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25.全てを知る狂人

「誰も望んでないと思うんだよね♪僕とランちゃんが戦うのなんてさぁ。」


廊下に降り立ち、コルワはランベリーと対面する。

かつての仲間であり、今回の対戦相手。

目の前でこちらを睨みつけている男に向けて、ニヤニヤと笑いながら。


「コルワ……最早お前のことも看過できない。例えお前自身が腕を振るっていなくとも、お前の仲間達は俺の仲間や、協力者を大勢傷つけている。」


前回会った時のように友好的な雰囲気ではない。

ランベリーは明らかに激怒している。

まぁ無理もないといえば無理もないだろう、ベリオットもそうだが騎士達もそう。

現在進行形でコルワ達はランベリーの周囲の人間を殺している。


「けど今回のことはそっちが悪いんじゃないかなぁ。僕らを突然拘束して居場所まで奪おうとしてるのは、そっちじゃんか。僕らは生きるために戦ってるだけだよ。」

「ベリオットを殺したのも()()()()()なのか?あいつは別に誰も傷つけていない。ただ名誉を求めていただけじゃないか。」

「あーそっかランちゃんは知らないのかぁ。あの人、意外と酷いことしてたよ?そ・れ・に、僕らがベリオットおじいちゃんをどうにかしたっていう証拠はあるのかなぁ?」


雑にシラを切りつつ、ランベリーの頬を撫でる。

自分が倒れている間に賭場の招待状が無くなり、ベリオットが姿を消した。

そしてその賭場では毎日素性不明の遺体が生まれている。

これだけの情報があれば、ベリオットがどうなったかなど猿でも想像ができるはずだ。

だが、明確な証拠を握られていない以上咎められる筋合いはない。


「黙れ……。黙れこの外道が!」


かつてないほどにランベリーが激昂し、真横にいたコルワの頭を吹き飛ばす。

脱獄の際の比ではない。

仲間を失い、二度も退けられ、ランベリーは我慢を迎えていた。

ゆっくりとコルワの顔面が再生されていき、再び笑みを浮かべた。


「全くこんなに可愛い顔面を吹き飛ばすなんて酷いなぁ♪仕方ない、僕が慰めてあげるよ!」


コルワがランベリーに蹴りを入れる。

しかし相手は【無視】とかいうチートスキル持ちだ。

蹴りはランベリーのお腹に命中したものの、攻撃した感覚は全く味わえなかった。


「自分のお腹の硬度を【無視】してゼリーみたいな柔らかさにしたのかぁ。本当、不意打ちされない限りは無敵ってずるいよねぇ。」

「お前は不意打ちされても無敵じゃないか。俺からすれば、羨ましい限りだよ。」


ランベリーは一切止まることなくコルワを殴り続けてくる。

砦の中ということもありいつもの距離を【無視】した斬撃は使えない。

だがステゴロであっても最強なのが、勇者たる証である。

自分にかかる重力を【無視】して機動力を限界まで向上させ、攻撃の瞬間だけ重力を受け入れる代わりに空気抵抗を無視する。

自身のスキルの活用度という点においても、ランベリーは一線級だ。


「あーもう……。数秒の間に何回殺す気なの……。切断されてるならともかく木っ端微塵にされたんじゃ何も出来ないよ。やめやめ!仲良くお話ししよ♪僕は諦めが早いのが長所なんだから!」

