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52.敗北という作戦

未来とは、可変である。


例え占星術で直近の未来が見えていたとしても、少しの変化でそれは崩れることがある。

それをアイラ達も理解しているため、戦いは本気だった。


「スパーク!」


ここは城の中。

アイラが最も得意とする炎魔法を使うことは出来ず、代わりに使われたのは雷魔法だった。

対象を狙って放つのではなく、辺り一体を捩じ伏せるような雷。

本気で人を殺すための魔法である。


「相変わらずの高火力で羨ましいなぁ!俺にも魔法教えてくれよ。」

「魔法ってのは精霊との交流なのよ!あんたみたいな男に使えるわけがないでしょう!」


放たれ続ける魔法を障害物を使って回避し、互いに大声をあげる。


魔法はスキルと違って誰にでも使える分、高い適性を必要とする。

精霊に気に入られるという最初の条件を乗り越えた上で、魔導に関する深い知識を有しなければ魔法を使えるようにはならない。

無論グレコのような野良犬には縁遠い力だ。


「あんたにはスキルしかないんでしょうけど、私にはこれしかないのよ!」


アイラが魔法の出力を上げ、グレコが身を隠していた机を破壊する。


アイラ、ライラ両名はスキルを保持していない。

本来王族のような血統が重視される人々には、スキルが備わっている場合が多い。

そのため彼女らが生まれた際にもかなりの期待がされた。

しかし、結果として二人ともスキルは持っておらず。

王家に仕えていた人々からは失望されてしまった。


だが姉妹は努力を辞めなかった。

占星術と魔術というスキルが無くとも身につけられる力を学び、実力で全てを黙らせたのである。


「相変わらず意味不明な火力だな……。こんなに荒々しい奴が次期女王ってこの国は大変だ!やっぱりここらで滅んどくのがちょうど良さそうだな!」

「グダグダとうるさいわね……!さっさと消し飛びなさい!アクア!」


アイラが辺りに水を放つ。

部屋の中は一瞬で水浸しになり、グレコは咄嗟に部屋を飛び出す。


「スパーク!」


予想通りアイラが再び雷魔法を放ち、先ほどまでいた部屋が黒焦げになる。

アイラは完全に激怒している。

城全体が燃えかねない炎魔法は使わずとも、手加減をするつもりは一切ないようだ。

この化け物と正面からやり合うのは無理。

グレコはそう判断して廊下を走り抜ける。


「逃げてるだけじゃ国は滅ぼせないわよ!そもそも私から逃げることも無理だと思いなさい!ウィンド!」


長い廊下を埋め尽くすようにアイラが風魔法を放つ。

咄嗟に脇道に飛び込んで致命傷は避けたが、グレコの肩から血が流れる。

体を巡る激痛に耐えかね、走る事を辞め息を殺すことに徹した瞬間。

グレコが隠れている部屋に向けて風魔法が飛んでくる。


「こっちにはライラもいるって事、忘れないでよね。」

「一人じゃ何も出来ねぇ癖に……。厄介な姉貴だな。」


ここはサイラス城内である。

所々にライラが紋章を描いており、城全体を監視できるようになっているのだろう。

超火力のアイラと、索敵のライラ。

この二人から逃げることなど誰であっても不可能だ。


「ならいっそ突っ込んでやるよ!」


アイラの魔法には詠唱という予備動作が存在する。

それならば近距離に接近し、魔法を使う前に叩き斬れば良い。

グレコはそう判断し、距離を詰めていく。


「アイラちゃん!右から!お腹の辺り!」


グレコが素早く剣を振ると、奥からライラの声がかかる。

それを受けてアイラが素早くバリアを張り、攻撃は弾かれた。

ライラの占星術は防御の面でも優秀である。

アイラのように印をかけた人間に降りかかる攻撃は、大体予測可能なのだ。


「未来が見えるなら越えるだけだ。」


グレコは義手ではない方の腕を自分から斬りつける。

未来予知で行動を予測されるのならば、予測不可能な動きを取ればいい。

ダードと戦闘した時を思い出し、グレコは己の腕を【掌握】する。


「くっ!手段を選ばなすぎじゃない!?」

「手段を選べるほど強くないからなぁ!許してくれよ!」


グレコが放った不規則な攻撃は、反射神経によってガードされる。

このまま続けていけば勝てるか。

そう思った時、アイラが空に舞い始めた。


「魔術の強い所は、複数同時発動が出来るってところなのよ!」


浮遊魔法で体を浮かし、防御魔法を体の周囲に貼り、上空から攻撃魔法を放つ。

