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31.騎士達の忠義と守るべきもの

「ひぃい!?何で騎士団がこんなとこにいるんだ!襲撃は明日のはずだろ!?」

「怯むな!どうせ潰すんだ、とっとと戦え!」


ヴィトに託されたバルトラの戦闘員が狼狽し、戦況が混乱する。

あれから五日、グレコ達は激しい戦闘の只中にいた。

サイラス騎士団を攻撃しにいき、その道中で逆に攻撃を受ける。

ここまでは間違いない流れ。

今目のまではサイラス騎士団の総戦力と、ヴィトを除いたバルトラ側の総戦力が凌ぎを削っている。

問題は、ここからだ。


「グレコ様、後方へお下がりください。先ほど伝令を出しましたので直ぐにヴィト様が援軍に来るはずです。ここは私にお任せを。」

「あぁ、悪いが任せたぞダード!絶対に死ぬな!」


全く行動の早い老人だ。

サイラス騎士団の奇襲で兵の士気が下がったのを見るや、直ぐに援軍を呼ぶ。

こういう判断の早さもダードがヴィトに信頼されている由縁なのだろう。

何にせよ作戦は成功している。

グレコの方も裏切りの準備をしなければ。


「コルワ、さっさと引くぞ。俺らはこの段階で傷を負うべきじゃない。俺らが働くのはサイラス騎士団とバルトラが完全に潰しあってからだ。できる限り疲弊を避けつつ後方で戦闘している振りをするんだ。」

「おっけ〜♪ちゃんと守ってよね!」


賭場にいる労働者を【掌握】で操作することは思った以上に簡単だった。

通常、大量の人間を【掌握】で操ろうとすれば、ベリオットの時の様に脳に多大な負担がかかる。

しかしグレコは己の力を知り尽くしている。

重要な事は操作のレベル。

腕を動かせ、誰々を殺せと体を操作しようとするから負担がかかるのだ。

【掌握】で操作できるのは何も体だけではない、記憶を操作してやればいいのである。


『自分達はグレコの命令を全て聞かなければならない』


たったこれだけの内容を彼らの頭に【掌握】で擦り込む。

そうすればグレコが記憶を上書きしない限り、未来永劫グレコの奴隷となる。

勿論体を【掌握】で直接操作している時に比べれば、思考の柔軟性や戦闘能力という面で大分劣ってしまうが、今回のような場合はそれでも構わない。

グレコはあくまで労働者達を裏切らせ、バルトラ内部の秩序を崩壊させたいだけだ。


「こっちを攻撃してくる輩から俺を守れ!戦闘には参加せず守りに徹しろ!俺達はまだバルトラの味方だ!」


自分の意思を無くし傀儡となった労働者達がグレコ達を取り囲む。

カッシル以外のサイラス騎士団の人間はグレコが裏切者だということを知らない。

そのため容赦無く斬りかかってくるが今は我慢だ。

労働者達を本格的に動かすのはダードがカッシルらの手によって撃破された後。

重要戦力を失ったバルトラへのダメ押しとして謀反を起こす。


「計画の中に他人任せな部分があるのは腹立つが……。頼むぞ、カッシル。」


小さくそう呟き、グレコは前線を眺める。

ダードに勝つことはグレコとコルワでは不可能、そう判断してカッシル達に託しているのだ。

まずは彼女達が戦果を上げなければ何も始まらない。




「ダード団長、いえ元団長。一度は不覚を取りましたがこのラストア、再び剣を振らせていただきます。」

「何度挑もうと、誰を連れてこようと結果は同じです。ご覚悟を。」

「ダード・ラッツェル殿。貴殿の功績は聞き及んでおりますが、所詮今のあなたは裏切り者。奈落で汚れたその首、私が斬り落として差し上げます。」


最前線ではグレコの思惑通り、三人の騎士が向かい合っていた。

元サイラス騎士団最強の男と、現サイラス騎士団最強の矛と盾。

大勢の騎士と戦闘員が激しい戦闘を繰り広げる中、三人の間に緊張が走る。

先に攻撃を仕掛けたのは、ダードだった。


「お二人は民の為に戦われているのでしょうが、私にはそれよりも守るべきものがございました。裏切り者と罵られる筋合いはございません。」

「民よりも守るべきもの?あの奈落の悪党がか!一日にどれだけの人間が奈落で行方知らずになると思っている!あんな場所を取り仕切る男など守るに値しない!」


素早く蹴りを繰り出したダードの前に【障壁】が張られる。

透明な壁に蹴りは阻まれたものの、ダードは止まることがなく、ただひたすらに蹴りと手刀を重ねていく。


「ヴィト様が守るのは奈落で懸命に生きようとするものだけでございます。奈落で行方不明になるのは酒や薬に溺れたり、ギャンブル中毒になったもの。生きることを諦め己を捨てるものなど、それこそ守る価値がございません。」

