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40.魔導研究所の一日

「グレコ君。あっちの本を運んできてくれないか。」


あれから一週間。

グレコは魔導研究所の職員として労働していた。

基本的な業務内容はオリッツの助手。

魔導兵の戦闘実験に付き合ったり、雑用をこなしたり。

業務としては非常に簡単なものだ。


「よっと。ほら、持ってきたぞ。」

「ありがとう。そろそろいい時間だ。君だけ昼食を取ってくるといい。私はこの作業だけ終わらせてからにするよ。」

「あぁ、そうさせて貰う。」


オリッツはここの所長ではあるが、やっていることは普通の研究員と同じである。

魔導兵のパーツを弄り、戦闘時の思考体系をアップグレードする。

魔導兵などの魔導具開発技術に対する知識を一ミリも持っていないグレコからすれば、細かい話はわからない。

が、しかしオリッツが優秀な男であるというのは実感している。

他の研究員と比べて作業が早いし、発想が天才的だ。

グレコは軽く感心しつつ、研究室を後にした。




「やっほーグレコ!そっちもお昼ご飯?」

「まぁな。お前も今日の実験終わったのか。」

「そそ!ま、相変わらず体を弄られただけで何にもわからなかったみたいだけどね〜。」


食堂に着くと、白衣に身を包んだコルワが肉を貪っていた。

グレコはその横に座り、先ほど買ってきたパンを頬張る。


コルワはここ数日、魔導兵に情報を提供している。


【不死】


コルワのスキルであるそれは魔導研究所からしても、喉から手が出るほど欲しいスキルらしく、その能力を魔導兵に反映しようと研究を行っているのだ。

アイラやダードもそうだったが、魔導兵は様々な人間の戦闘スタイルやスキル情報を取り込んで開発されている。

コルワのスキルを上手く取り込むことが出来れば、魔導兵の自己修復機能が革新的に進化する可能性があるらしい。


「実験ってどんなことやるんだ。脳みそでも弄るのか。」

「そんなわけないじゃない。衆人環視の元にひたすらスキルを使うだけだよ!アイラちゃん見たいに説明すればいい力は違うらしいけど、ダードおじいちゃんや僕みたいに説明不可能な戦闘力の人はひたすらに戦闘のデータを取って、その動きやスキルを再現していくんだって〜!」


肉を食い終えたコルワが残った骨まで噛み砕き、そう話す。

魔法は学問である。

初級魔法から上級魔法まで全ての魔法に使い方が存在し、それを学んだ上で修練をつめば誰であろうと使えるようになる。

最も個人によってこの魔法が得意、であったり魔力の限界であったりと様々な制約が存在するため、実際に様々な魔法を自由自在に使いこなせる人間となるとアイラぐらいのものになってしまう。

