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5.奈落の賭博場

「おぉ!ちゃんと働いてくれたらしいなグレコ!ってそっちの女は誰だ?」

「ただの俺の部下だ。それよりこれで俺を仲間にしてくれるんだろうな。」


奈落に帰り件の料亭へと足を運ぶと簡単にヴィトに会うことができた。

昨晩も大層酔っ払っていたが、今日も今日とてこの男は泥酔している。

グレコ達が角を渡すよりも早く、商隊の人間が報告を済ませていたようで直ぐに賞賛の言葉が投げかけられた。


「あぁ勿論問題ねぇ。今日からお前は晴れて俺達『バルトラ』の一員だ。勇者の元仲間ともあろうやつが仲間になるんだ、重要なポストも任せてある。これからよろしく頼むぞ。」

「感謝するぜヴィト、いや親父。」


二人は固い握手を交わし、笑い合う。

奈落において仲間は重いものだ。

裏切れば全力で報復されるし、ボスには絶対服従。

昨日はつべこべとグレコに対して不満を垂れていたが、一度仲間になれば深い絆で結ばれる。

この街の結束は時間や経歴など必要としないのだ。


「お前酒は飲めるな。適当に座れ、今からグレコの歓迎会だ!」


ヴィトが同じ部屋にいた部下達にそう叫ぶ。

ボスに逆らうものなどいない、グレコに殺意を向けまくっていた男達の目線も柔らかくなり、一同は朝まで酒を酌み交わした。




「くそ……あの馬鹿共際限なく酒飲ませやがって……。大体なんだあの組織名!ボスの姓をそのまま使うとかセンスなさすぎだろ!」


ヴィトに用意された家で爆睡し、翌日の昼。

グレコは激しい二日酔いに襲われていた。

まだ二十年も生きていない若造に何も考えずに酒を飲ませる。

バルトラとかいう組織は想像通りモラルも何もない組織だ。


「はっはっはっ!大変そうだねグレコォ!僕は気分が良くて仕方ないよ!」

「てめぇは【不死】で内臓が瞬時に再生してるだけだろ化け物め……おえぇ!」


コルワがいつものごとく踊りながら背中を叩いてくる。

【不死】で再生できるのは体だけではない。

酒やタバコでダメージを受けた内臓から、衰えた皮膚まで。

有りとあらゆるものが再生できるが故に、コルワはその美貌を維持し続けている。

酒に関しても常にちょうどいいほろ酔い加減を維持できるのだ。


「グレコのせいで僕は自慢の長髪を切る羽目になったんだよ?お酒を楽しむぐらいは勘弁してほしいなぁ。」


もはや言葉を返す気力もなくなったグレコを他所に、踊るコルワ。

昨日まで振り回していた長い銀髪はすっかり短くなってしまった。

ヴィトに対する忠誠心の証としてコルワは一度殺害された。

その前提がある以上、コルワには別人を装ってもらう他なかったのだ。

少しばかり化粧を変え、髪を切るだけでヴィトを騙すことには成功したが、コルワとしては限りなく不満げである。


「言っただろ俺はお前を利用するだけだって。そんなことより、さっさと賭場へ行くぞ。せっかくヴィトから管理を任されたんだ取り敢えず一度訪れておきたい。」

「はいはい、わかりましたよーっと。何着ようかなぁ♪」


オーガを倒し忠誠を示したことで、グレコはバルトラが保有する賭場の管理人を命じられた。

【掌握】の詳細は勇者パーティ以外の人間に知られていない。

ヴィト達が知っているのはグレコが勇者の元仲間であり、悪事を犯して追放された悪党ということだけ。

どういう役回りを任されるか不明だったが、中々いい仕事である。

賭場で働く人々は上司であるこちらを自然と尊敬するはずであるし、民とも関わる機会も多い。

【掌握】で民を操作するにおいてはこれ以上ない環境である。




「おらおらぁ!今日の試合は伝説の猛獣ベヒーモスとファイター十人の総力戦だ!ファイター側に賭ける馬鹿者はいねぇのかぁ!」

「ファイターに百タイノ!」

「俺はベヒーモスに三百だ!」


酔いで震える足をなんとか動かし、グレコ達はスラムの中心へとやってきた。

基本的に夜の街である奈落にしては珍しく、昼間でも凄まじい活気に満ちている。

百タイノと言ったらサイラス騎士団の兵士一人ぶんの月収ぐらいだが、随分と羽振りのいいものだ。


「賭場というからカードや賽を使うのかと思ったが、これはどちらかと言えば闘技場がメインみたいだな。」

「中にスロットとかもあるみたいだよ!こういうところはほんとテンション上がるよねぇ!」