最早一切の手出しが出来なくなったアイラに対し、グレコはできることを失い。

ただ蹂躙されるだけとなってしまった。




「あんたに手を出すととんでもない仕返しをされそうだったけど。最初からこうすれば良かったわ。飼い殺しは愚策だったわね。」


魔法を体全身に受け満身創痍となったグレコに対し、アイラが言葉を吐き捨てていく。

指の一つも動かせなくなったグレコを姉妹が取り囲み、尋問が始まる。


「グレコ、今あんたが知ってることを全て話しなさい。ベリオットはあんたに殺されたんでしょう?ランベリーの方はどこへやったの。どうせあんたが絡んでるんでしょう。」

「何も絡んでない。あいつが勝手にいなくなっただけだ。」

「ランベリーが一人で居なくなり、あんなに時間をかけて撃破した魔王の封印を解いたっていうの!?そんなこと、あるわけないでしょ!」


完全なる腹いせでグレコの腹が殴られる。

これに関して言えばグレコは本当に何もしていない。

コルワなら何か知っているのかもしれないが、グレコはそもそも長い間ランベリーと会話していないのだ。


「それより、お前らはこんなところで油を売ってて良いのか?」

「え……?」


たった一言で空気が凍る。

グレコが正面突破などという愚かな策を取るわけがない。

まして相手がアイラやライラとなれば、絶対に有り得ない作戦だ。

二人に敗北すること、ここまでがグレコの作戦である。


「アイラちゃん!これ、見て!」


グレコの発言を聞き、瞬間で自分のやるべきことを察したのだろう。

ライラが手持ちの水晶をアイラに向けて見せつける。


「何……これ。これって街から少し出たところよね……。」


水晶に映っている光景。

それは凄惨たるものだった。

暴れ回る大量の魔物と、蹂躙される民衆達。

どうやらグレコの作戦は、これ以上ないほどに成功しているようだ。


「カッシル、カッシルはどうなってるの!?印をつけていたわよね!」

「頑張ってみんなを守ろうとしてるみたいだけど……。この数じゃ……。」


カッシルの【障壁】は意識的に貼るものだ。

これほど大量の民衆、それも混乱して逃げ惑っている人々全てを守ることなどどう足掻いても不可能だろう。

他の騎士達と連携して民を一箇所に集めようとはしているが、暴れ回る魔物達相手ではそう上手くもいかない。

その有様を見て、グレコはゆっくりと種明かしをする。


「俺はあくまでお前らをここに引きつける役割だ。お姫様達はお城で大人しくしといて貰わないとな。」

「グレコ……!私達の民を傷つけてただで済まされると思ってるの!?どれだけ民を傷つけようと!あなたが負けた時点で私の勝ちなのよ!」

「はっ、今のうちにそう思っとけ。ここからお前らは地獄を見るんだからなぁ。」


確かにグレコは敗北している。

例え民が魔物に潰されても、王が存在していれば国は生きていく。

アイラとライラに一つの傷もついていない以上、復讐は成功していない。


「私の愛すべき民を傷つけた以上、あんたにはここで死んで貰うわ。」


アイラがグレコの剣を手に取り、刃を首に当てる。

その瞬間、近くの窓が割れる。

廊下に転がる石ころ。

次に響いてきたのは罵声だった。


「女王を出せ!腐り切った王族を皆殺しにしろ!」


どんどんと大きくなっていく声。

老若男女入り乱れたその怒声は、城を取り囲むように広がっていた。


「何!?またクーデター!?くっ、ライラ!グレコをさっさと殺すわよ!どうせこいつが民を操ってるのよ!こいつを殺せば騒ぎは収まるわ!」

「おいおい、まずは民の話を聞いたほうがいいと思うぜ?今回のクーデターに関して言えば、民は洗脳も【掌握】もされてない。全部、自分の意思だ。」


グレコはおぼつかない足取りのままゆっくりと立ち上がる。

今回アイラ達に手を下すのはグレコではない。

この二人は自分が最も愛した民達に復讐されるのだ。


「よっと、グレコ生きてる〜?愛すべきコルワちゃんが仕事をこなし、助けに来てあげましたよ〜!」

「遅すぎるが……まぁいいタイミングだ。じゃあなアイラ、ライラ。後はお前らで頑張ってくれ。」


血まみれのグレコをコルワが担ぎ上げ、二人は再び城を脱出する。

後は放っておくだけで復讐が果たされる。

次グレコが姉妹に会う時は、皇女としての地位を失った時だ。

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