49.体を捧げるということ
「あぁーなんか面白いこと起きないかなぁ。」
あれから数日。
グレコ達は今日も真面目にボディーガードの任についていた。
魔王復活と、国内の反乱。
二つの要素が重なったことで、国内は厳戒態勢に入っている。
国内の最重要人物たるフーネの護衛においても、緊迫感が増し。
グレコ達はほぼ休みなくフーネの周辺を守り抜いていた。
「滅多なことを言うな。仮にも俺達は護衛の任務中だぞ。」
「護衛って言っても誰も襲ってこないしぃ。僕らがいなくてもロッツがどうにかしてくれるしぃ。グレコは真面目に働きすぎてて面白くないしぃ。」
「俺はこの身を賭けてフーネを守ると決めたんだ。当然の話だろ。」
フーネ直属のボディーガード。
グレコ達の任務はそれであるが、この仕事に意味があるかと言えばあまりない。
そもそもフーネが公の場に出る時はサイラス騎士団が護衛するし、城内ではロッツが目を光らせている。
あくまでもグレコを監視するために与えられた職業だ。
「ところでグレコ。セドナちゃんって最近何してるの?」
「あいつならサイラス魔導研究所にいる。就職を頼んでおきながら、俺達はすぐにいなくなったからな。代わりとして置いてきた。」
目の前で部下に向けて指示を出しているフーネ。
その背中を見つめつつグレコ達はぼそぼそと話していく。
一応反対側の角にはロッツもいるが、流石に声は聞こえていないはずだ。
あれからロッツの持つスキルが二、三個判明したが、耳は天然物だと聞いている。
「グレコにしては人道的な判断だねぇ。ていうかグレコってセドナちゃんの扱い酷すぎない?殆ど話す機会も与えてないよね。」
「あいつは隠密だからな。動きを制限されてる俺の代わりに働いてもらうのが仕事だ。目立たせるわけにはいかない。」
セドナが目立つことには色々と問題がある。
革命の時に少し接触させてしまったが、グレコとしてはセドナをフーネに合わせたくないのだ。
オリッツの時のように【解除】でセドナの洗脳を解かれてしまうと、大変なことになる。
ありもしない事実を吹き込まれて実の父親を手にかけたと気づいてしまうと、セドナは間違いなくグレコを殺しにくる。
無駄な敵を増やすことだけは避けたいのだ。
「っていうことは今頃セドナちゃんはアンソムのおじさんに実験漬けにされてるのかなぁ。【放出】ってことは……魔導兵の手が発射されたりするのかな!ロケットパーンチ!!」
「実際そうらしいぞ。お前と違ってあいつのスキルは魔法や技術で再現しやすいからな。ついでにお前の【不死】も一部実用化されて、魔導兵は無限に指を発射できるようになったらしい。」
「あっはっは!何それ!しょーもない進化だね!」
流石にコルワの笑い声がデカかったらしく、少し離れた位置のロッツから厳しい目が向けられる。
セドナは完全に別行動ではあるが、無視しているわけではない。
グレコは定期的に連絡を取り、魔導研究所の情報を仕入れ続けている。
「全くロッツも真面目だよねぇ……。どうしてあの王女様をあそこまで尊敬しているのやら……。」
「あいつの境遇を考えたら当然だろ。あいつは西方の小国の出身だ。国が戦争で滅び、奴隷として売られたところを当時商人だったフーネに拾われたらしい。」
「フーネってそんなまともな人なの?ニコニコ笑ってるように見えるけど、実際はかなりの腹黒だよねあのおばさん。」
「あぁ、十中八九自国の技術を試したかったからだろうな。あいつが王になる前から魔導研究所と開発していた魔導義肢、あれを試すにはロッツはうってつけだ。何せ奴隷として売られてた時点で体の八割が千切れてたらしいからな。」
相変わらずロッツに関する情報は少ない上、奴の体に触れて【掌握】して見ることも出来ていない。
が、しかし度重なる情報収集で多少の個人情報を得ることは出来た。
スキルを大量に抱えているロッツにも元から持って生まれたスキルがある。
【生存】
