39.サイラスの叡智
「戦闘モード起動。対象を撃破します。」
目の前に降り立った魔導兵が目を光らせ、動き始める。
少し浮いた体と不気味に動く足。
グレコを持ってしても見たことのないレベルの技術力である。
「全くこんなもの作る暇があったら、もう少し庶民の暮らしをよくしてやれよな。」
「まぁいつの時代も偉い人なんてそんなものだよ。さっ、来るよー!」
コルワが声をかけたと同時に、魔導兵が迫ってくる。
両腕が前に出されキュポンと外れる手首。
そこから発射されたのは、グレコからすれば見慣れた豪炎だった。
「おっひょー!すっごい火力!」
「流石アイラを擁する国の技術だな。あいつのフレアをほぼ再現してる。」
魔導兵の戦闘力に感動しつつ、グレコはコルワを盾にする。
勇者パーティの一員として魔族と戦っていた頃、何度も目にした赤い炎。
グレコとライラの索敵に従い、パーティの中間から魔法を放ち続けるアイラは間違いなくあの六人の主戦力だった。
最前線で暴れるランベリー、コルワ、ベリオットが敵に背後を取られればすぐに支援放火をし、敵が強力な攻撃を放とうとすればバリアを張る。
あれほど強力かつ多種多様な魔法を使いこなすアイラを元にしたとすれば、目の前の魔導兵の高火力も頷ける。
魔導兵はすぐさま次の魔法を放つ動きを見せ、グレコ達は距離を取る。
「どれだけ火力が高かろうが結局は機械だ。性能を確認しつつぶっ倒すぞ。」
「おっけ〜!それでそれで!?ミッションをくださいマスター!」
「死ね。ただひたすらあいつに突撃して死にまくれ。」
極めて簡単な命令を与え、コルワがそれに従って突撃する。
アイラとライラに復讐する際、結構な確率でこの魔導兵とも戦うことになる。
その時のために魔導兵の性能をできる限り把握する必要があるだろう。
そのためには、コルワを実験台にするのが一番だ。
グレコの目論見を知ってか知らずか、魔導兵はコルワに片っ端から魔法を打っていく。
熱魔法に氷魔法、移動系の魔法を応用した合わせ技まで。
魔法の放ち方は完全にアイラそのものである。
「対象の接近を確認。近接戦闘モードに移行します。」
魔導兵の無感情な声が響き、先ほど外れた手首から剣が生えてくる。
ここはあくまでサイラス魔導研究所。
何もアイラのデータだけを使用しているとは限らない。
そしてグレコ達には、その剣術にも見覚えがあった。
「ねぇねぇグレコ!この動きってダードおじいちゃんのじゃない!?」
「あぁ間違いなくそうだろうな。元サイラス騎士団団長ってのは聞いてたが……。」
とにかく速度を追求した隙のない動き。
グレコ達が何日も何日も負け続けたあのダードの剣術である。
恐らくコルワが【不死】であることを学習しまともに戦うことを諦めたのだろう。
左手で魔法を、右手で剣術を使い、グレコとコルワ両方に攻撃を仕掛けてくる魔導兵。
その斬撃を剣で弾きつつ、コルワに指示を出した。
「おい!こうなったらお前と離れてる方が面倒だ。こっちにこい。」
「も〜人に物を頼むときはもっと優しい言葉遣いを心がけた方がいいよ?そんなんじゃ女の子に好かれないぞ♪」
「黙れ。」
近くへ寄ってきたコルワの首元を掴み、肉壁にする。
ここまで情報を得られたのならばもう十分。
さっさと片付けてしまおうじゃないか。
グレコはそう息を巻き、コルワと連携していく。
「ダードはともかく、アイラが強かったのは俺やライラがいたからだ。戦闘において冷静に場を分析して指示を出す存在は重要。火力が高かろうと人間の処理能力には限界があるからな。そしてそれは、機械でも同じだ。」
攻撃を防ぎつつ、グレコは的確に剣を当てていく。
こちらには数の利がある。
二人がかりで攻撃を仕掛け、魔導兵の周囲を移動し続ければ必ず処理落ちが起こるはずだ。
グレコの思惑通り、魔導兵は徐々に動きが固くなっていき、魔法攻撃も外れることが増えてくる。
「さぁ、これで終いだ。」
何度も死にまくり血まみれになったコルワの後ろに隠れ、魔導兵の視界から外れる。
長引く戦いの中で、魔導兵はコルワを無視し始めている。
こんな近くに迫っていても派手な魔法を使ってくることもない。
戦闘中にコルワは戦闘力も低く無限に絡んでくるだけの輩と学習したのであろうが、それが間違いだ。
グレコは剣を魔導兵に向かって突き刺し、間にいたコルワごと串刺しにする。
「うぇ……。いくら僕が【不死】だからってさぁ……。仲間に剣を突き刺すことに対して罪悪感とかないの?」
