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24.かつての師

「できる限り距離を取って戦え!あの老人の間合いに入ったら瞬時に倒されるぞ!うっ!」

「全く、あたしもいることを忘れるな。」


周囲に指示を出していた騎士をセドナが撃ち抜く。

近距離のダードと中遠距離のセドナ。

即席のパーティではあるが中々に相性のいい組み合わせだ。

例え自分が囲まれても、セドナの【放出】で簡単にカバーしてもらえる。

ダードはグレコの采配に感謝しつつ、騎士を薙ぎ倒していく。


「くっ、何だこの老人は!我々では相手ができん!ラストア隊長はまだか!」

「もう直ぐ来るはずだが……。何とか持ち堪えるぞ!」


騎士達が大声で会話をする。

全く目の前に敵がいるというのに、内部の事情を叫ぶなど。

弱腰な姿勢といい騎士としてあるまじき醜態だ。


「セドナ様。直に本命がやって参ります。私がそちらの相手はします故、他はお任せしますぞ。」

「あぁ!あたしだって鍛錬したんだ、任せろ!」


グレコ達がダード攻略に躍起になっていた間。

セドナは戦闘の基礎を学んでいた。

周囲の空気や自分が喰らった攻撃を弾として射出する【放出】は、多対一の戦闘に限りなく向いている。

そのことをダードから教えられ、集団戦における位置取りや敵の利用まであらゆる知識を仕込まれた。

今のセドナにとって、数十人の騎士を相手にすることなど、何の苦でもない。


「お前達落ち着け!総員自分の周囲にいる騎士と連携し常に死角を補い合うんだ!私が来たからには狼狽えることは許さん!騎士の誇りにかけて、守り抜け!」


砦の奥から一際大きな男が現れたことで、騎士達の間に統率が戻る。


サイラス騎士団治安維持隊隊長ラストア・フーウェン。


凛然たる騎士が戦場に加わり、剣を振るう。

しかし、その勇猛な動きはダードを見た瞬間に固まった。


「あなたはもしや……ダード団長!?何故こんな所に!」

「話には聞いておりましたが、随分と大きくなりましたな、ラストア。まぁ少々冷静さを欠くところだけは、昔のままのようですが。」


一瞬の隙を突き、ダードがラストアに手刀を入れる。

その異様な会話を聞き、セドナは質問をせずにいられなかった。


「団長って……ダードは一体何者なんだ?」

「なに、昔この騎士団で働いていたことがあるというだけですよ。それより、戦闘に集中してくだされ。私も彼との戦いに注力しますので。」


簡潔に解を返し、ラストアとの戦いを始める。

手刀一本で倒せるほど柔な相手ではない。

それぐらい、ダードは理解している。

目の前にいる男へ基礎的な訓練をつけたのは、他でもないダード自身だ。


「グレコを投獄した際、老人が力を貸したというのは聞いておりましたが……。何故サイラス騎士団元騎士団長ともあろうお方がこのようなことをしているのですか!そもそも、何故勝手に職をお辞めになられたのです!」

「王よりも忠誠を誓うべき方に出会った。ただそれだけでございます。それより、私は手加減致しませぬからな。ラストアも本気を出すべきですぞ。」

「くっ……。あの化け狸のどこがそんなに良かったというのですか!いいでしょう、あの頃は新米でしたが今や騎士団の中核を担わせて頂いているのです。役職分の仕事は、して見せましょう!」



