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41.サイラス三羽烏の野心

「やっと来おったか小倅。ほれ、早く座らんか。」


数日後、グレコ、コルワ、オリッツの三人はサイラス三羽烏の会議に出席していた。

会場に着いたのはグレコ達が一番遅かったようで、机には既に二人の男が座っている。


ちょび髭を蓄えたサイラス学術院の長、アンソム・カイレニー。


狸親父という風貌のサイラス商会会長、ワジル・グレドニア。


そして我らがサイラス魔導研究所所長、オリッツ・カイド。


サイラス三羽烏と呼ばれる天才達の会合である。


「すまないねワジル君。馬車を引く馬の調子が悪かったんだ。代わりと言っては何だが、凄い人達を連れてきたよ。」

「救国の英雄、でしたか。思ったよりも普通の方々ですな。」

「ふん、結局スキルが強いだけではないか。もてはやすような人間ではない。」


オリッツがグレコ達を部屋に招き入れる。

アイラ達によって国家全体に良い評判が流されているとはいえ、所詮グレコはぽっと出の英雄。

彼らのように地道に業績を積み上げてきた者達からすれば、崇めるような存在ではないのだろう。

そのことを踏まえ、グレコはできる限り腰を低くして挨拶する。


「初めまして。グレコと申します。今回はこのような会議に参加させていただき……」

「やっほー!天下無敵の美少女、コルワちゃんでぇーす!!」


へりくだった意味など全くなく、横のコルワが全てをぶち壊す。

会場の空気が一瞬凍りつき、直ぐにワジルが立ち上がった。


「何なのだこの無礼者は!何故このような女を会議に連れてきた!」

「もーそんなに怒らないでよ〜。真面目な会議にも華って必要だと思うんだよね。ぼ・く・は♪」


憤慨し今にもグレコ達を追い出そうとするワジルにコルワがそっと近づく。

色っぽく相手の頬を触り、舌を出し。

コルワは男であるということを除けばただの美人だ。

ワジルの頬は直ぐに赤くなり、大人しく椅子に座る。


「ま、まぁいい。さっさと会議を始めるぞ!」

「わーいやっさしい〜!じゃあ僕はここに座って聞こうかなっと♪」


コルワがワジルの太い足の上に座り、体を寄せる。

完全に色仕掛けだが、まぁ話が進むならそれでいい。

グレコも適当な椅子に腰掛け、会議が始まっていく。




「ナラクの住民達に対する教育に関してですが…… 」


会議開始から数時間。

議題のほとんどはサイラス騎士団によって統治され、新たな町として認められた奈落、改めナラクに関してだった。

突如サイラス王国が正式に管理することになったその町は、地上のサイラス城下町とほぼ同じ面積を持っている。

新たに学校を作ろうにも、正式な運輸を整備しようにも、相当に手がかかるわけだ。


「全く手がかかる事ばかりだな。ナラクを新たに都市と認める!と言うだけなら簡単だが……。実務をやる我々の気持ちにもなっていただきたいものだ。」

「滅多なことを言うものではないよワジル君。」

「ふっ、吾輩が仕えているのはフーネではない。今は亡きケイン国王陛下だ。」


不満そうにワジルが煙草を吹かす。

フーネは間違いなく優秀な王だが、この国の中にはワジルのように不信感を抱いている者もいる。

なんせフーネは女だ。

女が王権を握っているという事自体が不満を生む点になる。


「後継にも男がいない以上、この国の未来は暗いな。そもそも一国の姫ともあろうものが魔王討伐に乗り出すとは何事か。」

「アイラ様は利発で王族の落ち着きというものが欠けておりますし、ライラ様は寡黙な方でありますからなぁ……。」


話がどんどんと盛り上がっていき、ワジルとアンソムが王族の悪口を言い始める。

それを聞きながら肩身の狭そうにするオリッツ。


魔導研究所に就職する前、グレコはこの三人に着いての情報を集めていたが、実際の思想に触れるのは初めてだ。

先王ケインに仕えていた古株のワジル、アンソム。

現王フーネに仕えるオリッツ。


