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51.二人目と三人目

「ロッツ!一体何が起こってるの!?お母様は無事なのよね!?」


アイラが城内に入ってくると、そこでも多くの兵士達が走り回っていた。

ここまで通ってきた大通りも大量の民達が波のような勢いで動いていたし、あきらかに異常が起こっている。

現れたロッツにしても、酷く疲弊した顔をしている辺り、フーネの演説で何かが起きたのは間違いない。


「お戻りになられましたかアイラ様。フーネ様の演説が終わってすぐ、グレコが民に何かを施したようです。集まっていた民衆が一斉に街の外へと走り出しました。」

「遂に動き出したのね……。ロッツは引き続きお母様を守って。カッシルとライラはどこ?二人と話がしたいわ。」

「二人ともライラ様の部屋にいらっしゃいます。」


いそいそとロッツの元を離れ、アイラは城の階段を登っていく。

アイラとしてはグレコを監視によって押さえつけ、あの男が策を巡らせる時間を奪うつもりだった。

しかし、遂に行動を起こされてしまった。


ならば、戦うのみである。


「ライラ!グレコが暴れ始めたわ!」

「あ、アイラちゃん。うん、私達もそれを聞いて集まったところ……。」

「アイラ様。まずは作戦会議を致しましょう。」


カッシルにもグレコがいずれ自分達を殺しに来ることや、敢えて飼い殺しにしてあることを伝えてある。

こうしてグレコが暴れ始めた時の対応も、事前に打ち合わせ済みだ。


「グレコの【掌握】については既に部下に伝えました。現在は半数でこの城を警備、半数で市井の村人の沈静化にあたらせています。」

「流石に仕事が早いわね。ライラ、グレコの狙いはわかったの?」

「はっきりとはわからないけど……。アイラちゃんがグレコと戦ってる未来が見えたから、狙いはこのお城だと思う。」

「正面突破……グレコにしてはえらく直球な作戦ね。」


ライラの占星術をグレコかコルワに施すことができれば最善だったが、残念ながらその目論見は実現できていない。

コルワは定期的に腕が千切れているし、グレコには何度術を仕掛けても解除される。

結果としてアイラとカッシルの未来をみることでグレコの動きを把握できないが、まぁ目的がわかれば十分だ。


グレコはアイラ、ライラ両名に復讐するべく動いている。


「そうすると、民を逃したのが不思議ですね。混乱を生む目的であれば街の外ではなく城に向かって突撃させた方が合理的でしょうに。グレコにも民を守る気持ちがあるのでしょうか。」

「それだけは絶対ないと言い切れるわね。念の為カッシルも民の統率に周りなさい。城の方は私と残りの騎士団で十分だわ。グレコはありとあらゆるものを利用して私達を潰しにくる、決して気を抜かないで。」

「かしこまりました。私は先に指示を出して参ります。お任せください、民もお二人も、私が守り抜きます。」


カッシルが足早に部屋を出ていく。

残された姉妹は椅子に座り、向かい合う。


「アイラちゃん……実はおかしなことがもう一つあるの。さっき見えたアイラちゃんの未来なんだけど……。」

「私の?」

「うん、アイラちゃんとグレコさんが戦っているところが見えたんだけど、アイラちゃんは無傷なの。グレコさんは血塗れで倒れていて……。あのグレコさんがこんな一方的に負けることがあるのかな?」