「いかれた選民思想が!堕落していようと懸命に生きていようと、奈落だろうと地上だろうと、私は全ての民を守る!ラストア!何も気にせず【固定】を使え!私が全て守る!」

「はっ!お任せください!」


【障壁】で攻撃を防ぎつつ、その奥でラストアが斬撃を【固定】していく。

【固定】に弱点があるとすれば事前の準備が必要なことと、一斉解除しか出来ないことだ。

その為ダードほど熟練した相手に有効打を与えるには、自分の身を犠牲にして裏をかく他ない。

だが、カッシルがいれば別だ。

瞬時に超耐久力のシールドを張れる【障壁】があれば、一切のダメージなく【固定】を使うことができる。


「ふむ、厄介な組み合わせですな。まずはこの壁を壊さねばいけないようです。」

「壊せるものなら壊してみろ。私の【障壁】は絶対に破れない。」


ラストアの攻撃を全力で避けつつ、ダードが【障壁】を攻撃し続ける。

どれだけ攻撃を重ねようと傷一つ付かないシールド。

ダードが騎士団長に就任したのが人徳と武術の腕を見込まれたからだったとすれば、カッシルが騎士団長になれたのはこの圧倒的防御力のおかげだ。


「しかし所詮はスキル。限界はあるはずでございましょう。例えばこのように、同時多発的な攻撃は如何ですかな。」


ダードがカッシルの前に張られたシールドを蹴りながら、ラストアや周囲でバルトラと戦闘している兵士に向かって石を投げる。

例え石ころであろうと、本気で投げれば致命傷は避けられない。

【障壁】の硬度が無限だろうと、張れる数には限界があろうだろう。

ダードはそう判断しての攻撃だったが、カッシルはそれほど甘い相手ではなかった。


「舐めるな、貴様がどこを攻撃しているかなど見れば分かる。貴様が勇者殿のように広範囲攻撃を可能としていたら違ったかもしれないが、石ころ程度で私の【障壁】は無効化できない。」


カッシルが目を見開き、ダードが放った全ての攻撃を受け止める。

反撃開始。

ダードが一瞬怯んだのを合図に、ラストアが声を張り上げた。


「同時多発的攻撃に弱いのはそちらの方でしょう。スキルも持たない人間の回避力など、たかが知れております。総員!一旦後方へ退避しろ!加減など出来んぞ!」


指示に従って周囲の騎士達が下がったのを見計らい、ラストアは再び【固定】を解除する。

狭い地下通路全体に斬撃が出現し、ダードの皮膚が裂ける。

相変わらずカッシルの防御は完璧。

カッシル本人は勿論、ラストアにも一切傷は付いていない。

空中に【固定】された斬撃がない間に攻めようにも、【障壁】が破れずその間に斬撃が【固定】されていく。

完璧とも言えるコンビネーションの前に、ダードは徐々に追い詰められていった。


「そろそろ足が動かなくなる頃合でしょう。諦めて投降していただきたい。仮にも元上司、復職とまではいかずとも牢の中での平和な生活ぐらいは約束いたします。」

「それも中々良い提案ですな。ヴィト様も同じように扱ってくださるのですかな。」

「そんなわけが無いだろう。ヴィト・バルトラ、奴は我々が責任を持って首を斬る。」

「でしたら、呑めぬ提案ですな。私の命などどうなろうが構いません、守るべきはあの方だけです。」

「逃すかっ!」


それだけ呟き、ダードは距離を取って地下通路の中を走り回る。

ラストアから見える範囲ぐらいには既に斬撃を【固定】してある。

例え距離を取られようと、最早ダードは袋の鼠。

ラストアがそう思った瞬間、彼の頬に砂が降った。


「できれば取りたくなかった手段ですが、仕方ありません。カッシル様、あなたは視野が狭すぎるのです。守るべきは民だけではないということ、覚えておいた方がいいですぞ。」

「何……?待て、ラストア!私の近くに寄れ!」


ダードが不敵な笑みを浮かべて地下通路の真ん中に立つ。

その目付きにはカッシルも見覚えがあった。

死ぬ覚悟を持ち、忠義を果たそうとする者の目。

しかし呼びかけが間に合うはずもなく、地下通路は崩落し三人の頭上に瓦礫が降り注いだ。


「ヴィト様、後はお任せいたします。」

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