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37.大国の王女

「あっはっはっ!似合わなっ!無理無理面白すぎむーりー!」


着替えを終え、カーテンを開いたグレコ。

それを出迎えたのは抱腹絶倒するコルワだった。


「お前と違って俺は普段ほとんど同じ服なんだ。見慣れてないだけだろ。」

「それは、そうかも、知れないけど……!はぁはぁ無理、面白すぎて喋れない!」


いつもは雑に伸ばしている髪をしっかりと整え、オーダーメイドした礼服に袖を通す。

平時のグレコは見るからに犯罪者だが、こうもきちんとした格好をしてみるとただの優男だ。

自分で鏡を見てみても、少しばかり面白い。


「笑ってないでお前も着替えろ。呼び出されたのは俺だけじゃないんだ。その格好で王城に行くつもりか。」

「えーいいと思ったんだけどなぁメイドさん。セドナちゃんにも着せてご主人様とメイドごっこしたかったのにー。ご・奉・仕!してあげるよ♪」


不貞腐れながらもコルワが服を脱ぎ始める。

カッシルと街で出会った時からしばらく経ち、グレコの体は完全に回復。

サイラス姉妹への復讐に向けて本格的に動き出そうかというタイミングで、グレコの元に一通の招待状が届いた。

送り主はサイラス騎士団。

今回のバルトラ討伐における功績を讃える勲章を授与するとの内容であり、そこまではまぁ良かったのだが。


「誰の作戦かは知らないが思い切ったものだな。俺達をあの城に呼び出すなんて。有難い話だ。」

「ふふふ♪よかったね〜!僕も楽しみだよ。アイラちゃん達もそうだけどかの有名な女王様に会えるなんてさ!」


珍しく男性ものの礼服に身を包んだコルワが踊り始める。

ついこの間まで女王の存在すら知らなかったというのに都合のいい奴である。

今回呼び出されたのはグレコ、コルワ、セドナのフルメンバー。

今日ばかりはこの変態の戯言に付き合い続けなければならない。


「それで?どうするの?王城の中で大立ち回りでもしちゃう!?今日の僕はやるきだよ!」

「いや、大人しく勲章を貰うだけだ。この前言った通りカッシルがいる限りクーデターは不可能だ。あの憎たらしい親子の面を見て帰るぞ。」

「ご主人!迎えが来たぞ!」


名家の令嬢のような格好になったセドナが現れ、馬車の来訪を告げる。

今回の復讐相手はベリオットのように容易くない。

まずは様子を伺い、隙を探さねば。

それに何よりグレコはあの女王に会うというだけで気が重い。

ほぼ確実にあの場で暴れる気概は生まれないだろう。

グレコは手袋を付け、自宅を後にした。




「おや、思ったより早かったなグレコ。ふっ、随分と身なりを整えてきたんだな。」

「王城に呼び出したのはそっちだろうが。後で洋服代を騎士団に請求しておく。」


馬車に揺られて小一時間。

サイラス騎士団によって整備されたナラクから続く大きな道を抜け、グレコ達三人は王城へと到着した。

城の門ではカッシルを筆頭とした大量の騎士団が警備を行っており、他国の王でも出迎えるかのような雰囲気である。

だがこの警備は外敵から来客を守るものではない、グレコという来客から王族を守るためだろう。


「フーネ女王陛下は既にお待ちだ。このまま勲章授与式を始めるぞ。」

「あぁ。先に言っとくが俺もコルワも礼儀に欠けてる。多少無礼があっても許せ。」

「大丈夫だ。フーネ女王陛下はそんなことを気にする御方ではない。それはグレコも知るところだろ。」


勿論、それに関しては理解している。

こんな真面目な格好をしているのも、丁寧な言葉遣いを思い出そうとしているのも王女の為ではない。

あの女に対する礼儀など、グレコは大分前に捨て去っている。

あくまでも城で働く文官やら何やらに目をつけられないためだ。

王家に近づくには、王に仕える者にも気に入られなければ。


「女王陛下。失礼致します。」


思った通り文官達に警戒の視線を向けられながら歩いて数分。

一際大きな扉の前で一同は立ち止まる。

カッシルがゆっくりと扉を開け、グレコ達は王の間へと誘われた。

勇者一行とはいえ、ランベリーやグレコのような男が普通に出入りしていた城だ。

他の国ほど格式高い城ではないが、いざここに入るとなると少し身がすくむ。

グレコ達は軽い緊張を覚えながら、大きな扉を跨いだ。


「あらあら久しぶりねぇグレコちゃん!相変わらずのイケメンじゃないの!」


王の間の一番奥。

大きな玉座に腰変えている女。

華やかな衣装と美しい長い髪とは裏腹の高いテンション。

とても一国の女王とは思えない、何なら酒場のおばちゃんの方が向いていそうなその女こそが。

