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22.自分のスキルを見つめると言うこと

「作戦会議はお済みですかな。では、行きますぞ。」


ダードがそれだけ言い、こちらに向かってくる。

不得意な剣を握っているとはいえ流石の所作だ。

その剣を右に振るのか左に振るのか、とんと見当がつかない。


「見てわからないなら【掌握】すればいいんだよな!」


グレコは右手を前に出し、空気を【掌握】する。

これまでにやったことはない。

だがこれぐらい実験してみなければこの老人には勝てないことも間違いがない。


「空気の揺らぎ……右からか!」

「ふむ、正解ですぞグレコ様。貴方様のスキルは貴方の思うよりずっと幅が広いものなのです。」


指を舐めて突き立てると、風がどちらから吹いているのかわかる。

要はあれと同じことを、スキルを使って的確にやってみせるだけ。

あの薄らとした感覚が、【掌握】によって極めて明瞭になっていく。

ダードが剣を振ってくるのは右。

空気の動きから全てを察知し、完璧なガードに成功した。

先程のような運任せでも、いつものような捨て身(主にコルワ)のガードでもない。


「グレコ様はせっかく強力なスキルを持っておいでですのに、その使い方があまりにも少ないように存じます。何も人や物を把握するだけが【掌握】ではございません。空間全てを【掌握】してこその力ですぞ。」