この国は思った以上に、一枚岩ではないようだ。




「はぁ……どうしてあぁあるんだろうねぇあの二人は。」


長かった会議が終わり、オリッツが深いため息をつく。

グレコが会議内で発言するような場面はなかったが、十分な情報を得ることができた。

サイラス王国につけいる隙はある。

グレコは頭の中に絵図を書き、暗い笑顔を浮かべる。


「全く後日女王陛下への謁見が控えていると思うと気が重いよ。あんなに女王陛下の悪口を言っていたというのに実際に会うと媚びへつらうんだからなぁ。」


白髪混じりの頭を掻き乱し、オリッツが研究所の椅子にもたれる。

グレコがこれまでいたバルトラという組織は恐ろしいほどに連帯した集団だった。

頂点であるヴィトを筆頭に、二番手のダードや有象無象の団員まで。

組織全体が連帯し綺麗なピラミッドを形成していた。

だが、国家という集団はそうもいかないのだろう。

誰もが皆忠実な部下を演じ、腹の底に野心を抱えている。


「確かにひどい人達だったねぇ。あのワジルとかいうおじさんもひたすら僕のおっぱい触ってたし。何であの人達はあんなに高いポジションにいるの?フーネ様ならあの人達が自分に不満を抱いているのはわかってるでしょ?」

「腹の中がどうであれ、彼らが優秀なのは間違い無いからねぇ。ワジル君はこの国の商人から絶大な信頼を抱かれているし、アンソム君も彼が学術院のトップに立ってから識字率が倍になった実績があるから。昔とった杵柄とは恐ろしいものだよ。」


コルワのまともな質問に対し、まともな回答が返される。

どれだけ昔の実績だろうとケインの頃から仕えている人間を無碍に扱えばフーネの立場が危うい。

それをフーネ本人も理解しているのだろう。


「まぁ今日は勉強になった。会議に参加させてくれてありがとな。」

「あぁお疲れ様グレコ君。今日はうちの国の汚い部分を見せることになってしまって申し訳なかったね。」


謝辞を述べるオリッツに適当な返事をし、コルワと共に帰路に着いた。




「さて、今日の会議を受けてグレコ君は何を思ったのかな?」


自宅に帰り、ベッドに転がった二人。

すぐさまコルワがオリッツの物真似をしながら問いを投げてくる。


「心配しなくても今後の方針は決まったぞ。俺達はあの三人の立場を掻っ攫う。オリッツが引き続きサイラス魔導研究所所長。お前がサイラス商会会長、そして俺がサイラス学術院のトップに立つんだ。」

「うぇー、グレコが教育を司るのぉ?やだなぁ、人の殺し方とか教えてきそー。」

「はっ、まぁ道徳ぐらいは教えてやれるかもな。」


あの長い会議をやっている間、グレコはずっと頭を回していた。

アイラ、ライラに復讐する上でどうやったらこの三人を有効活用できるか。

サイラス王家に近づき内側から崩壊させるという目標に向けて、何ができるか。


「オリッツ以外のサイラス三羽烏はフーネに不満を抱えている。そこを利用してあいつらにクーデターを起こさせるんだ。俺達はそれを制圧し、名実ともに英雄になる。」

「何かそれってバルトラを潰した時と同じじゃない?また予想外の事態が発生して敗北する未来が見えるんだけど。」

「あぁ、だから今回は俺は表に出ない。狙うのはサイラス三羽烏が一人、アンソム・カイロニー。俺達はあいつを脅迫し【掌握】できるようにする。」


今回の相手はカッシルやヴィトのように精神力が強い手合いではない。

アンソムを脅迫し【掌握】で操作することで、グレコはクーデターに直接関与しない。

奴は既に現王政に不満を抱えている。

その前提がある以上、グレコに操られてクーデターを始めても、アンソム自身の意思だと判断される。

あくまでもグレコは人形使いとしての役割に徹するだけだ。


「作戦決行は今週末の夜更。アンソムの屋敷に侵入して、奴の全てを潰す。」


これまでに調べたアンソムの情報。

束ねた書類を手に、グレコは唾を飲む。

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