サイラス王国女王、フーネ・サイラスである。


「お久しぶりです女王陛下。そちらも相変わらず見目麗しい。」

「もーいいわよそんなにかしこまらなくって!どうせここには私しかいないんだし、気軽に喋ればいいのよ。ほら、そこに座りなさいな!」


凄まじいハイテンション。

これがあの寡黙なライラの母親とは。

とても信じ難い話だが、紛れもない事実。

辺りに誰もいないのを確認してから、グレコは適当な椅子に腰掛ける。

全く豪華絢爛な王の間だというのに、何故そこら辺に椅子が転がっているのか。

そんな疑問を口にするまでもなく、フーネが話を続けていく。


「で、どうやら色々と頑張ってくれたらしいわね。ランベリーちゃんに追放されたって話を聞いた時はどうなることかと思ったけれど。何がどうなったのかしら?」

「どうなったも何も話の通りだ。一度はバルトラに与したものの、あいつらの本性を知って裏切った。ただそれだけの話だよ。」


真面目な表情になったフーネに対し、何食わぬ顔で嘘を付く。

お前の娘を殺すために動いていたら成り行きでこうなった。

なんて口が裂けても言えるはずがない。


「ふぅん……そっちの子達は?長髪の方はどこかで見たかも知れないけれど、小さい子は知らないわね。」

「やっほー!王女様♪僕はコルワ!今は男装してるけど、グレコの可愛い可愛いお嫁さんだよ!」

「えーちょっとそんなことになってるなら早く言ってちょうだいよ!ご祝儀を用意しなくっちゃ!」

「騙されるなフーネ。こいつは男装してる女じゃなくて正真正銘の男だ。俺はこいつと結婚してもいない。後こっちはセドナ。俺の世話係みたいなもんだ。」


グレコには、何となくこの二人を引き合わせてはいけない気がしていた。

美容に気を使い人との距離を気にしないフーネ。

説明文だけ見ればほぼコルワと同じである。


「こっちからも質問なんだが、何で俺はここに呼ばれたんだ。勲章授与って話だったが、今のところお喋りしてるだけだぞ。」

「そうそう忘れてたわ。ロッツ!勲章を持ってきて頂戴。」


数分の間、楽しそうにコルワと喋っていたフーネが再び玉座につく。

女王らしい優雅な動きで召使いを呼び、若い男が姿を表した。


「お待たせしました。こちら勲章でございます。」

「ありがと。はい、戻っていいわよ。」


やたらと装飾のついた勲章をフーネが掴み、その出来を確かめるように女王が勲章を眺める。

グレコにはそんな見た目だけのものよりも、それを持ってきた男の所作の方が気になった。


「その男、もしかしてそいつの目は作り物か?」

「あら、よく分かったわね。目どころか足や手も人工よ。孤児として転がっていたのを雇ったの。これだけスムーズに移動できるようになるまで相当時間がかかったわ。」

「視線の動きが変だったからな。お前も意識して声をかけていそうだった。」


ロッツという名前らしいその男は、明らかにグレコのことを気にしていない。

というか警戒も尊敬もしていない。

文字通り眼中にないのだろう。


「さっ、グレコちゃんこっちに寄りなさい。私が直々に勲章を付けてあげるわ。」


立ち去っていくロッツを眺めつつ、フーネに近寄る。

鼻の奥まで入ってくる化粧品と香水の香り。

赤く塗られた口紅の輝きが目に入るほどの距離まで迫り、フーネはグレコの胸元に手を伸ばす。

広い王の間の中で、グレコにだけ聞こえるような小さな声で。

フーネはゆっくりと言葉をかけてきた。


「グレコちゃん。あなたが今何を考えているかは知らないわ。まぁあなたのことだからきっと悪いことなのだろうけれど、どうせ私はそれを止める術を持っていない。けど、私の国に傷の一つでも付けてみなさい。私の愛すべき娘達があなたを逆さ吊りにして城の前に晒しあげるわ。」

「ふっ、大層な脅迫だな。心配しなくてもお前等の国には何もしないさ。」

「国には、ね……。さっ!これであなたも立派な勲章持ちの男前よ!胸を張って帰りなさい!」


フーネが背中を叩き、グレコはしっかりとした足どりで距離を取る。

全てを見通したような物言いと、己の周囲に対する圧倒的な信頼。

この女の纏う雰囲気が、大国サイラスの王たる風格が。

グレコは大嫌いである。


「次会う時はもっと仲良くお話しできることを祈ってるわよ。じゃあね、グレコ。」

「あぁ。こちらこそ末長くよろしく頼むぞフーネ。俺は世のため人のため、この身を使い果たしてやるからよ。」


互いに心にもないことを口にし、グレコ達は笑みを交わす。

こうして女王フーネ・サイラスとの面会は、幕を下ろしたのであった。

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