何が起きようと絶対に死にはしない。
再生もしなければ鎮痛もない、どれだけ痛みを感じても生き残り続ける地獄のような力。
コルワの劣化版とも言えるそのスキルを持ったロッツは、戦争で四肢をもがれても生き残り続けてしまったのだ。
そんな絶望的な状況からフーネに救われ、実験のためとはいえ腕や足を与えられた。
ロッツからすればフーネは救いの女神と言って相違ない。
「いいよねぇ魔導義肢。まぁ見た目があまりにも酷いけど。あれって要は死体から千切った腕を無理矢理付けただけじゃん。」
「あれはロッツだからだ。人の腕じゃなく完全に人工物の腕を装着する技術が既にある。何でも魔導兵の技術を応用した完全に人口の腕を装着することで、魔導兵と同じように人工のスキルや魔法が使えるようになるらしい。」
「ほぇー!いいないいな!次腕が千切れたらそれ付けてもらおうかな!」
サイラスの魔導技術は一級品だ。
単に戦闘用の兵器を作るだけでなく、人の役に立つ技術にも魔導が応用されている。
今のところ魔導義肢を装着した人間の事例はないらしいが、装着しても人体に影響がないという研究がなされている。
「残念ながらお前には付けてもらえないと思うぞ。魔導義肢は補助器具であり兵器だからな。高い戦闘力を与えることになっても問題はない、そう国家が判断できる人間にしか与えられない。それこそ、国のために命を張った人間とかな。」
「僕も命だけはよく張ってるんだけどなぁ。革命も止めたし。」
「あの革命は多分俺らがいなくても止めれたからな。アイラ、ライラが暴動は止めたし、城の中にいた奴らもロッツ一人で止められた。俺らはあくまで割り込んだだけだ。」
そう、グレコの実績は不十分である。
地下の犯罪組織を潰し、革命を阻止し。
色々と成し遂げてはいるが、当然のごとく国家から警戒されている。
まぁ実際王女二人に復讐しようとしているのだから仕方ないのだが、今グレコやコルワが腕を無くしても絶対に魔導義肢はもらえないだろう。
何ならグレコの【掌握】が使いにくくなってラッキー!ぐらいに思われるに違いない。
「だがなコルワ。一つだけ方法があるぞ。」
「方法?何さそれ。」
「それはな……。」
「きゃぁぁぁあぁぁぁあぁぁ!!!」
グレコが話そうとしたタイミングで、叫び声が上がる。
若い女ということは侍女だろう。
グレコ達がいる広い王の間の隅で、何やら騒動が起き始めた。
「死ね、死ね、死ねぇぇぇぇ!!!」
狂乱し、フーネに向かってひた走る三人の男。
フーネの話を聞いていた文官を蹴散らし、その距離をどんどんと詰めてくる。
この部屋に騎士団はいない。
守るのは、ボディーガードの仕事だ。
「くっ!グレコ!お前はフーネ様についていろ!」
刹那、ロッツが飛び出し男達を蹴り飛ばす。
この程度の暴漢を抑えることなどロッツからしてみれば児戯に過ぎない。
一瞬で動きを拘束され、平和が訪れたと思った時、暴漢達が声を上げる。
「死ね王女ぉぉぉ!」
顔と腕を上げ、王女を見つめる男達。
深くかぶっていたローブから見えたその顔は、グレコ、コルワ共に見覚えがある者だった。
「ね、ねぇグレコ!あれって賭場の三馬鹿じゃ!?」
「そういうことだ。俺は命を賭けてフーネを守る。」
それだけ告げ、グレコはフーネの前に出る。
【傷害】【切創】【軽傷】
人を傷つけることだけに特化した三馬鹿のスキル。
三つとも、手から切断力のある弾丸を発射する力。
それを一度に食らったグレコの右腕は、ぶっつりと斬り落とされてしまった。
「グレコちゃん!?だ、大丈夫!?」
「あぁ….…怪我はないか。」
「ないけど……。どうしてここまで!」
「言っただろ。俺は世の為人の為、体を捧げる覚悟を持ってるんだよ。」
倒れたグレコにフーネが駆け寄り、慌て始める。
今のグレコの発言には一つだけ間違いがある。
グレコが体を捧げるのは、ただ復讐のためだけだ。
予約投稿できてなかったことに今気づきました




