3.華達の奪い合い
「引き受けたのはいいけどさ、流石に無理な気がするんだよね。」
「グォォォォオ!!!」
暴れ狂う雌オーガを前に、コルワは1人呟く。
【不死】の力を使って蘇生したすぐ後だ、特に考えずにグレコの指示を軽く受け入れてしまったがあれは完全に失敗だった。
ただ死なないだけのこの能力ではとても太刀打ちできる相手ではない。
「グォン!」
「痛ったぁ!いや痛くないんだけど見た目が痛々しい!」
オーガの一撃でコルワの左腕が吹き飛ぶ。
彼女ないし彼の勇者パーティでの役割はあくまでも盾役だった。
索敵役のグレコとライラ、火力役のランベリーとベリオット、火力兼治癒役のアイラ。
基本的に攻撃特化な5人の防御を全て担う最強の肉壁。
それがコルワという人間である。
その職務に恥じぬ再生力で彼女の左腕は直ぐに生えなおり、再びオーガの一撃が放たれる。
「絶対に負けはしないんだけど絶対に勝てもしないんだよねぇ。」
吹き飛んでいく己の右腕を掴み、雑に回避する。
【不死】に頼って生きているためコルワは基本的に回避が下手である。
加えてグレコのように剣術が使える訳でもない。
為す術なくオーガの攻撃を受け続けるコルワを救ったのは、見慣れた火球だった。
「フレア。」
「グギャァァァァァ!!」
冷たい声での詠唱とともに飛来した火球は、オーガの肩に命中。
先程のコルワのように右腕が軽く吹き飛び、そのままオーガは地面に転がった。
オーガはその巨体が故に、体の一部を欠損するとバランスを崩して地に伏す。
角を破壊した時のように即死はしないが、行動不能にするには最も有効な策である。
「相変わらずド派手だねぇお姫様は。僕とは大違いだ。」
「黙らないとあんたも消し炭にするわよ。」
占星術師ライラと魔導士アイラ。
温和な姉と苛烈な妹。
同じパーティにいた頃からこの二人とコルワは仲が悪かった。
中でも神経質で生真面目なアイラと適当で自由人のコルワの折り合いの悪さといったら、仲裁役のランベリーが諦めて放置するほどである。
「冒険者ギルドに頼まれたから来てみたらあんたがいるとはね。一体何をしているのかしら?」
「分かってるくせにアイラちゅわん♪悪巧みだよ悪巧み!」
コルワはくるっと身を翻し、三人は呻くオーガを囲んで対面する。
グレコとランベリーのように深い因縁がある訳では無いが、流れる緊張は並でない。
「そこをどいてくれるかしら?私はこの死体を回収してギルドに差し出さなきゃいけないの。」
「ふふ〜ん、やだね!グレコはこいつを倒して来いって言ってたんだ。これは僕の手柄にしないと。」
コルワが舌を出しアイラを馬鹿にする。
こうなってしまったらやることは一つ。
アイラの杖が赤く光り始めた。
「仲間ならいざ知らず、パーティから出ていった悪党に加減なんてしないわ。ライラ!離れておきなさい!」
「アイラちゃん、き、気をつけてね。」
やっと口を開いたと思ったら妹の心配をするだけか。
相変わらず弱気な女だ。
コルワはそう言いたくなるのを堪えて、突撃する。
オーガのように丈夫な体を持つ相手なら話は違うが、ことアイラのようなただの少女が相手であれば彼女に敵はない。
「幾らでも燃やせばいいよ!火だるまになろうと消し炭になろうとぶん殴りに来てあげる!」
「女装癖な上にドMの変態、ってほんと救えないわね!フレア!」
先程の火球とは比べ物にならないサイズの魔法が放たれ、コルワの白い肌が燃えてゆく。
数秒の間放射された炎は周囲の草原を焼き尽くしたが、意味は無い。
コルワはその中からボロボロの状態で現れアイラに殴り掛かる。
「アイラちゃん!拳の前に石ころ!」
「バリア!」
拳が当たろうかという瞬間、奥からライラの声がかかる。
