動き出す。
【死霊】は死者蘇生ではない。
それはつまり、何度体が壊れても立ち上がることを意味していた。
「いいねいいねぇ!無限に起き上がる屍相手なんて、めっちゃ盛り上がっちゃうよ!」
コルワが目を輝かせ、ベリオットの顔を殴り続ける。
柔らかい屍の顔はどんどんと形を崩し、蜂の巣のように穴が空いていく。
しかし、そんな有様になろうとベリオットは倒れない。
自分と似たような性質を持つ相手と戦うのは大層楽しいらしく。
コルワは狂喜乱舞しながら拳を振るい続ける。
「はっはっはっ!最高の肉壁だねこれぇ!たっのしー!ってぶべ!?」
コルワが素っ頓狂な声をあげ、戦いを眺めていたランベリーの頬を何かが掠める。
血飛沫か何かと思って後ろを振り向くと、そこには見るも無惨な肉塊が転がっていた。
服装やら何やらの情報からして間違いない。
この肉塊は、先ほどまでコルワだったものだ。
「【蓄積】か。これは思った以上に、戦力になりそうだな。」
ベリオットの持つスキル、【蓄積】は自分の体に入ったダメージを筋力に還元する。
しかしダメージを軽減したりすることができないため、実質的にはそこまでの威力が出ず。
出たとしても自分が瀕死になっているという中々使いにくいスキルだった。
だが【死霊】と組み合わさると話は変わる。
無限に再生するボロボロの体がある以上、【蓄積】のデメリットは完全に克服されている。
生前であれば、馬鹿力程度の表現で済んでいたベリオットのパンチも、無制限に強化されるのだ。
「あたた……凄いね全く。」
コルワの方も流石の再生力を見せつけ、肉塊はすぐに人の形を取り戻した。
【不死】も【死霊】も、そして【蓄積】も。
全てが強力な武器。
それを確信し、ランベリーは腰を落とした。
「で、どうやってグレコを殺すの?」
最大限ウキウキしながら、コルワがニヤつく。
手駒は揃った。
後は動かすだけだ。
「今回の屍回収は作戦に入らないと思うんだよね。ベリオットの死体が消えたことぐらいすぐに気づかれるだろうし。現状、僕らって割と丸裸じゃない?僕の裏切りも、テネトちゃんの復活も全部バレてるよ?」
「そうだろうな。俺としても色々と策は考えたが、この戦力だと策を弄するのは無駄だ。それに相手はグレコ。小細工を仕掛けても利用されるだけに違いない。」
現にアイラとライラはその頭の良さを利用された。
民のことも何もかも考えず、ただグレコを抹殺しようとすれば多少の被害を生みつつも勝利は出来たはずだ。
「グレコにしても俺が命を狙いに来てることはわかってるはずだ。今もきっと俺を返り討ちにするために策を張り巡らせてる。」
「まぁ間違いないだろうね。というか、ランちゃんが殺しに来なくても、グレコはランちゃんを殺しにくるはずだよ。」
「あぁ、だから俺は策を講じない。正面から力で押し切り、グレコを殺す。」
手に持っていた果実を叩き壊し、ランベリーはそう話す。
「正面からとは言うが、グレコがそんなことを許すのか?奴は自分が負ける戦いを受けない主義じゃろうて。奴は絶対にいやらしい作戦を考えてくるぞ。奴は殴り合いで石を投げてくる男じゃ。」
「そうだろうな。だが俺はそれを受け止めるんだ。」
ランベリーが果実の欠片を地面に置く。
あくまでもこちらが小細工をしないだけ。
グレコの小細工は、認めるつもりだ。
「俺は、奴に挑戦状を叩きつける。」
欠片を摘んで前に動かす。
グレコがこれまで戦った相手。
ランベリーはまずそれらについて調べ上げた。
一人目であるベリオットはグレコの罠を踏み抜いてしまった。
そもそもベリオットという人間は付けいる隙が多い。
家族を捨てて旅に出たという過去もそうだが、軽率でギャンブル好きの性格もそう。
ベリオットは己の弱みを知られている時点でかなり不利。
そして何よりも、グレコの事を警戒していなさすぎた。
二つ目の戦闘であるバルトラとサイラス騎士団。
あの戦いにおいて、グレコはかなり追い詰められていた。
その理由としては何よりもヴィトの存在が大きい。
能力不明の強力な敵。
その存在に対する恐れがグレコの思考を鈍らせていた。
また、カッシルの存在も大きかったと言えるだろう。
絶対に倒せない敵に対してはグレコも手が出せず、結果として融和の選択肢を取っていた。
そして最後のアイラ、ライラである。
あの二人は逆にグレコを自分達のテリトリーに招き入れた。
衆人環視の元でグレコは策を講じにくかったようだが、結果的には全てを利用されてしまうことになった。
未来が見えるライラと、圧倒的な火力を持つアイラ。
最強のコンビともいえるあの二人は戦闘においてグレコに負ける事はない。
だが、彼女達には自分達の命よりも守るべきものがあった。
「過去の戦闘を踏まえると、グレコは絶対に敵の誘いに乗ってくる。誘いに乗った上で策を講じ、全てを逆転する。それがグレコのやり方だ。」
「まぁそこに関しては間違ってないね。グレコは意外と行き当たりばったりな所があるから。」
「だから俺達もあいつを誘い込むんだ。十分な日数と十分な環境。俺達との戦争という無謀な話でも、勝機が見えてくるような甘い戦いにだ。」
これからの戦いは間違いなく最終決戦だ。
グレコも持てる力の全てを出してくる。
ランベリーはそう確信していた。
「あいつは全力で頭を回し、俺は全力で剣を振るう。俺達の殺し合いなんて、それで十分だろ。」
かつての友であり仲間。
グレコを殺すために、相手を出し抜く策など要らない。
ただ己の持てる全てを使って、叩き殺すだけである。