「そんなこと、出来るわけないだろ。」


早々に戦闘を諦めたコルワを許してくれるわけもなく、ランベリーは引き続き格闘戦を仕掛けてくる。

ただひたすらに攻撃を与え続けることで、コルワの再生力を限界まで使わせる算段なのだろう。

圧倒的戦闘力を持つ人間にだけ許されたコルワの攻略法である。


「全くグレコと同じで容赦ないんだから……。じゃあこれならどう?僕が有益な情報を教えてあげるよ。グレコの秘密、知りたくない?」

「グレコの秘密……?」


コルワの提案を聞き、ランベリーの動きがついに止まる。

未だ顔は怒りに満ちたままだが、流石にこの提案は聞き逃せなかったようだ。


「そ、寝る時一ミリも動かないとかそんな話じゃないよ。グレコのスキルと過去に大きく関係ある話。ランちゃんはさ、グレコと幼馴染なんだよね?」

「あぁ……。あいつと俺は同じ村で生まれ、共に成長した孤児仲間だ。」


サイラスの辺境にある小さな村。

そこで生まれたグレコとランベリーは、悲惨な幼少期を過ごした。

当時アイラとライラの祖父にあたる人物が王座についていたサイラス国は、典型的な貴族国家だった。

中央の貴族や王族だけが金を持ち、グレコ達のような貧しい人々には一切の支援をしない。

そんな情勢の中、二人は地面を這いずって生活していたのである。


「じゃあさ、最後にグレコと幼少期の思い出話をしたのはいつ?」

「思い出話?いや、あいつは昔のことを話したがらない。俺が話を振っても覚えていないと言うばかりで……。」

「それ、照れ隠しやはぐらかしじゃないんだよ。グレコは本当に過去のことを覚えてない。ランちゃんと出会ったことも、何なら僕以外の仲間との出会いもね♪」


コルワはそう告げ、自分の胸を叩く。


「下手に疑われないようにこれまで起こったことは知識として覚えているんだろうけどね。ベリオットのおじいちゃんに剣を教えて貰った、とかランベリーと幼馴染である、とかそういう断片的な情報だけだよ。少なくとも思い出話に花を咲かせられる程、グレコの頭には記憶が残ってない。」

「確かに……前にあいつに頼まれて俺の日記を見せたことがある。『旅の思い出を振り返っておきたい』とか言っていたが……。あれは魔族の拠点を攻撃した時だったか。」

「記憶の確認だろうね♪グレコ自身は日記をつけるほどマメな性格じゃないから。」


もう完全にランベリーに戦闘の意思はなく、コルワの話に耳を傾ける体勢だ。

コルワにしてもここから騙し討ちで反撃するつもりなどない。

ランベリーに有益な情報を提供することで見逃して貰い、グレコには善戦したが逃げられたと報告する。

それが最も効率的であり、最もコルワが楽しめる方法だ。


「何でグレコは記憶を失ったんだ。あいつが頭を怪我したことなんて無かったはずだが……。」

「まぁまぁその話をする前に、クイズをしようよ。ちゃーらん♪グレコが【掌握】で敵を操作し始めたのはいつからでしょう!」


グレコの【掌握】は元々ただの索敵スキルである。

敵の位置や周りの構造を察知し、罠や伏兵がいれば報告する。

当初はそうした非戦闘員としてパーティに加わっていた。

だがしかし、ある日を境にグレコは敵の操作を覚えた。

それは勇者パーティにいる人間からすれば周知の事実だ。


「初めて敵を操作した時、そうだ丁度その魔族の拠点を襲撃した時だ。……まさか記憶の方と関係があるのか。」

「せいかーい♪グレコは自然とああいう性格になったんじゃない。グレコは、魔族に魅入られてあの力を手にしたんだよ。記憶と引き換えにね♪」


淡々と告げられていく真実に、ランベリーは硬直する。


魔族。


人類の仇敵であり数多の人間を傷つけてきた存在。

欲望のままに力を振るい、人を殺してその死体を弄ぶ。

そんな許されざる存在に魅入られた。

コルワの話によって溢れた感情を押し殺すように、ランベリーは壁を叩いた。


「それは……グレコの意思なのか。あいつの意思で魔族の力を借りたのか。」

「さぁーどうだろうねぇ。そこはグレコのみ知るところじゃないかなぁ♪魔族の方はグレコに力を与えて遊びたかっただけだろうけど。」


身につけたボンテージスーツを弄りつつ、軽く答える。

ランベリーの脳は既に理解を超えていた。

グレコに対してどういう感情を向ければいいのかわからない。

ただ拳に力を込め深く息を吐く。


「今日のところは、俺も退かせてもらう。お前の言うことが真実かどうか確かめることが今は何よりも重要だ。だが最後に教えてくれ。コルワ、お前は何故そんなことを知っている。」

「ん〜!そうだなぁ、同じ穴のムジナだから。とでも言っておこうかな♪」


砦を後にしようとするランベリーに対し、コルワはウインクをする。

何もランベリーに全てを話してやる必要はない。

ただ相手を怒らせ、状況を複雑にしたいだけ。

たったそれだけがコルワの行動理由である。

部屋の中にコルワだけが残り、横の部屋から聞こえてくる戦闘音に耳を傾ける。


「さてさて、話題の人はどうなってるんだろうねぇ!あー楽しくなってきたよ!」

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