「そんなものがあったらアイラを殺すために動いたりしてないだろ。さ、上に戻るぞ。」
残骸になった魔導兵を足蹴にし、降ってきた階段を登る。
音声が盗聴されていないことは【掌握】で察しているが、上でオリッツは戦いを見ていたはずだ。
荒々しい表情は終わりにして品行方正を演じなくては。
「やぁやぁおかえりグレコ君。それにコルワ君。いやはや素晴らしい戦闘力だね!コルワ君の【不死】もそうだが、グレコ君に至ってはスキルを使っていなかったじゃないか。」
「一応魔王を討伐してるからな。それより凄いなあの魔導兵。あの戦闘力がこの数か……。」
上階の研究室に戻り、壁一面に並ぶ魔導兵を眺める。
オリッツに見られているという前提があったから、【掌握】を一切使わずに戦ってみたが、あくまでも一体だったから何とかなっただけの話だ。
あの火力と機動力の魔導兵が大量に襲ってきた場合、ほぼ勝ち目はないだろう。
「やはりあれはアイラ……第二皇女殿下を元に作ったのか?」
「あぁ彼女には色々と協力をして貰ったよ。他にもサイラス騎士団の実力者や優秀な冒険者など色々な人の戦い方を元にした完全兵器。苦節数十年の集大成さ。」
オリッツが自慢げに魔導兵を眺める。
まぁダードの情報が使われている辺りからして相当昔に開発が始められたことは察していたが、オリッツからすれば人生を懸けた兵器なのだろう。
息子を見つめる時のような彼の熱い瞳を見つつ、グレコは本題に入る。
グレコは魔導兵と戦いにきたのではない。
ここで働きにきたのだ。
「オリッツ、よければ俺とコルワをここで働かせてくれないか。体が治ったのはいいがやることがなくてな。バルトラも潰れたし、勇者パーティは追放されたし。雑用でも何でもやるぞ。」
「僕も僕もー!死にまくるのは嫌だけどそれ以外ならある程度何でもやると思うよ!多分ね!」
自然な流れで労働の話を切り出す。
コルワが張っている予防線の数からしていつに働く気など全くないのだろうがまぁそれはいい。
目の前でグレコ達の話を聞いていたオリッツは少し驚いたような顔をしているが、少なくとも嫌悪はしていない。
「君達のような人達が僕の味方になってくれるのは嬉しいけれど……。本当にいいのかい?君達ならこんな所で働かなくてももっといい働く口があるだろう。というか働く必要すらなさそうだ。」
「そんなことはないさ。誤解だったとはいえ一度は勇者パーティを追放されて地べたを這いずってるんだ。貯金なんてほとんど無い。それに何よりここはサイラス、いや世界でも随一の魔法研究機関じゃないか。それだけで働く意義なんて十分さ。」
グレコは下手くそな笑みを浮かべつつ世辞を述べる。
表情だけみれば明らかに好感触だ。
それなのにオリッツの歯切れが悪いのは、恐らく国のことを考えているのだろう。
勲章も与えられ救国の英雄なんて名前をつけられていると言っても、グレコは勇者パーティを追放された大悪党。
犯罪組織にいた経歴もあるし、オリッツほど職務に忠実な人間であれば雇うのを躊躇って当然だ。
引き続き説得をしよう、グレコがそう思ったタイミングで部屋の扉が開いた。
「雇っちゃいなさいよオリッツ。そいつらが役に立つのはこの私が保証するわよ。」
姿を現したアイラ。
長い赤髪を揺らしつつ、持ち前の細い目でこちらを睨んでくる彼女の姿を見て、オリッツは目を丸くする。
「あ、アイラ様……?どうしてこんなところに。」
「グレコ達が見学に来るって聞いたから様子を見にきたのよ。まぁまさか就職を頼みにきてるとは思わなかったけどね。」
固まったオリッツを通り過ぎ、グレコの前に立つアイラ。
王城に行った時も、ランベリーと何度か剣を交えた時も。
この二人は結局顔を合わせていない。
久方ぶりの再会を果たした両者は、互いに作り笑いを浮かべていた。
「久々だなぁアイラ。会えて嬉しいよ。相変わらず、綺麗な面だ。」
「褒めてくれてありがとう。そっちも相変わらずの悪人面ね。」
「ね、僕もいるって知ってる!?二人とも!ね、ね!」
グレコとアイラの肩を行ったり来たりしながら、コルワが踊る。
この変態さえいなければ相当緊迫した場面だろうに。
そう思っているうちにアイラが踵を返す。
「じゃ、私は顔を見せにきただけだから。グレコ、私はあなたを一切止めないわ。あなたの思うがままにやりなさい。」
「それはどうも。ありがたく好き勝手やらせて貰うよ。」
ものの数分でアイラはその場を去り、笑うグレコ達と困惑したオリッツが取り残される。
こうしてグレコの再就職が決定したのだった。