「教えてくれて感謝するぞダード。これでまともに戦える。」


グレコはある種の余裕を持ちながら剣を振るう。

これまでになくいい勝負だ。

グレコはこれまで、【掌握】のメイン性能は何かを操作することだと思っていた。

だがしかし、本来の【掌握】はそんなスキルでない。

場の全てを見通し、情報的優位を得る。

それこそが本質なのだ。


「しかし、それだけでは勝てませんぞ。あくまでもまともに剣戟を振るうことが出来るようになっただけ。この程度で体に触れられるほど、私は弱くありません。」


ダードのいうことも最もである。

グレコの剣術はベリオットから適当に習った程度。

対してダードの剣術は、恐らく本業では無いというのに凄まじく速い。

このまま斬り合えば永遠に触れないどころか、いつか押し負ける。

グレコが次の策を考え始めた瞬間、ダードの後方から声が上がった。


「おじいちゃん!覚悟ぉぉぉ!!」

「また後ろからの攻撃ですか。いくら【不死】だからと言って、少々一辺倒過ぎますぞ。」


掴みかかったコルワの体が無惨に散らばる。

訓練を始めるにあたり、グレコ達のスキルはダードに話してある。

コルワが【不死】であることは百も承知、一切の手加減なくコルワの体が八つ裂きになった。

しかし、そこからがいつもと違った。


「ふふふ……僕の体は、まだ死んでないよ!」

「くっ!」


散らばったコルワの四肢が再び活力を取り戻す。

首だけの状態になった場合、普段なら他の部位は消失し頭部から生え戻るはずだ。

だがしかし、今回は散らばった四肢そのものが動き出し、ダードを拘束している。


「グレコ!今だよ今!」

「たまには役に立つじゃないかお前も!」


動きを止めたダードにグレコが手を伸ばす。

あれだけバラバラになったコルワの体はそう簡単に戻らない。

これが正真正銘最後のチャンスだ。

そう思って手を伸ばしたが、ダードはその程度で突破できる相手でもない。


「グレコ様に傷は与えたくありませんでしたが、仕方ありませんな。」


ダードがグレコの手首を掴み、細い骨を叩き折る。

後一週間しか猶予がないというのに今怪我を負わせるなど。

本気にも程がある。

手首を折られてしまえばこちらの手で触れるのは無理、反対の手を伸ばしても恐らくまた折られるだけ。

文字通り手詰まりとなったグレコの脳裏に、一つの情景が思い浮かぶ。

一度バラバラになった後、再び動き始めたコルワの四肢。

あれと同じことを実現できれば。


「要は、自分で自分を格下と思えばいいんだろ!」


折れた右手を左手で掴み己の体を【掌握】する。

凝り固まった自尊心。

自分こそが最強であり、己を蔑む奴は徹底的に叩きのめす。

それがグレコの信条だが、今ダードと向き合っている己は明確に弱者だ。

弱者の体ならば、いくらでも操作できる。


ダード・ラッツェル

身長:169 体重:69kg

年齢:71 スキル:なし


「スキルなし?本気で言ってるのかよ……?」

「ふふふっ、そうです。私はあくまで身一つですよ。だからこそ、ご立派なスキルをお持ちの方はそれを活用して頂かねば。」


動かなくなった右手を【掌握】で無理矢理動かし、ダードに触れる。

突きつけられた事実に驚愕した瞬間、グレコの体は床に転がった。




「いやー♪長かった!長かったよ本当に!」


いつもの自室の中で目を覚ますと、奥の机でコルワがアイスに舌鼓を打つのが目に入る。

どうやら試練達成の快感と、折れた腕を無理に動かした激痛で意識を失ったらしい。

グレコは現状を理解し、体を起こす。


「おい、コルワ。鍛錬はどうなったんだ。」

「お、起きたんだねマイダーリン♪ダーリンが倒れちゃったし試練も達成したから今日はお開き。明日からはセドナちゃんと一緒に基礎鍛錬しつつ騎士団の対策を練るってよ!」


ふざけた呼び方だけが癪に触るが、どうやら全てつつがなくいったようだ。

グレコはほっと胸を撫で下ろし、普段の邪悪な表情の中に純粋な笑みを浮かべる。


「全ては僕のお陰だよ!【不死】の瞬間再生を捨て、死んだ状態で動いてみる!逆転の発想!コペルニクス的転換!大天才コルワちゃん!」

「わかったわかった。いいからさっさとそれを食べ終えろ。一足先に作戦会議をするぞ。」


実際コルワの発想には驚かされた。

【不死】というものは何も超耐久力を持った最強の盾ではない、死という最悪の結末を無視して攻撃できる最強の矛でもあったのだ。

しかしそんな褒め言葉をグレコがわざわざ言う訳もなく、淡々と次の課題へ取り組んでいく。


「今回の敵は主に四つ。若き騎士団長カッシル、勇猛の騎士ラストア、有象無象の兵士共、そしてほぼ確実に割り込んでくるランベリー。バルトラからの支援がない以上、こいつら全員を俺、コルワ、セドナ、ダードの四人で相手する必要がある。まして今回は奴らの本部に突撃する、逃げたり、戦わずに処理したりするのは不可能だ。」

「うーん。全く厄介な話だねぇ。大体ランちゃんがしつこすぎるんだよ。あれは勇者じゃなくてただのメンヘラだね!」


コルワがアイスを一飲みし、机を叩く。

実際問題、一番厄介なのは間違いなくランベリーだ。

カッシル、ラストア両名は情報が無さすぎるが、それは相手も同じこと。

上手く作戦を練れば勝てない相手ではないはず。

兵士共も言うまでもないが、ランベリーだけは違う。

奴は【不死】も【掌握】も細かいところまで熟知している。

まして奴は先日騙し討ちで行動不能にしている上、仲間であるベリオットを葬った。

怒りに任せて【無視】を使われては、まず間違いなく勝利できない。


「よし、ランちゃんはダードおじいちゃんに任せよう!グレコがカッシル?ちゃんで、セドナちゃんがラストアのおじさん!そして僕が兵士!完璧な作戦だね!」

「お前は働きたくないだけだろ。現実問題、セドナは戦闘経験が低すぎる。あいつの仕事が兵士の処理。これだけは確定だ。他は恐らく成り行きだな。お前が騎士団長を討伐することも考えておけ。」

「えっ、無理無理!絶対無理!十七歳で騎士団長になったんでしょ?間違いなく滅茶苦茶強いじゃん!」


相変わらずコルワは弱気な奴だ。

人が苦しんでいる様を見るのは大好きだというのに、自分が苦しむのは嫌い。

こいつが望んでいるのは復讐でも何でもなく、ただ狂乱を楽しみたい、たったそれだけの話だ。

目的意識のない奴に、覚悟は伴わない。


「もういっそ逃げちゃわない?僕らが何もしなくても騎士団とバルトラで潰しあうんだしさ、その隙にちゃちゃっとアイラちゃん達をボコしちゃえばいいんだよ!相手は女なんだから、囲んで殴れば勝てるって!」

「性差別の塊みたいな意見だな……。そのやり方だとあの姉妹を倒した後に騎士団に報復される。それに殴るだけじゃ甘すぎる。あの仲良し姉妹は泣き叫ぶ妹の前で姉を集団で犯すぐらいしてやらないと面白くない。相手は一国の姫君だぞ?死に様はそれぐらい惨めな方がふさわしい。」

「うわぁ……流石に酷いよグレコ……。僕が性差別の塊ならグレコはインモラルの具現化だね。まぁそこが好きで着いてきてるんだけどさぁ。」


コルワが珍しくドン引きし、グレコから距離を取る。

サイラス王国第一皇女ライラ・サイラスとサイラス王国第二皇女アイラ・サイラス。

仲睦まじい二人は、ベリオットのように付けいる隙を抱えていない。

国民から信頼される聡明な皇女姉妹。

あの二人に復讐するとなればより一層の準備が必要だ。

その最初の一歩としても、今回の任務は絶対に達成しなければならない。


「あと一週間、今日身につけた技術を習熟すると共に騎士団の情報を集めるぞ。できる限り勝率を上げて叩き潰す。そのスタンスを崩すつもりは無い。」

「はいはい、頑張りますよーっと。じゃ、おやすみ〜♪」


コルワがベッドに寝転がり、こちらにハラハラと手を振る。

明日からの一週間、無駄に使える時間はない。

全てはただ復讐のためだけに。

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