45.動き出す屍達
「フレア!」
「ぐがぁ……。」
目の前が赤く染まり、立っていたオークが焼き焦げる。
相変わらずの高火力に感心しつつ、グレコは地面に手をついた。
「よし、今ので全部死んだみたいだな。さっさと帰るぞ。」
「ふぅ。やっぱりグレコがいると索敵が楽でいいわね。」
グレコ、コルワ、アイラ、ライラの四名で結成されたパーティは今日も魔物狩りに精を出していた。
再び仲間になってから数日、既に四人はかなりの成果を上げている。
最前線にいたランベリー、ベリオットがいないことで火力は激減。
なんてことは全くなく、アイラ一人で戦力は十分だった。
「いやーアイラちゃんがメイン火力だと僕が死ぬ回数が減っていいねぇ!あの二人最早要らなかったんじゃない!?いややっぱ僕が日に日に可愛くなってるからかな!魔物だって可愛い生き物は殺したくないものね♪」
「アイラちゃん大丈夫?怪我はない?」
「大丈夫。さっ、帰りましょ。」
この四人で冒険者として活動している最大の利点は、コルワの相手をグレコ一人でしなくて済むという点だろう。
勇者パーティにいた人間はコルワの扱いというものを熟知している。
無視
それが対コルワの最適解だ。
「にしても最近はクエストの難易度が高いわね。今日のオーク退治も数がおかしかったわ。オークなんて精々一家族ぐらいの人数でしか群れていないはずなのに。」
「昨日も変異種がいたしな。確かにこれはお前らが俺を呼びたくなる気持ちもわかる。」
アイラのいう通り、グレコ達が魔王を討伐したすぐ後に比べるとかなり魔物が強くなっている。
そもそも変異種の魔物なんてものはそう簡単に出ていいものではないのだ。
それこそグレコが討伐した【透明】のワームのように、冒険者ギルドが人を集めて退治する相手。
そのレベルの手合いを、グレコ達はここ数日で何匹も撃破している。
「次の魔王が生まれるにはまだ早い気がするけど……何かしらが作用して魔族全体の力が上がってるのかなぁ?」
「さぁな。そもそも魔族ってもんは意味がわからな過ぎる。魔王が何度も生まれるって話も最近わかった話だしな。」
オークの死体を解体しつつ、コルワに返事をする。
魔王が再び生まれるのは数十年後。
それが長年の魔族研究によって編み出された結論らしいが、それも定かではない。
「まぁ警戒するに越したことはないと思うわよ。もし魔王がまた生まれでもしたら地理的に真っ先に襲われるのはサイラスでしょうし。もし魔族達に復讐の概念があるとすれば当代魔王を撃破した私達は間違いなく恨まれてるわ。」
「特にグレコは恨まれてるだろうねぇ〜!あんだけ色々やってるんだからさぁ!」
グレコが魔族に対してやったことといえば、どれも悪辣な行為だ。
死にかけの魔族を操作して同士討ちさせたり、死体をヴィトに売りつけたり。
まぁろくでもないことしかしていない。
グレコが己の行いを恥じるでもなく、平然と帰路に着こうとすると、何やら地響きが聞こえてくる。
地震というよりは、何か巨大なものが近づいているような音。
グレコがすぐさま【掌握】で周囲を把握しようとすると、地面につけようとした手が何者かに掴まれた。
「フレア!」
「くっ……!」
体を持ち上げられ自由を奪われたグレコを、アイラが素早く解放する。
転がった死体を確認すると、それはつい先ほど目にしたものだった。
「何でさっき倒したオークがまた動き出すのよ!私ちゃんと焼き殺したわよ!?」
「知るかそんなこと!それよりさっさと構えろ!もっと来るぞ!」
改めて地面に手をつくと、大量の魔物を感知することができた。
先ほど倒したばかりのオーク十数匹。
辺りに散らばっていたその死体が一斉に動き出し、こちらに向かってきている。
何がどうなっているのかわからないが、まずは戦わねば。
「右から一匹、左から三匹、後ろから五匹だ!コルワ!お前は後ろに突っ込んで時間稼げ!」
「はいは〜い♪メイン盾として頑張りまーす!」
「横は任せなさい!私にかかればこれくらいっ!フレア!」
アイラが両手を横に広げ、両側から迫り来るオークを焼き払う。
本来魔法はもっと時間をかけて力を込めてから放つものだが、アイラに関してはその限りではない。
まさに一騎当千の戦力を発揮し、コルワが命がけで止めていたオークも含めて全ての敵が沈黙した。
「全く何でまた動き出すのよ……。ちゃんと息の根は止めたはずだし、こいつら全員変異種だったのかしら。」
「そんな馬鹿な話……。スキル自体人間でも三割程度しか持ってるやつがいないんだぞ。こんな数の魔物が蘇生系のスキル持ちなんてあってたまるか。」
