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26.若さという弱さ

「侵入者!?一体どこから入ったんだ!」


綺麗な長髪を簡単にまとめ、体だけでは性別がわからないように肌を隠し。

この若さで騎士団長になるためには、出来る限り女性らしさを隠す必要があったのだろう。

特にこの顔面だ、これまで女だというだけで損をしてきたに違いない。

顔のパーツは完璧に配置され、目は蒼く輝き、そう見ることはないレベルの美人である。


「どこからだっていいだろ騎士団長。ただお前を殺しにきただけだ。」

「その口ぶり……。貴様がグレコとかいう男か!話に聞いているぞ、民を脅かす悪魔め……。」


カッシルが怒りに震えながら剣を握る。

流石の正義漢だけあって、会話の余地などないようだ。

少女はグレコに向かって突撃し、攻撃を重ねてくる。

剣術自体は……並以下だ。

ここしばらくダードとの鍛錬を積んだグレコからしてみればあまりに遅い。

スキルでどうにかする必要もなく、簡単に避けることができる。


「よくそんな攻撃で騎士団長になれたものだな。それとも俺が思ってるよりサイラス騎士団ってのは弱いのか?」

「そう言っていられるのも今だけだ。【障壁】。」


侮りを込めてグレコが剣を振ると、それは見えない何かによって弾き返された。


【障壁】


カッシルのスキルだろうそれを聞き、グレコはある種の面倒くささを感じた。

ただでさえ一対一の戦闘は億劫だというのに、強力な壁まで張られては……。

絶対に負けないが絶対に勝てもしないだろう。

策の一つでも巡らせられたらまた別だが、敵の本拠地かつタイマンの状況ではそれもまた不可能。

コルワに泥沼の殴り合いをさせた方がまだ勝算のある相手かもしれない。


「凄まじい強度だな。流石は民を守るサイラス騎士団の団長様だ。」

「黙れこの外道が!貴様らの組織のことは聞いている。犯罪組織バルトラ!お前らはこれまでどれだけ多くの民を傷つけた!」


カッシルがそう叫び、【障壁】がより一層固くなる。

あくまでもただ民を守るためだけに。

唐突に奈落を掃除しようとしたのもたったそれだけの理由なのだろう。

バルトラは奈落に住む人々に限らず地上に住む人々も食い物にしている。

これまでは所詮放置されていただけ。

騎士団長が変われば征伐されて当然の存在だ。


「私はこの身を賭してこの国の国民を守ると誓ったんだ。お前のような欲望のままに生きる奴に負けるつもりなど、毛頭ない。」

「大した信念だなぁ。俺の知り合いの騎士とは大違いだよ。ベリオット・カイズナー、知ってるか?」


傷一つつかない【障壁】を斬りつけつつ、グレコは語りかける。

肉体に傷をつけられないというなら精神に傷をつけるまでだ。

この若さなら、必ず心に隙がある。

グレコは早々に戦うことを諦め、交渉という選択肢を取ることにした。


「ベリオット……勇者殿の仲間の方か。国を失っても挫けることなく戦いを続け、遂には魔王まで討伐された。尊敬するべき御仁だと聞いている。」

「表向きはそうだろうな。だがあいつは自分の娘を孤児院に叩き込み、自分の名誉のために旅に出た父親の風上にも置けない奴だ。それに国が滅ぼされたって言っても生き残りは大勢いた。本当の騎士ならば国に残って彼らを守るべきじゃないか?何よりあいつは、有り金全部ギャンブルに注ぎ込むような馬鹿野郎だ。」


予想通りだ。

障壁越しに見るカッシルの顔は、明らかに困惑している。

人から聞いた知識を簡単に受け入れ、『民を守る』とかいうわかりやすい目標にすがる。

どれだけ努力を重ねて騎士団長にまでのし上がろうと、精神はそう簡単に成長しない。

グレコは目の前の騎士の少女性に、面白みを感じ始めていた。


「俺はそうした悪党を断罪しているだけだ。お前が仲良くしていた勇者殿もそう。お前はあいつのことを本当に正義だと言い切れるのか?」

「あ、当たり前だ。魔王まで倒した方が悪党なわけが無い。それにあの方はその後も魔物を討伐し、冒険者協会の最大戦力になっておられる!」


後少しだ。

いくら斬ってもちっとも壊れないこの【障壁】をもう少しで壊すことができる。

外から壊せないなら内側から。

発動者の懐柔、スキルに頼らずともグレコは人身掌握のプロである。


「そういうことなら俺だってそうさ。魔王を倒して平和を築き、魔物討伐にも力を貸してる。この前付近に出たオーガ二頭。あれを倒したのは俺達だし、高原にでた変異種のワームを倒したのだって俺だ。何より見たことないか?最近活躍してる柄の悪い冒険者達。あれを指揮しているのは俺が運営してる賭場だぞ。」