セドナや他の騎士から距離を取り、二人の戦いは激化する。

ダードの視認不能な速度での手刀を完璧に防ぐラストア。

かつて師弟だった二人は、今本気で殺意を交わしている。

ラストアは力に任せてダードを押し返すが、肝心の反撃は一太刀も当たることはなく、ダードは無傷のまま再びラストアへ向かっていく。

その動きを確認し、ラストアは小さく呟いた。


「【固定】、解除。」


力強い声と共に、ダードの服が裂け血が空を舞う。

ダードは確かに全ての攻撃を避けたはずである。

だが、ラストアにおいては目先の斬撃など当たらなくとも問題がない。


「斬撃を空中に【固定】して解除……。そういえばそんな力でしたな。全くここまで記憶力が落ちているとは、寄る年波には敵いません。」

「スキルも持たない元団長に負けるほど、生半可な鍛え方はしておりません。このラストア、師を斬る覚悟で剣を振らせて頂きます。」


そう言ってラストアが再び剣を振る。


【固定】


自身が放った攻撃を任意のタイミングでその場に【固定】し、解除する。

このスキルがラストアの剣術と合わさった時、それは幾重にも重なる刃にもなれば視認不能な罠にもなる。

【固定】してある攻撃を上手く管理することさえ出来れば、攻めにも守りにも使える万能型のスキル。

だが、ダードの戦闘能力はそれを遥かに凌駕していた。


「一度思い出せばそうは忘れません。要は全て避ければいいのです。」

「くっ、解除!」


急に距離を詰めてきたダードに反応して、ラストアが全ての剣戟の【固定】を解除する。

しかしそれらは全て文字通り空を斬り、ダードの強烈な蹴りが頭に命中した。


「くっ、あれほどの斬撃の位置を全て予想したというのか……。」

「あなたのスキルは数こそ無制限に【固定】できますが、解除は全て同時にしか出来ないのでしたな。そのため自分で自分の斬撃を喰らわないように、無意識下で安全地帯を作っているのです。斬撃の位置を予想せずともそちらを予想すればおのずと攻撃は避けられるのですよ。」


ダードがそっと微笑み、ラストアへ攻撃を畳み掛ける。

ラストアも必死で剣を振るっているが、【固定】なしのシンプルな剣術など無意味。

どれほど強力なスキルを持っていようと、圧倒的な経験の前には児戯に過ぎない。

ダードが勝利を確信し蹴りを辞めた瞬間、彼の体から再び血が吹き出した。


「……どうやら、私の教えをしっかりと覚えていたようですな。」

「えぇ私もあなたからは色々なことを学んでおりますからな。無意識下の行動を制御してこその強さ、でしたか。骨身に染みるお言葉です。」


ラストアが肩を押さえながら立ち上がる。

ダードの攻撃を防ぎながら新たな斬撃を【固定】していたのだろう。

今度は位置を予測されないように、己の腕諸共ダードを切り裂けるように。


「左腕程度、剣を振るう上では問題になりません。それぐらいの覚悟で望まねば、貴方には勝てないですからな。齢七十過ぎの老人と私、同じ量の血を流せば、先に倒れるのはどちらでしょうな。」


両者の体から止めどなく血が流れ、砦の石造の床が赤く染まっていく。

片や愛すべき国のため、片や信じるべき主人の為。

守るべきものは違えど、欠ける命の重さは同じである。

ダードはラストアから距離を取り、セドナに声をかける。


「セドナ様、どうやら少し厳しそうです。お力を貸して頂けますか。」

「ダード!?どうしたんだその血!」

「そちらも返り血で酷い有様ではないですか。それにこちらも大したことは御座いません。【放出】をこちらに適当に打ち続けて頂きたいのです。それだけで構いません。」


たったそれだけ告げ、ダードは再びラストアに向かって行く。

指示通りセドナの【放出】によって射出された空気塊が無造作に飛来する。


「仲間からの支援放火ですか。随分とギリギリのようですが、頼む相手は考えた方が宜しいですぞ。こんな乱雑な攻撃、目を閉じていても避けられます。」


ラストアが剣を振りながら空気塊を回避していく。

セドナにあるのは知識だけだ、【放出】の正確なコントロールを鍛える段階までは到達していない。

この攻撃でも並の騎士程度は倒せるだろうが、ラストア程の相手を殺そうというにはあまりに大雑把すぎる。

だが、ダードの目的はそこではなかった。


再び距離を詰めてきたダードに対し、ラストアは【固定】を解除する。

最悪右腕だけ動けばよい、その覚悟で配置した斬撃を察知することはダードであっても出来ないはずだ。


「ラストア、私はこうも言っていましたぞ。ご立派なスキルを持つものは、上手くそれを活用しろと。例えそれが、他人のスキルであってもです。」


ダードは全ての斬撃を回避し、今度こそラストアの鼻を打ち砕く。

大きな音ともにラストアが地に伏し、同時に騎士達との決着をつけたセドナが駆け寄ってきた。


「今の!どうやって避けたんだ!?途中から見ていたけれど全くわからなかった!」

「セドナ様のスキルを利用させて頂いたのです。通常、空中で固定された斬撃に攻撃を当ててもその場で相殺されるのですが、今回は違いました。セドナ様の【放出】は周囲の空気を固体にして放つスキル、周りに血が舞っていればそれすらも固体化されるのです。」


ダードが話しかけた時、セドナの体は騎士達の返り血で赤く染まっていた。

空気の弾丸で騎士達を打ち抜きまくっている都合上、彼女の周りには大量の返り血が舞っている。

そのため彼女から放たれる空気塊も血が混じり、それが【固定】された斬撃に当たるとその場で血が弾ける。

空中で一人でに舞う血液。

その位置を観察することで、ダードは視認不能な斬撃の位置を完璧に把握することに成功したのである。


「さて、こちらは片付きましたがグレコ様達は大丈夫でしょうか。」

「大丈夫!コルワはともかく主は強い!負けるはずがない!」


盲信的なセドナの瞳が輝いた時、グレコ達の目は光を失い始めていた。

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