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20.計画と罪滅ぼし

「ふぅ……、流石に骨が折れたな。なぁ、グレコ。」


奈落に戻り、グレコはヴィトに呼び出しを受けていた。

妙な緊張感。

普段人を馬鹿にしてばかりのグレコからすれば、誰かに優位に立たれるということ自体珍しい。

それに力押しでどうこうされたのではない、明確にヴィトに救われている。


「今回は助かった……。正直言ってお前が来なければ俺達はこんなに早く戻ってこれなかったかもしれない。」

「いやはやほんとに!ありがとね〜ジ、おじさん♪」


出来る限りシンプルに感謝の言葉を述べてみる。

コルワは明らかにジジイと呼びかけていたが、グレコにしてみればもうヴィトをそんな呼び方することはできなくなってしまった。

ラストアとの激闘にどうケリをつけてきたのかもそうだが、ヴィトには謎が多すぎる。

この男のスキルの件を筆頭とした様々な謎を解決するか、【掌握】で全てをつまびらかにするまで一旦敬意を払っておくのが最善策だ。

グレコはそう判断し、頭を下げる。


「まぁまぁ気にすんじゃねぇよ。俺だってお前を助ける理由があるから助けに来たんだ。グレコ、お前が賭場で好き勝手やってることは知ってる。その結果サイラス騎士団にとっ捕まったこともだ。はっきり言って、お前は暴れすぎだ。」


不味い、やはりこういう展開になるのか。

ヴィトの言うことは実にもっともである。

グレコに課された任務はあくまでも賭場の発展。

一応その仕事も果たしているが、近頃は自分の目的の方を優先していた。

ベリオットを叩きのめすために奴隷であるセドナを私物化し、闘技場の演目を決定したり。

そういったことばかりした挙句に騎士団に捕まった。

ここがまともな組織ならばグレコは処分されて然るべき人間だ。


「あーあ、そんなに暗い顔をしてんじゃねぇよ。いいか、俺はお前を執拗に咎める気はない。お前には一つ、罪滅ぼしがてら頼み事をしたいだけだ。」

「罪滅ぼし……?」

「あぁ、賭場の管理は俺やダードに任せていい。だからお前はサイラス騎士団を壊滅させて来てくれ。」


ヴィトの放った言葉に耳を疑い、グレコの思考が止まる。


「あの馬鹿共定期的に俺の配下を不当逮捕しやがるんだ。その度に解放させなきゃなんねぇし、いい加減に鬱陶しい。内部崩壊でも武力壊滅でもいいから、あいつらを無力化させてこい。」


サイラス騎士団の無効化。

グレコとしてもいずれはやろうとしていたことである。

ベリオットを殺した今、次に復讐するべきはサイラス姉妹だ。

あの二人を殺すということはこの国全体を敵に回すことであり、サイラス騎士団も例に漏れず戦う必要がある。

だが、それはあくまでもいずれの話だ。

急に壊滅させてこいと言われても、勝てる確率が未知数すぎる。

だが、断れる状況でもない。


「サイラス騎士団を襲ったりしても大丈夫なのかよ。あいつらは国家組織だろ。下手に攻撃したらうちの組織ごと叩きのめされるんじゃないのか。」

「まぁ平常時ならそうだろうな。だが今のあいつらにそんな力はない。考えてもみろ、元勇者の仲間である男を監視するのに兵士一人っておかしいと思わないかぁ?あいつらは最近不祥事続きでな、兵士の数が半分程度まで減少しているんだ。まともな戦力といえばラストアと騎士団長ぐらい。お前一人でも十分に崩せるし、例え全面戦争になったとしても最悪問題がない。まぁそうなった場合バルトラが半壊しかねないからな、出来る限りお前らだけで処理して欲しいってわけだ。」


サイラス騎士団の腐敗。

確かにそんな話はグレコもうっすらと聞いた覚えがある。

騎士団の元々の仕事は、領内の治安維持と侵入してくる魔物の討伐。

だが勇者達によって魔王が討伐されたことで、後者の仕事量は激減した。

騎士団の中には魔物を倒したいだけのものが多くいたことから、暇を持て余した兵士達が堕落し始めた。

グレコが知っているのはそこまでだが、恐らくその後に大規模な粛清が行われたのだろう。


「もちろん情報もなく突っ込めってわけじゃねぇ。騎士団長の方は大して知らねぇが、ラストアの方は旧知の仲だ。腹にある黒子の数まで教えてやれるぞ。」

「知りたくもない情報だな。教えるならスキルとかそういうのにしてくれ。ていうかそもそもどういう繋がりなんだ。」

「あいつとはそうだな、宿命のライバル、これが一番正しい関係だ。俺がこの街を作っていく中で何度も殺し合った。あいつの【固定】は相当に強力だぞ。まぁ詳しい性能は知らねぇがな。」