これまでに蒔いた種はこういう時に役に立つ。

例えそれらがベリオットを殺すための布石だったとしても、上手く言い換えれば善行だ。


「だがお前は民を巻き込んで勇者に復讐しようとしているのだろう。サイラス騎士団として、それは見逃せない。お前は、我々の敵だ。」


やはりランベリーはその話をしてサイラス騎士団を味方につけたのか。

民を守ることにしか興味がないこの組織がグレコを睨み始める理由などそれしかない。

にしてもグレコの呼び方が貴様からお前になったし、ランベリーについていた様も外れていた。

間違いなくカッシルの心は揺れている。


「確かにそんなことを言ったかもしれないが、俺はまだ一人も傷つけていない。お前の行動次第では俺は民を攻撃するのを辞めてやる。カッシル、俺の仲間になれ。」


若き騎士団長に一つの提案を投げかける。

この偏狭な考えの女を利用しない手はない。

ダード達は奈落を守るために戦っているのだろうが、グレコはアイラ、ライラ両名を殺すために戦っている。

サイラス騎士団を潰さずとも、味方についてくれるというならばそれに越したことはないのだ。

例えそれが奈落を裏切ることになろうとも。


「私は……民を守りたいだけだ。そのためにはお前に限らず奈落の悪人は皆裁くつもりだ。それでも、いいのか。」

「構わないさ。俺が所属してる『バルトラ』もそうだが、奈落にはお前の守るべき民を食い物にしてる奴らが山のようにいる。そいつらのことは好きに断罪してくれ。俺は倒すべき敵を倒すためだけに、お前は守るべき民を守るためだけに。たったそれだけの分かりやすいお話だ。」


冷静に考えれば、ここでカッシルがグレコと手を組む必要は皆無である。

民を守りたいのならば不安要素であるグレコごと奈落を壊滅させればいいし、ランベリーが悪人だったとしてもその時はまたランベリーを殺しに行けばいいだけだ。

それに現時点でサイラス騎士団はグレコ達に襲撃されている。

明確な被害がわかっていなくとも、目の前にグレコが侵入してきている時点で騎士団内部に被害者がいることは想定できるはず。

今の戦いにしても、劣勢なのは明らかにグレコだ。

【障壁】を張り続けてグレコを疲弊させればいつか必ずカッシルが勝利できる。


「俺と手を組めばバルトラの内部情報を教えてやれる。誰が悪で誰が正義なのか、お前にはわからない部分までだ。」


この騎士団長がもう少し歳をとっていれば間違いなくグレコの提案を一蹴できただろう。

戦闘能力だけと忠誠心だけで出世した報いという奴だ。

グレコはこの短い時間で少女の頭を徹底的に混乱させた。

尊敬していたベリオットが悪人だと告げ、悪人だと思っていたグレコの善行を教え、勇者への不信感まで植え付け。

若いカッシルがこれだけの情報を処理できるはずがないのである。


「私は……どうすればいい。」

「まず明日の奈落襲撃を一旦中止しろ。今の状態で奈落に来られても手助けできない。俺がバルトラの情報を大量に持ってきてやるから、その時にもう一度作戦を実行するんだ。その時は俺もお前らに寝返って暴れてやる。」


グレコとしても明日の奈落襲撃は中止して貰いたかった。

サイラス騎士団とバルトラが下手に潰し合って互いの戦力を削がれるようなことがあっては困る。

いずれはバルトラも潰すつもり、そうは言っても今すぐには無理な話だ。

ダードの戦闘力は実感しているし、今騎士達の邪魔が入ってこない辺り奴は作戦通りラストアを撃破している。

そんな相手と真っ向勝負など不可能に等しい上、バルトラにはヴィトもいる。

あの男は全てが未知数だ。

まずは情報を仕入れて準備をし、カッシルと共にバルトラを壊滅させる。

そして壊滅した組織のメンバーを片っ端から【掌握】し、グレコ専用の兵団を作り上げる。

その戦力で今度はサイラス騎士団を攻撃。

こうすることでアイラ、ライラ姉妹を守る盾を破壊しながら、大量の戦力を手中に収めることができるはずだ。


「わかった、今はお前に協力しよう。だがこれだけは約束しろ。決して民に危害を加えるな。」

「勿論だ。お前の協力者として、それぐらいの条件は呑んでやる。」


今のところは。

そう言いたくなるのを堪え、カッシルと握手を交わす。

今は【掌握】もしない、ただ一つの目的を果たすために遠回りをしてやろうじゃないか。

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