流石の連携だ、アイラはすぐ様前方にバリアを張りガード。
コルワが火炎に包まれつつ放った石ころが地面に転がる。
「あらあら、炎で視界が悪い間に姑息なことしよ〜と思ったのにずるいなぁ占星術師。」
「ア、アイラちゃん大丈夫!?」
張られたバリアをコルワが蹴り飛ばしつつ文句を垂れる。
占星術師、ライラ・サイラス。
サイラス王国第一王女であり魔術師アイラの姉である彼女は、全世界で随一の占星術師である。
星の動きを読む占いのような力で、対象の未来の行動を予測、回避。
今その場にあるものを把握するグレコとは違うタイプの索敵役だ。
「全く二対一なんてずるいよねぇ。こんなにも可愛い子が一人で戦ってるっていうのに!お肌も焼けちゃうし最悪だよ。」
「あんたもグレコを連れてくればいいじゃない。二人で冒険に出ていって大層仲がいいんでしょう?」
「昔からグレコのこと大好きだよねぇアイラちゃん。追放なんてしないで『私と結婚してぇ!』とでも言えばよかったのに。素直じゃないって大変大変!」
「黙りなさい、二度とその口が開かないようにしてあげるわ。」
互いが互いを煽り、再び火球が放たれる。
こうなると完全にイタチごっこだ。
アイラの攻撃は【不死】で完全に無効化されるし、コルワの攻撃は占星術で無効化される。
激しい戦闘はしばらく繰り広げられたものの、直ぐに収まることとなった。
「あーもうやめやめ!どうせ決着がつかないんだもん!戦う方法を変えようよ♪」
「戦う方法を変える?何、じゃんけんでもするっていうの。」
「いいねーそれ!それにしよう!勝った方がこのオーガを手に入れて、もちろんライラちゃんは使用禁止ね!」
手早くルールを決め、コルワはアイラに近づく。
元より正々堂々運任せをするつもりなどない、あくまでもコルワは卑怯な人間だ。
「最初はグー、あそうだ、アイラちゃんが大好きなグレコなんだけどさ。二人のことをいつか娼館に叩き込むって言ってたよ!精々気をつけてね!」
「え、はぁ!?ちょっとそれどういうことよ!」
「じゃんけんぽーん!はい、アイラちゃんのまっけ〜♪」
突然の話に動揺していたアイラを待つことも無く、コルワは勝利を宣言する。
アイラとしてはただ軽く手を握っていただけだろうが、そんなことは関係ない。
無理やりにでも勝つための作戦だ。
「と、いうことでこいつは僕のものね〜!グレコは君のことなんて何とも思ってない、もちろんライラちゃんのことも。ただひたすらに殺したい相手でしかないんだよ君達は!あはは!」
アイラがグレコ追放に同意した時は、精々お灸を据えるぐらいの気持ちだったのだろう。
しばらく勇者パーティから追放し、【掌握】の力が薄れたらもう一度迎え入れる。
最もランベリーにそんなつもりは一切無かっただろうが、陰ながらグレコを愛していた彼女からすればそういう算段だったのだ。
だがグレコはそんなこと一ミリも考えていない。
ただ純粋に復讐のため動いている。
その事実を突きつけられ、動きを止めてしまったアイラを無視しコルワはオーガの上に乗る。
「私は、私達は決して負けないわ。例え相手が誰だろうと勇者一行としての矜持を守り続ける。」
「殊勝なものだねぇ〜。ま、いいや頑張って〜!ライラちゃんもバイバーイ!」
「え、あ、バイバイ。」
アイラが拳を握りながら吐いたセリフを軽く無視し、ライラに手を振る。
ライラはおどおどとしすぎてこちらが何を言っても怒らない。
彼女をからかって遊ぶのはコルワの習慣だ。
諦めて草原を後にする二人を見送り、コルワはオーガにとどめを刺す。
流石に動かない相手ならば仕留められる。
コルワは血に染まりながら遠くをぼんやりと見つめる。
「あっちも終わってるといいけどねぇ。」
そう呟いた瞬間、草原の奥で地面が割れる音がした。




