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21.味方最大の脅威ver2

「おいコルワ!さっさと体再生させろ!いつまで生首で転がってるんだ!」

「無理無理!もう毛の一本も再生できないよ!」


コルワの血で赤く染まったグレコと、もはや人の形を保っていないコルワ。

共に満身創痍の状態で、両者はダードと対面していた。


「どうやらもう続けることは難しそうですな。本日は終わりにいたしましょう。」

「やった!終わった!ゆっくり眠れるんだね!ぶべらっ!」

「お前がご主人の役に立たないからだぞ!しっかり働け!」


ダードから鍛錬終了の声がかかり、コルワが歓喜の声を挙げる。

しかしそんなことが許されることもなく、セドナによって追い討ちの一発が入った。


「いやいや悪いのはコルワ様だけではないですぞ。グレコ様も何一つ進歩しておりません。相手に触れなければスキルを発動できない。この条件を上手く克服していただかなければ。」


ダードに稽古をつけてもらうことになってから一週間。

グレコ達に課された課題はたった一つ。


『協力してダードを【掌握】する』


何とかしてダードに触れ、【掌握】でダードのステータスを見ればいいだけの簡単なミッション。

最初はそう思っていたのだが。

この課題の進捗は未だゼロと言っても過言ではない。


「そうは言っても強すぎるだろ……。これまで戦ってきたやつらの中でもトップクラスな気がするんだが。」

「そんなことはございません。戦闘において最も重要なのは状況。私はそれを上手く使っているだけですから。」


ダードはそう言って謙遜するが、グレコからすればランベリーよりもずっと手強く感じる相手である。

派手な攻撃こそしてこないものの、体を素早く動かしこちらの攻撃を全て回避。

そしてこちらが態勢を崩したりしようものならば瞬時に致命傷を与えてくる。

お陰で盾代わりに使っているコルワはボロボロ、グレコの方も疲労困憊だ。


「いいですか、私は魔物でもなんでもありません。身体的な限界を持った一人の人間でございます。よく観察し、連帯すること。それこそが勝利への道筋ですぞ。では、また明日。」


ダードが頭を下げ、その場から去っていく。

その凛とした後ろ姿を見つめつつ、グレコ達三人も宿へと戻ることにした。




「さて、作戦会議するぞ。」

「うぇ……もういいよ、今日は休むべきだって……。」

「黙れ!ご主人の命令に従え!」


セドナが生首だけになったコルワを机の上に置き、作戦会議を始める。

今回の訓練において、セドナはグレコ達と同じ課題を与えれられていない。

スキル持ちなだけで所詮ただの孤児であるセドナに課されているのはシンプルな戦闘訓練。

本来ならばこの話し合いに参加させる意味はないのだが、コルワのお目付役として毎回参加してもらっている。


「まず何よりもあの爺さんのスキルがわからないのが問題だ。大体のスキルには限界ってものが存在する。それをついてやれば触るぐらいわけ無いはずだが、とんと検討が付かない。」

「移動速度が速いし、加速系のスキルなんじゃないかなぁ。移動する瞬間を狙ってみる?」

「いや恐らくそれは間違いだ。あのぐらいの移動速度なら鍛錬を積んだ奴なら実現可能。スキルは何か別のものな可能性が高い。」


グレコの【掌握】は触らなければ発動できないし、操作するには格下の相手でなくてはならない。

コルワの【不死】も短い時間で体を再生させ続けると次第に再生が困難になる。

セドナの【放出】にしても使いすぎると威力が落ちるそうだし、基本的にスキルには限界が存在する。

しかし、ダードには一切そうしたものが見られない。

そもそも明確にスキルを使っているところを見たことがないが、これだけ何度も戦っていれば絶対にどこかで限界が来ているはずだ。


「そもそもあたしはコルワが無能すぎるのが良くないと思う。こいつは盾にしかならないし、盾としてもすぐに首だけになって使えなくなる。こいつがもっと働けばご主人も楽になるはずだ!」