【固定】


名前を聞いた程度では効果の予想がつかないが、直接戦ったヴィトがこう言う辺り、戦っても効果がわかりにくいものなのだろう。

未知の騎士団長のこともあるし、やはり下調べは必須。

グレコは腹を括り、立ち上がる。


「いいぜ、サイラス騎士団壊滅の任務。俺に任せとけ。ただその代わり、ダードを俺に貸してくれ。あの爺さん相当な実力者だろ。あいつさえいれば仕事もしやすくなるはずだ。」

「あーまぁいいだろ。賭場の管理は俺らでやっておく。お前らは騎士団制圧に尽力してくれやぁ。」


話し合いを終え、グレコとコルワは部屋を後にした。




「いやー面倒な仕事を頼まれちゃったものだねぇ♪というか受け入れると思ってなかったや!」

「あの状況で断るのも無理な話だろうが。それに騎士団を破壊すればあの姉妹も殺しやすくなるし、バルトラでの地位も上がる。あまりにハードルが高いだけで、やる意味はかなりある仕事だ。」


グレコ達は自室に戻り、それぞれのベッドでくつろぎ始める。

相変わらずコルワと同室なのには腹が立つが、こういう話し合いをする際は便利なものだ。


「ただまぁ成功確率は五分だな。ラストアもそうだが騎士団長もいるそうだし、場合によってはランベリー達が出てくる可能性すらある。対してこっちの戦力は俺らとセドナ、それにダード……。ベリオットの時みたくこっちのフィールドに引きずり込むこともできないしな。相当骨が折れるぞ。」

「そう言うことなら、私が稽古をつけて差し上げましょう。」


普段【掌握】を発動させる右手をほぐしていると、自室の扉がゆっくりと開く。

その奥から姿を表す老人。

今回の仕事における最大の協力者である。


「うわぁ!乙女の寝室に勝手に入ってこないでよね!どうするのさ僕がグレコとイチャコラしてる現場だったら!」

「これはこれは申し訳ありません。ヴィト様からグレコ様に協力するよう指示を受けたもので。次回からは夜に訪ねるのは控えさせていただきます。」

「いや、この馬鹿の話を間に受けないでくれ。俺達はただ同室なだけだ、何もやましいことはない。」


誤解が生じている気がしたため、必死で訂正する。

コルワはあくまで自分に勝手についてきているだけの存在だ。

恋人はおろか友人だと思われることも腹立たしい。

それに何より本題はそこではない。

グレコは急いで話を戻す。


「それより、稽古をつけてくれるっていうのは本当かよ。」

「えぇ、ヴィト様の話によると騎士団襲撃はそこまで急ぎの話ではないそうですから。今から一ヶ月ほど、色々と鍛錬を行いましょう。無駄に長く生きておりませんが故、少しばかりはお役に立てるはずです。では、明日からよろしくお願いいたします。」


ダードが丁寧にお辞儀をして退出していく。

これはかなりいい提案だ。

グレコもコルワも能力こそ強力だが、戦闘の心得というものがない。

グレコは一応ベリオットから剣術の指南を受けているが、本職であるサイラス騎士団と渡り合えるかと言われればかなり怪しいところだ。

対してダードは間違いなく実力者。

世界最強の男であるランベリーを瞬時に気絶させるあの力量。

あれほどに強い人間から指導を受けられるとなれば、五分の勝率が八分程度には上がるはずである。


「いやーよかったねグレコ!これでこれからの激しい戦いを生き抜けるじゃん!激しい鍛錬、頑張ってね!」

「何言ってるんだ、お前も訓練するに決まってるだろ。俺と違ってお前は死ぬ以外能がないんだ、一人でも敵を倒せるようになれ。」

「え……やだやだ!やだよ!僕は苦労とか努力とか大嫌いなんだって!勘弁して!」


全力で抵抗し布団に引きこもるコルワを放置しつつ、グレコも眠りにつく。

次の復讐は少し遠のいてしまうことになるが、これも必要な過程。

そう理解してグレコは夜を迎えた。

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