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50.終わりの始まり

「なるほどねぇ。全てはこのためだったと言うわけですか!」


コルワがニヤニヤしながらグレコの腕を触る。

普段であれば速攻で首を刎ねてやる行為だが、今回は違う。

なんせ今コルワが撫で回しているのは、義手である。

それも、最新鋭の魔道義手だ。


「自分の為に命を張ったボディーガードがいて、義手の技術もある。なのに義手を与えないってのはフーネには選べない選択肢だからな。」

「にしても体張り過ぎじゃない?痛かったでしょうに……およよ。」


フーネは今回の一件がグレコの自作自演だと言うことぐらい気づいているだろう。

しかし、あの場には大勢の文官や侍女が存在した。

彼ら全員にグレコのスキルの恐ろしさを説明すれば、グレコに義手を与えないこともできたはずだ。


だが、それは事をややこしくなる危険性を孕んでいる。

グレコという脅威を敢えてボディーガードにしていることに異議が唱えられ、グレコが野に放たれればサイラスはそれこそ滅亡する。

フーネ側の作戦を維持する為には、グレコに義手を与えるしかないのだ。


「まぁけど、貰えた腕は想像よりしょうもなそうだね。魔法も使えないし、これといったスキルも使えないんでしょ?」

「あぁそれは確かにそうだが。俺が欲しかったのはこの義手だ。魔法も使えない、ただ指が飛ばせるだけのこの腕なんだよ。」


そう言ってグレコは義手に生えた指を飛ばす。


フーネも馬鹿ではない。

義手を与えると言ってもまともな義手は与えないだろう。

それは分かった上で、グレコは身を呈したのだ。


大方フーネからの「出来る限り使えない義手をくれ」という指示を受けて魔導研究所はこの義手を寄越したのだろう。

現にフーネ自身もグレコにつけられた義手はただのガラクタ、そう思っている。

実際コルワとセドナの力を応用して作ったこの義手で出来ることは、無限に指を飛ばせるというだけ。

世間的に見れば極めて無駄な性能だ。

しかし、グレコに関して言えばそうではない。


「え、もしかして……そういうこと?」

「あぁそういうことだ。魔導研究所の奴らは俺の【掌握】をただの索敵だと思ってるからな。全く、無知ってもんは罪だな。」


いつになく上機嫌でグレコが手を動かす。

それと同時に、先ほど飛ばした指が命中していたネズミ達がグレコの意のままに動き出した。


グレコの【掌握】の発動条件は、相手が自分より格下であることと、対象に触れることだ。

そして今グレコが付けているような高性能の義手は、グレコ本人の腕として扱われる。


つまり、グレコは己のスキルにおける「対象に触れること」という条件を克服したのである。


「この義手を使って作り物の指を飛ばせば、遠隔で【掌握】を発動できる。まぁある程度の手練れならこんな指ぐらい弾き返せるだろうが……。一般市民程度ならいつでも【掌握】で俺の手駒に出来るだろうな。」

