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42.体に叩き込む反逆心

「で?アンソムおじいさんを皆で囲んでグレコが手を触れればいいんでしょ?」


サイラス城下一等地。

私兵が闊歩する屋敷の前で、グレコ達は立ち尽くす。

体全身を黒い布で隠し、顔も面で隠し。

完全なる隠密スタイルで任務に臨む。


「その方式だと俺が全部操作しなきゃいけなくなるからな。状況にもよるが出来ればもっと時間をかけて洗脳をかけたい。まぁ何にせよ、中に入らなきゃどうにもならない。」


高い塀に飛び乗り、屋敷の中を観察する。

【掌握】で中の様子自体は把握している。

建物の二階、唯一開いた窓が今回の侵入地点だ。


「今回は完全なる隠密作戦だ。万が一見つかっても戦おうとせずに走って逃げろ。声を発するのもなしだ、敵と遭遇した時点で口パクにしろ。お前は知らないが俺はスキルで口の動きが見える。」

「りょうかーい!がはっ……!」


言ったそばからコルワが大声を上げたため、瞬時に喉を潰す。

どうせこの化物がまともな発言をすることなんて早々ない。

要らない口は封じるまでだ。


「どうせこの大量の兵士達もアイラの差金だろうな。アンソムは国の重要人物ではあるが、警戒心ってもんが薄い。俺の情報じゃ数人の使用人以外人を雇っていなかったはずだ。」

「んぱっ……!全くアイラちゃんは用心深いねぇ。ちゃんとアリバイ作ってきて正解だったかも♪」


喉を取り戻したコルワのいう通り、グレコは今回の作戦において事前準備を行っておいた。

いつも暮らしているナラクの家を出て、適当な居酒屋を貸し切り。

従業員を【掌握】で操作し、『グレコとコルワはここで酒を飲んでいた』という記憶を植え付けておいた。

もし現場に誰かが押しかけてきても、セドナを残してあるからどうにでもなる。


「さて、作戦開始だ。」


塀を勢いよく蹴り、グレコ達は飛び跳ねる。

アンソム・カイロニー掌握作戦が開始である。




「屋敷の中に居るのは使用人が二人と、アンソム、そして妻と二人の子供だ。子供は既に眠ってるが、他はまだ起きてる。使用人は夕食の片付け、アンソム夫婦は寝室だ。足音に気をつけろよ。」

「ふが……!」


屋敷の二階、物置の前の廊下へと降り立ちグレコは指示を出す。

コルワの喉はすぐに再生するため、代わりにコルワが持っていたハンカチを詰め込んでおいた。

【掌握】で常時辺りを警戒しておけば、そうバレることはないだろうが音を立てないに越した事はない。


「ふぐふがふご!ふがが?」

「しまったな……ハンカチ詰めたから読唇術が使えねぇ……。まぁいい、俺が一方的に喋れば良いだけだ。アンソムを洗脳するには今から始めても朝までかかる。だから何とかアンソムを自然に孤立させたい。その役目はお前にやって貰うぞ。」