「いやいやこれでも頑張ってる方だよ!原因はグレコだね!グレコがおじいちゃんにタッチすれば解決するんだから!もっと頑張ってよ!」

「俺の能力は基本的に他人に依存してるんだ、あんな何もない場所で戦えるはずもない。」


この一週間ずっと繰り返している問答が再び始まる。

グレコが成果を出せていない理由は戦場にある。

グレコの戦い方は【掌握】を使って何かを操作し、戦闘に利用する。

そうしたスタイルであるから、ベリオットと戦った際の闘技場や、今回ダードと戦っている広場のように【掌握】するものがない場所だと剣術一本で戦うしかなくなるのである。

はっきり言って打つ手がない。

グレコ達は揃って頭を抱え、深いため息をつく。


「取り敢えず、明日は色々と変わったことを試してみよう。今できることは試してみるしかない。」


グレコはそれだけを伝え、布団に入る。




「皆様、事情が変わりました。皆様には今日で今の課題を終えて頂きます。」


翌日、いつものように訓練のための広場へと出向くと、ダードから予想外の言葉がかけられた。


「事情が変わったってどういうことだよ。まだ三週間ほど時間があるはずだろ。」

「えぇ、当初はその予定でした。ですが先ほど連絡が入りまして、サイラス騎士団が一週間後に奈落の制圧に乗り出すそうでございます。諸々の準備も考えれば皆様には今日のうちに課題を達成して頂かなくてはなりません。」

「奈落の制圧?ここは国から無視された半合法の場所じゃなかったのか。何で急にそんなことに。」

「サイラス騎士団現団長、カッシル・ハルトマンの命令だそうです。恐らく先日の投獄騒ぎで奈落のことが彼女の耳に入ったのかと。現団長は若干十七歳の女傑。奈落のことを放置していたのではなくこれまで本当に知らなかったのでしょう。」


十七歳の女が騎士団長。

耳を疑いたくなるような話だが、これは相当に困った話である。

サイラス騎士団が奈落に攻め込んでくる前にことを起こさねばならないなると、本当に時間がない。

ダードの課題を今日一日で達成するという無理難題にしてもそうだが、騎士団制圧に向けて姑息な準備をすることも敵わなくなってしまった。

ベリオットの時のように準備に準備を重ねた作戦は行えず、ある程度正面からサイラス騎士団を潰さねばならないことになる。


「そういうことですので、今日は私の方も本気で戦わせて頂きます。ご覚悟を。」


そう言ってダードが剣を抜く。

この一週間、ずっと素手で戦っていた男が遂に剣を抜いたのだ。

どうやら本当に、本気の試合が始まるらしい。

グレコも覚悟を決め、一旦距離を取る。


「コルワ!さっさと俺の盾になれ!死ぬぞ!」

「自分が死ぬだけでしょ!やだね!今日の僕は盾にはならないよ!」


グレコの呼びかけを無視し、コルワが遠ざかっていく。

ただでさえダードが本気モードだというのに、メイン盾までいなくなられては不味い。

グレコは必死でダードの攻撃をガードし、体全身でその衝撃を受け止める。

剣という武器を使っているため、ダードの動きは普段より少し遅い。

昨日までとは違って攻撃の予備動作が見えるし、普段ならコルワを犠牲にするしかなかった攻撃を自力で防ぐことにも成功した。


「本気っていうのはどうやら嘘みたいだな……。何だかんだ優しい教官様だ!」

「流石に時間がありませんが故。こちらからのヒント代わりの手加減でございます。」


正直言って有難い限りだ。

この速度感の戦闘であれば考える時間も、姑息な手段を取る時間も生まれる。

何とかしてダードの体に触れなければ。

そう判断し、剣を持っていない方の手をダードに伸ばす。


「間合いを詰めたからにはそれぐらい警戒しておりますよ。勿論、後ろのコルワ様のことも。」

「ぐひゃぁ!何!?今の動き!」


グレコの手を華麗に交わし、背後に迫っていたコルワを一刀両断する。

ダードの人智を超えた動きに目を奪われている間に、グレコの腹にも蹴りが入り軽く吹き飛ばされる。

どうやら手加減は剣を握ったという一点のみのようだ。


「人間の体というのは自分が思っているより動くものでございます。怪我を警戒したり急所を守ったり、そうした無意識下の動きを制御してこそ、強者足り得るのですぞ。」


二人して床に転がるグレコとコルワ。

淡々と体を捻るダードを見上げ、共に息をつく。


「おいコルワ、お前を盾にするのは辞めてやる。だから命懸けであいつを拘束しろ。そこまでいったら俺が何としてもあいつに触れてやる。」

「全く盾の次は拘束具って……ほんと人使いが荒いよね!」


コルワが勢いよくダードに向かっていき、グレコもその背中を見ながら立ち上がる。

その頭には、一つの妙案が思い浮かんでいた。

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