「あるに決まってるじゃない。相手はこの私よ。私の魔法があればグレコになんて負けるわけがないわ。頭も回って力もある。それが私達よ。」


アイラがそう告げ、手から炎を出す。

姉妹に復讐せんとする悪魔の足音は、すぐそこまで迫っている。




「ご主人。腕の調子はどう?」


時は少し前。

ベランダから飛び降りたグレコは、セドナと合流していた。

初仕事を終えた魔導義肢をグレコは軽く撫で、息をつく。


「上々だな。思ったより命中率も悪いし数も飛ばないが、便利ではある。これがあれば今からの仕事も楽になるだろ。」


目の前にそびえる城を一瞥し、指を動かす。

ここからグレコがする事はただ一つ。


城に突入してアイラとライラを殺す。


そのために攻撃力が高いセドナを連れてきたのだ。


「今のところ城に居る主だった戦力はロッツ、ライラ、カッシル、フーネだ。暫くここで様子を見るぞ。アイラが帰ってくればまた配置がわかるはずだ。」


【掌握】で城内の様子を探った後、グレコは適当な植え込みに身を隠し、息を殺す。

アイラ、ライラは城の中にいるだろうし、ロッツもフーネの護衛の為に城を離れないはずだ。

動くとすればカッシル。

後は城内にいるサイラス騎士団だろう。




グレコの想像通り、アイラの帰還後城の中にいる人間はだいぶ変化した。

カッシルが単独で城から出て行った辺り、街にいる騎士団と連携して民を統率しに行くのだろう。

可哀想に、カッシルはまたいいように使われるのか。

グレコは少しの滑稽さを感じつつ、草むらから姿を表す。


「いいかセドナ。お前の仕事はただただ暴れることだ。もしロッツが現れれば相手して貰うかもしれないが、基本的には騎士を薙ぎ倒せばいい。俺がアイラ達に会いに行く道を切り開け。」

「わかった。任せて。」


これからの動きを確認した二人は、これまで潜んでいた庭を飛び出し城の前の広場に出る。

今回はアンソム襲撃の時のように隠密ではない。

この無駄にでかい正門から、堂々と突撃するだけだ。




「決して躊躇はするな!味方だとしても自分を攻撃してきたものは殺せ!」


鮮血と空気塊が飛び交う城の中に怒号が響く。

恐らく騎士団の中でも多少地位のあるものの指示だろう。

実に的確だ。


「そんな勇気があるといいな。雑魚ども。」


セドナが【放出】で敵の眉間を撃ち抜いていく中、グレコは縦横無尽に戦場を駆け回り騎士に触れていく。

この数の敵を相手にする場合、グレコが真面目に剣を振るうのは悪手である。

いっそ剣を捨て、そこらの敵を【掌握】で操作することに徹した方が場は荒れるのだ。

なんせこの国の人間はほぼ全員がグレコのことを恐れている。

グレコからすれば、この場にいる誰もが手駒だ。


「こんだけ暴れれば十分だろ。セドナ!俺は上に行く。後は任せたぞ!」

「任せてくれ!」


扉を開けてすぐの広間にいた騎士達。

グレコには彼らの戦意を【掌握】で消し去ることもできた。

だがそれをせず殲滅の方式を取ったのはセドナのためだ。

セドナにはこれから暫くここで騎士達を相手取って暴れてもらわねばならない。

そうなった時、騎士達をちゃんと潰しておかねば押し負ける可能性がある。

簡単な内容とはいえ、グレコに騎士達を【掌握】し続ける余裕がこれから先も残っているとは思えない。


なんせ相手はサイラス最高戦力とも言える姉妹である。


「これまた久しぶりねグレコ。どうせ私達を探してるんでしょうから。出てきてあげたわよ。」


グレコが城内の階段を駆け上がり適当は部屋に足を踏み入れると、そこには目的の姉妹が待ち構えていた。

いつもより軽装、戦闘体制となったアイラ。

そしてその後方で水晶を持つライラ。


二人目と三人目の復讐対象に対面し、グレコの心は躍っていた。


「せっかく私達が優しく迎え入れてあげたって言うのに。結局こうなるのね。ちょっと残念だわ。」

「はっ、はなから俺のことを一ミリも信用していなかったくせにふざけたこと言ってんじゃねぇ。」

「そんなの当然じゃない。私達は国を守る義務があるのよ。私達が一番大事にしているのは自分の命じゃない、国民の命よ。」


この二人は勇者パーティの一角を担う冒険者である前に、王族だ。

旅に出た目的にしても、愛すべき国と父を奪った先代魔王を殺すためであるし、根本はずっと変わらない。


「そうらしいな。だからちゃんと避難させてやったんだ。この城は戦場になるからなぁ。」

「そこに関しては感謝しておいてあげるわよ。どうもありがとう」


軽口を叩きながら二人はじりじりと距離を取り。

グレコが剣を抜き、アイラが腕を上げる。


「さぁ、互いの大事なものを奪い合おうぜ。お姫様。」

「上等よ。ペテン師さん。」


二人が火花を散らし始めたその場所は、奇しくもグレコが追放を宣言されたあの部屋だった。

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