だが、魔導兵ならば魔力も個人の適性も自由自在。

そういう意味でアイラの魔導技術を魔導兵に反映するのは比較的容易なのだろう。


しかし、スキルはそうもいかない。

スキル自体がどういう仕組みなのか分かっていない以上、全く同じものを人工的に再現するということは容易ではない。

こと【不死】のように人智を超えたスキルであればその苦労は計り知れないだろう。


「まぁ取り敢えず一安心だな。オリッツがお前のスキルを魔導兵に取り入れようとした時は肝を冷やしたが、大して性能は上がらなそうだ。」

「僕のスキルは唯一無二だからね!ちょっと研究した程度で真似はさせないよ!」


こうして魔導研究所で労働してはいるものの、あくまでも魔導兵は将来の敵である。

その魔導兵の性能強化に協力するのは避けたかったが、魔導研究所の人々から信頼も勝ち取らなくてはならない。

二者択一の状況の中で、グレコは研究に協力する方を選択した。

今重要なのは魔導研究所、ひいてはサイラス王国の情報をかき集めつつ、サイラス王国に貢献することである。


「ところでいつまで真摯に労働するの?僕段々飽きてきたんだけど。」

「まだ未定だな。最終目標を果たすには国内でもっと上の立場に行きたい。それこそオリッツぐらい……。」

「僕の噂話かい?お二人共。」


横の席に食事の乗ったお盆が置かれ、オリッツが姿を表す。

どこから聞かれていたかわからないが咎めれるような発言は聞かれていないはずだ。

【掌握】こそ使っていないものの、辺りに警戒はしていた。

グレコは平静を装いながら嘘をつく。


「コルワと仕事の話をしていただけだ。サイラス三羽烏の仕事ぶりは凄まじいってな。」

「はっはっは!嬉しいことを言ってくれるねぇ。そんな異名で呼ばれてることは知ってるけれど、僕はそんなに大した人間じゃないさ。」


どうやら本当に話は聞いていなかったようで、オリッツはグレコのお世辞を素直に喜ぶ。

オリッツという男のことはグレコもだいぶ理解してきた。

真面目で仕事熱心。

研究以外に興味はなく、弱気。

今食べている野菜中心の食事にしても、彼の平和主義的性格が現れている。


「他の三羽烏はどういう人間なんだ。確か教育と経済の分野を制してるんだったか。」

「僕と違って野心家の曲者だよ。年に数回会うことがあるけれど実にそりが合わない。」


不満げな顔でオリッツがそう話す。

サイラス三羽烏に関しては、グレコも事前にかなりの情報を仕入れた。

政治の全てを女王であるフーネが単独で実行しているこの国において、サイラス三羽烏はあくまでも外部機関の長である。

民に教育を与えるサイラス学術院、魔導を研究し軍事的発展を生むサイラス魔導研究所、国内の商業を支配するサイラス商会。

直接政治に関与しないものの、国内で大きな力を持っているのがサイラス三羽烏だ。


「そうだ、今度ある会議に君達も出席するかい?僕らは定期的に女王陛下に報告をしなければいけないんだけど、その前準備として三機関の長で会議をするんだ。外部の人を招くことも多いし、救国の英雄たる君達が出席しても問題はないはずだよ。」


これはかなりいい提案である。

アイラ、ライラに復讐する上でグレコはサイラス王国を内部から破壊させるつもりだ。

その計画の上で、サイラス三羽烏の面々と親睦を深められる機会は貴重。

今グレコがやるべきは戦闘でも悪事でもない、サイラスで権力を持つ人々からの信頼を勝ち取ることである。


「ぜひ行かせてくれ。コルワの方も研究に飽きてきたらしいしな。」

「そうそう!毎日毎日研究研究って!たまにはお外に行かないと死んじゃうよ!死なないけど♪」

「それは申し訳ないね。会議といってもパーティみたいなものだから。ぜひ楽しんでおくれ。」


オリッツがにっこりと笑い、食事を終えて去っていく。

グレコ達も食事を終え、今度は話を聞かれないうように【掌握】を発動しながら、再び話し始めた。


「僕らも大分信頼されてきたみたいだね♪真面目に働いてきた甲斐があったよ!」

「恐らくアイラの差金だろうがな。あまりにも話がスムーズすぎる。ここに就職した時もそうだが、俺達はあいつに泳がされているだけだ。気を抜くなよ。」


グレコ達がこうして平和に生活しているのは、ほぼ間違いなくアイラの作戦だ。

あの姉妹は自分達がグレコに命を狙われれていることを理解した上で、グレコを放置している。

どういう思惑かは知らないが、放置してくれるというのならそれに越したことはない。

女達の手のひらで踊り、いずれその手を翻させるだけだ。

グレコに頭脳戦を仕掛けようということ自体が間違っている。


「そういえばランベリーはどうなったんだ。アイラやライラに何をされようが構わないが、あいつだけは例外。変なタイミングで暴れられると困る。」

「さぁ?騎士団の砦に突撃して以降、全く目撃情報はないらしいよ。まぁ色々頑張ってるんじゃないかな?」


ランベリー・レオナル。

グレコの宿敵であるこの男は、長い間失踪している。

何やらコルワが餌を撒いたらしいが、グレコが何度聞いてもコルワは細かい話を教えてくれない。

今のところグレコに対して反抗するような様子は見られないが、コルワが変態狂人なのは揺るぎない事実。

その悪巧みは常に警戒しておかなければ。


「まぁいい。とにかく今はサイラス三羽烏との会議が重要だ。俺は会議を利用してフーネやアイラ、ライラと手軽に会える地位まで登り詰める。暴れるのはまだずいぶん先だ、それまでに牙を研いどけよ。」

「おっけおっけ!暗躍と裏切りはグレコの得意分野だものね!その相棒として活躍できるよう、僕も色々準備しておくよ!」


グレコは立ち上がり、再び職務に忠実な好青年の仮面を被る。

ただ一つの復讐のためだけに。

グレコは全てを利用する覚悟を持っている。

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