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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第二部

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93/121

2-20

 その教会は、町の中央にあった。

 城壁から距離があるせいか、建物はあまり崩れていない。それでも古い建物の外壁は剥がれ落ちている。

入口の扉を開くと、軋んだ音がした。兄が先に入り、ミラ、そしてラウルと続く。

「!」

 目の前の光景に、ミラは声を上げそうになって唇を噛みしめた。

 床の上に粗末な毛布を敷き、横たわっている人達がいた。

 痩せた身体が痛々しい。

 幼い子供や老人ばかりで、若い人は誰もいなかった。

 ミラは近くにいた子供に近寄ろうとするが、その子は怯えた瞳でこちらを見上げている。

 話を聞くのは難しそうだ。ならば、とその隣にいる年老いた女性に声を掛けようとしても、彼女もこちらに視線を合わせないようにしている。あの男達が声が届く場所にいる状況では、話を聞くことはできないと悟る。

(ここの環境はあまりよくないわ。でも、まだ王都は安全ではないから連れていけない……。どうしたらいいのかしら)

 兄もミラと同じように、ここの人達をどうしたらいいのか考え込んでいるようだ。

 そんな中、ラウルは教会の内部を回っていた。部屋ひとつひとつを確認し、この教会にどれだけの人がいるのか確認しているようだ。

 そう大きくはない教会のすべてを見終わると、ラウルはミラに言った。

「全部で二十一人。子供が六人いた。教会に結界を張って、あの男達が入れないようにすればいい」

「そうね。そうすればいいのね」

 ミラは大きく頷いた。だからラウルは教会内を回り、あの男達の仲間が内部に潜んでいないか確認したのだ。

 ミラは兄にだけ聞こえるように、小声で囁いた。

「お兄様、教会に結界を張るわ。ここの人達は出入りできるけれど、あの人達は入れないように」

 ついでに、防音と視界を遮る効果も追加する。これで、ここでは何を話しても男達には聞こえない。

 ミラはローブのフードを脱ぐと、先ほどの子供の前に跪いた。

「具合は悪くない? 大丈夫?」

 優しくそう尋ねると、その子供は驚いたように目を見開き、やがて怯えたような声で、お腹がすいたと呟く。

「ああ、そうね。食事を作るわ」

 ミラは立ち上がった。教会の内部にも、小さな厨房があるはずだ。

「ラウル、たくさん作りたいから手伝ってくれる? お兄様とジェイダー様は、みんなの話を聞いてみて」

「わかった」

 ラウルは荷物を持って立ち上がり、兄とジェイダーも頷く。

「厨房はこっちだ。だが、食材は何もなかった」

「持ってきた材料を使いましょう。水はあった?」

「あったが、あまり清潔な水ではなさそうだ」

「だったら水も、持ってきたものを使ったほうがよさそうね」

 見たところ、身体が弱っている人が多いような印象だったから、水に当たったりしたら大変だ。

 鍋などの調理器具も腐食して使い物にならない状態で、持ってきた道具を使うことにした。

「弱っている人が多かったから、最初はスープがいいわね。香草は、どれがいいかしら」

「これと、これがいい。身体を温めて、体力を回復させてくれる」

 ラウルにアドバイスをもらいながら、手早くスープを作る。匂いにつられたのか、いつのまにか厨房の前に子供が集まっていた。

 こうして見ると、ここにいる子供は男の子ばかりだ。子供がいるのに、母親らしき女性がひとりもいないことも気になる。

 厨房にある小さな食卓テーブルで子供達にスープを食べさせた。

他の大人達にも配ろうと、兄とジェイダーのところに戻る。すると、涙を流しながら何かを訴えている老婦人と、険しい顔をしている兄の姿が目に入る。

「お兄様?」

「あの男達は、冒険者ギルドを占拠して根城にしているようだ。その地下に、女性や子供を幽閉しているらしい」

「え……」

 動揺して、もう少しで手にしていたスープの器を落としてしまうところだった。

 兄ははっきりと言わなかったが、泣いていた老婦人が、娘が売られてしまうと訴えているのが聞こえたので、そういうことだろう。

「助けに行かないと」

 ミラがそう呟いたときには、もうラウルが動いていた。

「待って、私も行くわ」

「二人とも待て。もう少し情報を……」

 慌てて兄が制したが、ラウルはもう教会を出ていく。ミラもフードを目深に被って、その後に続いた。

「ラウル」

 急ぐ彼になかなか追いつけなくて、ミラは必死に呼び止める。ようやくその声が耳に入ったのか、ラウルが足を止めた。

「ミラ、姿を隠せるか?」

「え?」

「あいつらに、ミラの姿を認識できないようにしてほしい」

「えっと、さすがに姿を消すのはやったことが……」

「消さなくてもいい。ミラが目の前にいても、わからないようにすれば」

 ミラの魔法を恐れるどころか、さらに難しいことを要求してくるラウルに、思わず笑みが零れる。

「そうね。結界魔法を応用すれば何とかなるかも」

 結界の中の音や映像が、外からは見えないようにしたように。

 ミラは自分の身体の外側に結界を張るように、イメージしてみる。

(ええと、除外するのはラウルだけでいいわね)

 とりあえず試しなので、ラウル以外の人から見えないように設定してみる。

「どうかな?」

 そう言ったところで、兄が追いかけてきた。

「女性達を助けたいのはわかるが、二人とも早まるな。せめて夜になるのを待って……」

 兄の言葉が途切れる。

「ミラはどこにいる?」

「お兄様、私はここよ」

 結界魔法を解いて、姿を現す。

「うん、魔法は成功ね。お兄様、これなら大丈夫でしょう?」

「いつのまに、そんな魔法を」

 驚く兄に、ラウルの提案だと説明する。

「私たちは女の人達を助けに行ってくる。お兄様は、教会をお願いね」

 念のために戦力は残しておいたほうがいい。ラウルもそう言った。

 兄は心配そうだったが、ミラの身は安全だと確認したからか、それを受け入れてくれた。


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