コルワの言うことなどほぼほぼ理解できる。


「それでそれで!仕事は何?」


大方そんなところだろうと判断し、グレコは返事を返す。

居酒屋の店員ぐらい簡単な洗脳なら二秒でかけられるが、今回施す物は極めて時間がかかる。

何せ行動の全てを変えるような記憶を入れ込むのだ。

気の強いセドナの場合は一週間ほどかかったし、一晩で済むのはかなり手早い方である。


「アイラのように変異魔法が使えれば話が早いんだがな。そうもいかないから、使用人に犠牲になって貰う。」

「ふぅ、罪もない人間を殺すなんて珍しいね。うぐっ!」


コルワが一度ハンカチを外して話し、律儀に咥えなおす。

確かに全くの一般人を手にかけるのは珍しいが、今更咎められるようなことでもない。

そもそもつい先日まで国家全土を巻き込んだクーデターをやろうとしていたのだ。

グレコ達は一階のキッチンの壁に張り付き、中の様子を伺う。


「今日もアンソム様はお忙しそうだったわね。一体いつになったらナラクのお仕事は終わるのかしら。」

「さぁ……偶には坊ちゃん達と遊んであげていただきたいものですけれど……。」


皿洗いをしながら話す使用人達。

片方は少し豊満な体型の中年女性、もう片方は痩せぎすの若者。

コルワを化けさせるなら後者だ。

そう判断し、グレコは懐に隠しておいた石を廊下に転がす。


「あら?何の音かしら。」

「最近は兵士さん達がいらっしゃってますからその方々じゃないですか?私見てきますよ。」


グレコはもちろんこの使用人達の情報も仕入れている。

裏の世界で生きるヴィト達と違って、この手の一般人の情報はスキルを使わずとも手に入る。

中年の方が怖がりなことぐらいお見通しだ。


「じゃあな、使用人Bさん。」

「Aさんもバイバーイ!」


廊下の様子を見にきた若い方をグレコが。

キッチンに残っていた中年の方をコルワが。

順番に手早く首を掴み、絞め殺す。


「で、どうする?顔の皮膚でも剥いじゃう?」

「それもありだが……。マスクと帽子を装着している以上服だけ拝借すれば十分だろ。夫人やガキ共はともかく、アンソムはこいつの顔をそこまで知らないはずだ。なんせこの若い使用人が雇われたのは、奈落が正式な都市になってアンソムが多忙になってからだからな。」


二つの死体をキッチンに転がし、青い顔を眺める。

コルワ扮する使用人Bがアンソムを呼び出し、監禁。

そういう作戦である以上、変装の細かさは必要ない。

何よりコルワは下半身にぶら下がったものがあるものの、見た目は完全に女である。


「さっき聞いた使用人の声、物真似できるか。オリッツの真似して遊んでるぐらいだ。お前なら余裕だろ。」

「もっちろーん♪こほん。私、見てきますよ。どう!?」

「上出来だ。さっさと行くぞ。」


普段からふざけているだけあって、コルワはの声真似はほぼ完璧だ。

死体から剥いだ使用人のクラシカルな服をコルワに着せ、二人は再び廊下に出る。

万が一見つかっても良いようにグレコだけ身を隠し、距離を取って寝室へと向かっていく。




「アンソム様。部下の方がお見えになっております。何やら問題が起きたとか。」


寝室の前でコルワが声をあげる。

【掌握】で常に周囲には気を払っている。

外の兵士達がグレコ達の犯した殺人に気づく様子もないし、中の夫妻も静かに本を読んでいるだけ。


「何だろうね。話を聞いてくるよ。もしかしたらそのまま仕事になるかもしれない。兵士達がいるから大丈夫だろうが、戸締りはしておくんだよ。」

「お疲れ様です。いってらっしゃいませ。」


扉の奥から聞こえてくる声。

どうやら思った通りの動きをしてくれるようだ。

ここしばらくアンソムが多忙で助かった。

グレコは扉の横で息を殺す。


「部下は客間ですかな?」

「え、あぁそうです。客間の方に通したよ、じゃなくてお通しいたしました。」


この馬鹿は何故こんなにも頭が悪いのだろうか。

アンソムをしばく前にこいつの小さな脳みそを叩きつぶすべきかも知れない。

そう思いながらも、グレコは歩く二人の後を付ける。

客間に行ってくれるならば都合がいい。

あの部屋は夫妻の寝室からも子供の寝室からも遠い。

多少拷問しようがバレることはないだろう。




「はっはー!!おらっ!どうだ!痛いか!」


閉め切った客間。

暗い室内でコルワが拳を振るう。

散々文句を垂れていたというのに、いざ拷問になったら凄まじい張り切り方だ。

普段ボコボコに殺されているから人を殴るのに興奮を感じるのだろうか。

後からバレないように腹部を殴るよう指示はしたが、流石にやりすぎである。


「その辺にしとけ。死んだら元も子もないんだ。もう十分俺らのことは恐れてるだろ。」

「はぁ……はぁ……。そうだね、この辺にしといてあげるよ!ありがたく思いな!」


最早言葉を話すことも無くなったアンソムにコルワが唾を吐く。

ここからはグレコの仕事だ。

アンソムの額に手を当て、【掌握】を発動する。


「いいか、お前は国に不満を抱いている。だがそれだけじゃ止まらない。お前は反乱を起こすんだ。あの偉そうな女が王座についているのは間違っている。先王ケインを殺したのもあの親子だ。あの女狐達はサイラスの毒でしかない。正義があるのは、俺達だ。」


最初は語りかけるように。

そして後は自分の意思かのように。

淡々と言葉を重ね、【掌握】を重ねていく。

コルワを見張りにつけ、長い、長い、洗脳の時間が始まった。

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