「いいねいいねいいねぇ!最高だよグレコ!これこれ!こういうのが見たくて僕はグレコの側にいるんだからさぁ!」


コルワがバンバンと背中を叩いてくる。


グレコが今回の作戦を思いついたのは、魔導研究所にいたときだ。

魔導兵の存在と、そこから発展した魔導義肢の存在。

それを知った時点で、魔導義手によるスキルの強化を視野に入れていた。


その為にセドナを魔導研究所に派遣し、たまたま出会った三馬鹿をもう一度【掌握】した。

全てが計画通りに進み、本来ならば両手を振って大喜びするところだろう。

しかし、グレコはまだ喜ばない。

この腕を手に入れたのは、あくまで復讐のためである。


「俺はこの力を使って民を動かす。アンソムがやったような生半可なもんじゃない。この国を、叩き潰すための策略だ。」




「フーネ様!お願いですからお辞めください!この状況下で表に出るのは危険すぎます!」

「大丈夫だって言ってるでしょう?女王として民の前に出るのは必要なことさ。」


グレコ達の目の前で、論争を繰り広げるロッツとフーネ。


今日は年に一度、民の前で王が演説する日である。

既に広場には多くの民衆が集まっており、女王の登場を今か今かと待ち侘びている。

しかし幕を開ければすぐに彼らを見渡すことができるという状況にあっても、その開催について激しい議論が行われていた。


「革命に魔王、加えて一般市民による女王殺害未遂ですよ!今民の前に顔を出せば何が起きるか!」

「だから顔を出すんでしょう?アンソムに唆された程度で王政を破壊しようとするような人が大勢いる。ここで私が引きこもっていたらさらに反感を買うだけじゃないの!」


普通に考えればフーネの言うことが百正しい。

だが、ボディーガードとしてはロッツのいうことも正しい。

互いに一歩も譲らない言い争いの末、フーネが全てを無視して幕を開く。


「我が愛すべき国民達よ!私がサイラス王国女王、フーネ・サイラスだ!」


衆目に晒されたフーネが大声でそう宣言する。

いつものふざけた調子とは違う。

一国の王たる堂々とした演説が始まり、グレコも右腕を撫でた。


「全く……。いいかグレコ、演説が終わるまでしっかりと辺りを警戒しておけ。貴様の【掌握】は索敵に向いていると聞いている。」

「勿論そのつもりだが、この人数だとわからないぞ。誰がナイフを持ってるかなんて見切れない。」

「ならまた身を呈せ。」


全く無茶苦茶なことしか言わない男だ。

グレコは軽くため息をつく。

心配しなくても、グレコはこの演説中に事を起こす気がない。

まずはこの長ったらしい演説が終わってからだ。


「そういえばコルワはどこに行ったんだ。この大事な時に居なくなるとかあいつは真性の馬鹿なのか。」

「やっと気づいたか。あの馬鹿はそういう奴だぞ。」


そうはいうが、コルワを追い出したのはグレコである。

この後の作戦においてコルワには重要な役割を担ってもらわねばならない。

どうせこれからこの国は滅びるのだ。

最早この立場を維持する必要はない。


「一つ聞きたいんだが、ロッツはフーネと国民だったらどちらを守るんだ?」

「フーネ、様だ。そしてその質問の答えもフーネ様だ。フーネ様をお守りすることは国家を守ることにも繋がる。」


フーネの演説を聞きながら、グレコは問いを投げかける。

まぁ想定通りの答えだ。

ロッツを救ったのはフーネであってサイラスではない。


「……これからも私は、君達を守り続ける!だから私を信頼してくれ!」

「どうやら、演説が終わったみたいだな。俺は前を守る。貴様は背後をお守りしろ。」


ロッツの指示に従い、グレコは帰ってくるフーネの後ろにつく。

演説という最も警戒すべき時間が終わり、気が抜ける瞬間。


グレコは、この時を待ち侘びていた。


城の中に入っていくフーネの背後で、グレコは踵を返す。

演説用のベランダから見える大量の民衆。

そこに向けてグレコは己の指を発射した。


「お前ら!街の外に向かって走れ!」


義手から発射された指が空を舞い、数人の民に命中。

そしてその民達は、グレコの単純な命令に従って走り始める。


「何だ!?何でお前ら走り出すんだ!」

「いいから逃げるんだ!この国はもう終わるんだ!」


困惑する民衆達に向けて、グレコは重ねて叫ぶ。

全ての民衆を【掌握】することができずとも、緊急性の高そうな情報と、走り出す人々が少しいれば民は動き出す。

グレコの指示は何も「王女を殺せ!」というようなリスクのあるものではない。

ただ己の命を守る為にはこの指示に従わなければならない。

そう思わせるだけの指示である。


広場に集まっていた民衆は大慌てで走り出し、辺りは混乱に包まれる。

そしてその音を察知し、グレコの背後にロッツが現れた。


「貴様……何のつもりだ!」

「はっ、俺は単にお前らの大事な国民に避難を促しただけさ。聞こえなかったか?この国はもう終わるんだよ。」


それだけを告げ、グレコはベランダから飛び降りた。


サイラス滅亡を告げる時計の針は、今動き出したのである。

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