「それはそうだけど……。そうとしか説明がつかなくないかしら?」
「アイラちゃん!離れて!」
魔物の死体に近づき、軽く解剖でもしてやろうかと思ったところで、ライラが声を上げる。
ライラの役割は占星術による緊急報告。
といっても印はアイラにしか描かれていないが、彼女が声を上げるということはそういうことだ。
アイラに危険が迫っている。
「コルワ!どうにかしてこい!」
「ぐごぁぁぁぁぁ!!」
二度目の復活を遂げたオーク。
完全に油断したアイラでは対処が不可能と判断してコルワを投げてみたが、どうやら正解だったようだ。
オークは足元で固まっているアイラではなく、飛来したコルワを攻撃。
一人の命を犠牲にして、アイラは守られた。
すぐさまその身柄を回収し、一旦オーク達から距離を取る。
「な、何でまた動き出すのよ!何がどうなってるの!」
「いいからまず黙れ。仕組みはともかくこいつらを潰すぞ。」
混乱するアイラの頭を叩き、グレコは剣を握る。
「考えられるのはコルワの【不死】みたいなスキルを持ってるか、誰かに操られてるかだろうな。俺が【掌握】で事情を調べてくる。あいつらに触れるようカバーしろ。」
たったそれだけの指示を出しグレコは走り出す。
一番近くにいるオークとの距離を詰めようとすると、案の定他のオーク達が石を投げて妨害しようとしてくる。
しかしそれをグレコがわざわざ避けるまでもなく、石はアイラの魔法で撃ち落とされていく。
本来のアイラの戦い方はこういうものだ。
後方でライラに守られながら前線を支援する。
その役割においてこの女の右に出るものはいない。
「さぁ、からくりを教えてもらおうか。」
オーク
体長:5m 体重:263kg
弱点:脇 スキル:なし
無事オークに触ったところで、グレコの思考が一瞬止まる。
スキル、なし。
前者の可能性が消え、今度は地面を掌握する。
「グレコ!結果はどうだったの!?」
「騒ぐな。少なくとも目の前の個体はスキルを持ってない。ってことは多分操ってる奴が居るんだろうが……。ちっ、見つからねぇ。」
すぐさま次の可能性を考えて行動したが、意味はなく。
グレコの【掌握】が機能する範囲内に自分達以外の人影はない。
術師がいるわけでもなく、死体が一人でに何度も動いている。
本当に意味不明な状況だ。
「おい魔導の類で死霊術ってのはあるのか。」
「できないことはないでしょうけど……。出来たとしても魔導を他人に付与するときは対象に触れなきゃいけないわ。私達の他にあのオークに触れた人なんていないはずよ。」
いたとしても相当前だ。
そんな前から術をかけておける術師が居るとも思えないし、結局死体を操るにはある程度近くにいないと無理だろう。
完全に手詰まりと思ったところで、思いがけない人間が声を上げる。
「アイラちゃん。もう一回だけでいいからあのオークを倒して貰える?肩だけは傷つけないで。」
「ライラ?わ、分かったわ。フレア!」
ライラの指示に従い、アイラが辺りのオークを焼き殺す。
一度倒すの自体は何の苦でもない。
すぐにオークは倒れ、その死体にライラが近づき例の印を描く。
「やっぱり……。アイラちゃん。この子達を操ってるの、私達が倒した魔王だよ。」
ライラがそう告げ、他三人は口が開く。
開くと言ってもペラペラと喋り出すのではなく、辺りに流れたのは長い沈黙。
ライラの発言を噛み締めるような時間であった。
最初に口を開いたのは、グレコだった。
「どういうことだ……。何の根拠があってそんなことを言ってるんだよ。」
「わ、私の占星術は対象の現在と未来以外にも過去を見ることもできて……。その、普段はプライバシーに関わると思って使ってなかったんだけど……。」
「はっ、じゃあ何だ。俺達が倒した当代の魔王がずっと前にこいつらに魔術を施してる姿が見えたってのかよ。」
「う、うん……。というか最近の変異種も何もかも、魔王が力を与えて強化された個体だと思う。大量の魔物が一堂に介して、魔王にひざまづいてる光景が見えるから……。」
恐る恐るライラが言葉を紡いでいく。
当代魔王の復活。
ランベリー達と全力を出し合って討伐したあの魔王が復活したとなると、グレコは復讐などしている場合ではなくなる。
この先のことを考えグレコの顔が曇ったところで、今度は辺りを取り囲むオークよりずっと奥から爆音が響く。
「今度は何!?今の音って城の方からよね!?」
「もしかして……ちっ、今かよ……。」
遥か彼方に見えるサイラス城下から上がる火の手。
今あの国で火の手が上がる要素なんて一つしかない。
オリッツのクーデター。
ややこしい事態が二つ重なり、グレコの計画は狂い始めた。