スリットの入ったチャイナ服に身を包んだコルワが賭場の中へ入っていく。

あれも確か異世界人が持ち込んだもので相当高価だったはずだし、城で貰った金は全部服に消えていそうだ。

金をくれてやったのは自分だが着る服は選んで欲しいものだ。

いくら美人とはいえ男のチャイナ服は複雑なものがある。

グレコはそう思いながら、後に続く。


「お待ちしておりましたぞグレコ様。わたくし世話役を仰せつかりましたダードと申します。色々とご説明を致しますので裏へどうぞ。」


賭場の中でまず迎えてくれたのは、ダードと名乗る老人だった。

白髪混じりの黒髪からは虎のような強さを感じ、顔の皺とは裏腹に背筋は一ミリも曲がっていない。

一目でわかるほどの実力者だ。

監視役の意味もあるのだろうが、これほどの男を部下につけるなどどうやらヴィトは自分にかなり重要なポジションを任せたらしい。

グレコは口角が上がるのを必死に堪え、賭場の奥へと進んでいく。


「おおー!中も中で綺麗だねぇ!」

「喜んでいただけたようで幸いでございます。こちらの方はグレコ様のお連れの方ですか?」

「あーコルネイアと言って俺の部下だ。長いからコルワでいい。」

「左様でございますか。よろしくお願いいたしますコルワ様。」


適当にコルワを紹介する。

コルネイアなんてどこのどいつだという話だが、一応コルワ本人は死んだことになっているのだから仕方ない。

呼び名をコルワにしてしまっては本末転倒という気がしなくもないが、一度仲間になれた以上コルワの件がバレても構わない。

所詮は取り入るためのちょっとした演技である。

ダードの方も疑問には思わなかったらしく、二人を大きな机と案内して賭場の説明を始めた。


「今日からグレコ様に取り仕切ってもらうのは、奈落中央にあるこの巨大な賭場。そしてそこで働く九十七名の労働者になります。賭場で働いているのはそれだけですが、闘技場では多くの魔物や奴隷を飼っておりますのでそちらの方の管理もお願いいたしますぞ。」

「九十七名……それに魔物と奴隷か。十分すぎるな。」


百名近い人間がいれば大分色々な悪事に取り掛かれる。

全てはランベリー達に復讐するため、使える手駒が多いのは良いことだ。


「さっきベヒーモスって言ってたよね!そんなの今まで見たことないんだけど本当にいるの!?」

「いえ、あれはただの巨大な犬の魔物です。どうせ本物など誰も見たことが有りませぬから、そう宣言しておけばベヒーモスということになるのですよ。」


ダードが不敵な笑みを浮かべ笑いかける。

随分と礼儀の正しい老人だと思っていたが、どうやらこの男もれっきとした悪人のようだ。

神獣ベヒーモス。

グレコとしても話には聞いたことがあるが、魔王を倒す過程で見かけもしなかった存在がこんな闘技場にいるのであれば大問題、偽物なのは当然といえば当然だ。

誇大広告上等、金を稼ぐためならば何でも許されるこの雰囲気が奈落である。


「闘技場のファイターの方はどこから調達してるんだ。」

「主にこの賭場で借金を背負ったものを使っておりますが、奴隷を使うこともございます。グレコ様がお救いになられたあの商隊が運んでいたのも、奴隷狩りによって商品にされた人間達ですぞ。」


奴隷狩り。

魔物の存在によって基本的に治安が悪いこの世界では頻繁に見られる光景だ。

サイラス王家が貴族による奴隷の使用を禁じてから、どこに買われているのか謎だったがこんなところで命を張らされていたのか。

奈落の情報は勇者パーティとして旅をしていた時から仕入れてはいたが、実際に来てみると知らないことばかりである。

グレコは感心しながら横に座るコルワと目を合わせる。

どうやら考えていることは同じようだ。

ギャンブル、奴隷、ここまで聞けば思いつく人物は共通である。


「最初に復讐するのはベリオットおじいちゃんで良さそうだね!」

「あぁ、あのギャンブル狂は絶対にこの手の場所が好きだ。上手くドブにはめてベヒーモスの餌にしてやる。」


グレコが復讐すべき者達。

その中でも最初の標的は戦士ベリオット・カイズナーに決定だ。

元騎士であり勇者パーティの大黒柱。

常に自慢げな老人の絶望の表情を思い浮かべ、二人は高笑いを響かせる。

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