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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第二部

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97/121

2-24

 ラウルにとって、エリアーノは祖国の仇。

 彼の敵を、自分も恐れるわけにはいかない。

「そうね。むしろ魔物の類なら、私の得意分野だわ」

 それでもこの怨念の中に、深い悲しみを感じるのはなぜだろう。

 彼女の正体は何なのか。

 そして、何を企んでいるのか。

 まだミラは彼女に対面したことはないが、顔を合わせたときこそ、すべての答えがわかるのかもしれない。


 魔物の数は多かったが、ミラの浄化魔法の影響で弱体化していたようで、ほとんど苦戦せずに倒すことができた。小型ドラゴンも、ミラの浄化魔法でトカゲのように小さくなった。ラウルが大剣であっさりと切り捨てる。

 休憩を挟みながら、王都の周囲を回って魔物退治をしていると、崩れかけた城門からこちらを伺う人影があった。

 どうやらロイダラス王国の騎士のようだ。

 生き残っている人達は皆、王城に籠っていたという話だったが、戦闘の音を聞きつけて、様子を見に来たのだろう。

「ジェイダー殿下」

 立派な鎧を着た騎士はジェイダーを知っていたようで、慌てた様子で彼のもとに走り寄り、膝をつく。

「よくぞ、ご無事で……」

 どうやら彼は、ジェイダーの父であるロイダラス国王の護衛騎士のようだ。

 意識のない国王を見捨てることができず、そのまま王城に残っていたのだろう。

 ロイダラス国王は魔物の襲撃後も、王城に逃げ込んだグリーソン公爵が守っていたが、まもなく息を引き取った。

「そうか。父はもう……」

 もう意識のない状態が長く続いていたから、覚悟はしていたのだろう。

 ジェイダーは祈りを捧げるように一瞬だけ目を閉じると、騎士に向き直った。

「グリーソン公爵は王城に?」

「はい。ですが、王城に立て籠もったのは取り残された人々を守るためです。けっして、反意を抱いているわけでは……」

「わかっている。公爵と話したいと思う」

 ジェイダーはそう答えたが、騎士は何か後ろめたい秘密を抱えているかのように、ずっと俯いていた。

 もしかしたらグリーソン公爵という人物は、あまり信用することができないかもしれない。

 騎士の先導で、王城に向かう。

 立ち並ぶ家は魔物によって破壊されていたが、さすがにあの町のように荒らされてはいない。

 そのグリーソン公爵が、きちんと統治しているようだ。

 王城の城門は固く閉ざされていたが、騎士が呼びかけるとゆっくりと開いた。騎士の後にジェイダーが続き、ミラも、兄とラウルに挟まれて、王城に足を踏み入れる。

 懐かしさを感じた。

 ミラはほとんど神殿で生活をしていたから、王城には数えるほどしか訪れたことはない。それでも、いずれここで暮らすだろうと思っていた場所である。追放されたあのときは、まさかこの場所に帰ることになるとは思わなかった。

 感慨深く王城を見渡しながら、公爵のもとに案内してもらう。

 王城も崩れ落ちて危険な場所があるらしく、謁見の間や大ホールなどは、立ち入り禁止になっていた。

 暖を取るために使ったのか、廊下の絨毯は剥がれされていた。そのため、歩くとコツコツと靴音が響く。

 客間の扉は固く閉ざされていたが、中には人の気配がする。避難してきた人達が、そこにいるのだろう。

 グリーソン公爵は、数人の貴族とともに、広い客間でこちらの到着を待っていた。

 中央にいるのが、そのグリーソン公爵のようだ。

 すらりと背が高く、茶色の髪をした壮年の男性だった。やや神経質そうな顔をしている。

 彼は王都が魔物に襲撃されたとき、逃げ遅れた市民達を王城に招き入れて守った。残された貴族達も、今は彼を中心にまとまっているという。

 けれどアーサーが独裁的な行動をしていたとき、グリーソン公爵はそれを諫めることもなく、身を潜めていた。

 アーサーは、逆らう者には容赦しなかったようだ。けれど、国王の従弟であるグリーソン公爵なら、アーサーを止められたのではないか。そういう声もあったらしい。

 それに、彼自身も王族の血を引いている。

 ジェイダーはロイダラス王国の第二王子だが、地方で育っていて、中央の繋がりが薄い。

 それに対して貴族を上手く取りまとめている彼は、ジェイダーの心強い味方になってくれるのか。

 それとも、手ごわい敵なのだろうか。

 グリーソン公爵は、他の貴族とともにジェイダーに臣下の礼をとる。

「ジェイダー王子殿下。御無事でしたか」

 安堵した様子を隠そうとしない彼は、本当にジェイダーの無事を喜んでいるようにみえる。

 だが隣にいる兄は、険しい顔をしたままだ。

 グリーソン公爵の背後にいる貴族達も、まるで値踏みをするような視線をジェイダーに向けている。

 ジェイダーが王城に戻れば、誰もが彼を王位継承者として認めてくれると思っていた。

 けれど実際は、そう単純な話ではないようだ。

 ジェイダーが多くの人命を救ってくれた礼と、父である国王を看取ってくれた礼を述べる。グリーソン公爵は、人命を救うためとはいえ、王城を占拠するようなことをしてしまったことを詫びた。

 そんな、ある意味形式ばったやり取りのあと、彼らの視線が兄とミラに移った。

「ミラ様。改めて、異母兄(あに)のしたことをお詫びいたします。その聖なる御力でこの王都を守ってくださっていたミラ様を、偽聖女と呼んで追放するなど、許されない行為です」

 ジェイダーが、王城で正式にミラに謝罪する。

続いてグリーソン公爵も、アーサーを止められなかったことを詫びてくれた。

 周囲の貴族も、揃って頭を下げる。

 ミラとしては、もう過去のことだ。アーサーを恨む気持ちもなくなっている。

 それでもこの場で言葉を発するのは、自分ではない。

 エイタス王国の国王である兄だ。

 ミラは、隣に立つ兄を見上げる。

「我が国の聖女であるミラをこの国に送ったのは、ロイダラス国王の度重なる懇願を受けてのこと。だがロイダラス国王はミラの出自を隠し、王太子のアーサーに至っては、偽聖女と呼んで追放した」

 兄の研ぎ澄まされた美貌が、冷たい刃のように見える。これほど怒りを露にした兄の姿を、今まで一度も見たことがなかった。

「ミラが守っていたこの王都の民も、偽聖女だと罵ったそうだな。ミラはエイタス王国に連れて帰る。もう二度と、この国の聖女になることはないだろう」

 得られたはずの聖女の力。

 それを永遠に失ってしまったことを悟り、グリーソン公爵は青ざめ、他の貴族達は悲壮な顔をした。

 ただジェイダーだけが、すべてを受け入れるようにまっすぐに、兄を見つめていた。


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