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59.魔王と魔王

「その口ぶりは……僕の正体を知っちゃったみたいだね!」


コルワが腰に手を当て、踊り始める。

昔から得体の知れない相手だった。

だが、正体を知った上で顔を合わせると……。


ランベリーの胸にも少しの恐怖が湧いてくる。


「よくも長い間俺達を騙してくれたな……。先代魔王め……!」

「その肩書きはとうの昔に捨てちゃったなぁ。僕は今人間の味方。ただのコルワちゃんだよ♪」


細い手を Vの字にし、笑うコルワ。

コルワ、すなわち先代魔王の所業はグレコもよく知っている。


定期的に人里に現れ、大量の人間を殺戮していなくなる。


ことサイラス国を訪れた際は多数の国民を殺戮した挙句、先王たるケインを殺して姿を消した。

自由奔放かつ悪虐非道。

それが先代の魔王である。


「グレコの横にいる時点で、お前は既に人間の味方ではない。覚悟しろ。」

「も〜そのグレコみたいな喋り方辞めなよ!それに僕は本当に人間の味方だよ!なんせ今、僕は裏切ろうとしてるからね!」

「裏切り?魔族も俺達も裏切ってまだ裏切るのかお前は。」

「イエース!僕は常に面白い人の味方だからね!」


そう言ってコルワが背中を叩いてくる。

その動きに戦意は感じられず、親愛なる友人を励ますような。

どうやらこの魔王は、冗談を言っているわけではないようだ。


「魔王の地位を捨ててランちゃん達に着いて行ったのも、ランちゃんの圧倒的戦闘力に惹かれたからだし!その後グレコに着いて行ったのは、復讐に燃えるグレコが面白そうだったから!そして今一番面白いのは……。」

「グレコへの殺意に駆られて何もかも変わり果てた、俺ってことか。」

「せいかーい!」


コルワが大きく飛び上がる。

言っていることは、かなり異常。

だが発言者たるコルワからすれば、当たり前の行動なのだろう。

さも当然のようにランベリーに体を寄せてくる。


「そもそもお前を受け入れると思っているのか?お前は先代魔王。このサイラスを一度壊滅状態に陥らせ、先王を殺したんだ。俺だけじゃない、人類はお前を許したりしないぞ。」

「う〜ん。確かに人を殺して遊んだりもしたけどさぁ。一応心代わりをしたんだよ?これでもさぁ。」


体を寄せるだけにとどまらず。

コルワは足を巻きつけ手を巻きつけ、ランベリーに密着してきた。

多少の罪悪感は抱いているような素振りを見せているが、それで許されることではない。

ただ相手を殴ったとか、金を奪って逃げたとかではないのだ。

コルワが行ったのは、虐殺としか言いようのない行為である。


「それにぃ、僕はケインを殺したりなんてしてないしぃ。ケインは勝手に死んだんだよ!『自分のことは好きにしていいから、国民の事は助けてくれ。』って懇願しながら!」

「お前が殺したことには変わりないだろ。」

「いやいやあれを断るのも失礼でしょ?それに僕はケインを心の底から尊敬してるんだよ!自分とは無関係の人々のために命を張れる!人間の一番面白い所だね!」


両手を天に向かって擦り合わせるコルワ。

コルワの正体が先代魔王である。

その事実を知った日から、ランベリーには気になっていることがあった。


勇者パーティ内におけるコルワの役割は、いわゆる肉壁であった。

どれだけ大量の敵に遭遇した場合でも最前線に立ち。

いかなる攻撃も体で受け止める。

例えそんなことが実現できるスキルを持っていたとしても絶対にやりたくない仕事。

しかしコルワは、その仕事を自ら進んでやっていた。


「お前の自己犠牲精神はケインの真似事ってことか……。」

「そういうこと!僕が身を挺し!僕が面白いと思ったものを守り抜く!さいっこうに健全な関係だと思わない!?」


やっと話が伝わった!

とでも言いたげな表情でこちらを見てくるコルワ。

しかし、こいつのやっていることはケインへの冒涜とも言える行為だ。


ケインは何も命を捨てて民を守ることに快感を感じていたわけではない。

ただ心の底から民を守りたかっただけ。

コルワのやっていることとは、目的と結果が逆である。


「で?どうするの?ランベリー・レオナル。いや、見たところ魔族と契約したみたいだからただのランベリーか。僕を味方にして一緒にグレコを殺す?それとも先代魔王たるこの僕を敵に回して無駄な汗を流しちゃう?」


急にコルワが飛び上がり、こちらと距離を取る。

どちらを取っても、地獄のような選択だ。

名実ともに化け物であるコルワがグレコの元にいる場合、これからの戦いはさらに激化するだろう。

だがここでコルワと手を組む事は、いよいよランベリーの尊厳が失われる行為だ。

当代魔王たるテネトと契約した時点で最早ランベリーは勇者などという名誉ある人間ではない。

だが、コルワとまで手を組むということはまた異なる意味を持っている。


「アイラとライラはどうなってるんだ……。」

「あの二人ならグレコの策に溺れて失脚寸前だよ。もう数時間もすれば断頭台に首が並ぶんじゃないかな?それかグレコに連れ去られて陵辱されるか。どちらにせよ、まともな未来は待ってないと思うな!」


コルワがそう言うのを聞き、ランベリーは耳を澄ます。

コルワ、すなわち先代魔王と手を組むと言うことはサイラス王家との敵対を意味している。

先王ケインはアイラ、ライラの父親であるのは勿論だが、サイラスの英雄でもある。

その男を殺した先代魔王と手を組むことなど、アイラやライラは絶対に許してくれない。


「けどまぁ、いま手を差し伸べればどうにかなるかも知れないねぇ。何てったってランちゃんは勇者だし。」


どうでもよさそうに語ってはいるが、コルワのこれは提案でも進言でもない。

先ほどから引き続き、最悪の二択を迫っているだけ。


自分を仲間にしてグレコを殺すか、アイラとライラを仲間にしてグレコを殺すか。


そしてその回答を、ランベリーは既に決めていた。


「グレコをより確実に殺す。俺の選択はたったそれだけだ。」




「ひぃぃぃぃぃ!!なんで!何でこいつを連れてきたんじゃ!!」


魔王の玉座から転げ落ちるテネト。

その前には、深い隈を作ったランベリーと、半裸のコルワが立っていた。


「やっほ〜!お久〜テネトちゃん!会うのは最終決戦ぶり?いやあの時はグレコに操られてたから違うのかな?」

「知らん知らん知らん!これお主!何で!何でコルワがここにおる!」


怯え切ったテネトなど気にも止めないといった様子で、コルワが近づいていく。

当代魔王と先代魔王。

本来ならば絶対に会うことがない存在同士の関係は複雑だ。

親と子のような、上司と部下のような。

不思議な距離感を保ったまま、二人の魔王は馴れ合っていく。


「こいつが自分もグレコ討伐に参加すると言ってきたんだ。コルワは頭がおかしいが役に立つ。」

「そ、そりゃそうじゃろうが……。妾達にとってこいつが裏切り者なの忘れておるのか?」

「こいつが裏切り者なのは俺たち人類からしても同じだ。今はグレコを殺すことに専念しろ。」


コルワとサイラス姉妹。

この二つを天秤にかけた場合、通常勝つのは間違いなくアイラとライラだ。

極めて万能な魔法使いであるアイラと、未来と過去を見通すライラ。

戦力としてこれ以上ないほどの人材である。


だが、こと今に関してはコルワの方が仲間にする利益がある。

まずこちらには既にテネトがいる。

コルワほど憎まれてはいないだろうが、テネトも間違いなく魔王だ。

何とか説得してアイラ、ライラの理解を得られても、背後にサイラス国がいる以上互いに大手を振っては活動できない。


加えてアイラとライラにできる事は、ランベリーにも概ね実現可能だ。

高火力もバリアも索敵も。

全てそのまま実現という訳にはいかずとも、【無視】があれば代用できる。

しかしコルワの力だけはそうもいかない。


絶対に死ぬことのない兵力。


その優秀さは少し計略をかじった者なら誰もが理解している。

あの提案において、ランベリーの中にコルワと手を結ぶ以外の選択肢は存在しなかった。


「あぁそうそう心配しなくても、アイラちゃんとライラちゃんはそんなに酷い目に遭わないと思うよ。さっきは『まともな未来は待ってない』とか言ったけど。僕がこっちについた以上、あの二人は多分グレコに利用される。」

「だろうな。あの強力な駒をグレコが見逃すわけがない。」


グレコは悪魔のような男だ。

どういう手を取るかまでは予想がつかないが、使えるものは最大限に使うはずだ。

例えそれがつい先ほどまで戦っていた相手。

それも自分の手で地獄に叩き落とした姉妹であろうと。


「おい、何を勝手に話を進めとるんじゃ!妾は、妾はまだ認めとらんからな!この裏切り者め!」

「も〜うるさいなぁテネトちゃんは。仲良くしようよせっかく仲間になったんだからさぁ♪」


暴れ回るテネトをコルワが拾い上げ、膝に乗せる。

二人の魔王と一人の人間。

こうして奇妙なチームが完成し、一つの目的に向かって動き出したのであった。


「よーし!じゃ、グレコをぶっ殺そ〜!」


テトラを腹に抱えたコルワがそう叫び、夜は更けていく。

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