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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第二部

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92/121

2-19

 町は、やはり荒れているようだ。

 城壁は魔物によって破壊され、ありあわせの木材で補強してある。その隙間から、こちらを伺っている者がいた。

 生き残りがいたと安堵した瞬間、足元に矢が撃ち込まれた。

「!」

 思わず身を竦めるミラを庇い、ラウルと兄が前に出る。

 見渡してみれば、城壁の合間からこちらの様子を伺う、複数の視線。

 容貌から察するに、この町を拠点としていた荒っぽい冒険者たちのようだ。

「俺達の町に何の用だ!」

 威嚇するような声がした。

「俺達の町? そんなものは存在しない。ここはロイダラス王国にある町のひとつだ」

 兄は冷静にそう言うと、こちらに向けられる敵意を物ともせずに、前に出る。

「お兄様……」

 武器をこちらに向けている相手に、平然と立ち向かう兄を心配して、ミラが声を上げる。

「心配ない」

 そんなミラに、庇うように前に立っていたラウルが声を掛けた。

「奴らは口だけだ。あきらかに格上の相手に、立ち向かうほど根性はない」

 だが逆を言えば、弱い者なら平気で虐げるということだ。こんな人達が町を占拠している。一刻も早く、解放しなければならない。

「ロイダラス王国なんて、もう存在しない。国王代理の王太子は、王都を捨てて逃げだしたぞ」

「そんなことを言っているのは、お前達だけだ。第二王子のジェイダーが立ち上がり、地方の都市もほとんど魔物から解放されている。じきに王都もそうなるだろう。このまま町を不法に占拠していると、反逆罪になる」

 静かな口調だったが、彼らに与えた影響は大きかった。

 動揺する者。はったりだと叫ぶ者。やがて仲間同士の口論にまで発展した。自分達では判断できないと思ったのか、ボスに聞け、と叫んで立ち去っていく。

「ボス、か。さて、向こうはどう出るか」

 兄はそう呟くと、振り返った。

「ミラはラウルの後ろに。ジェイダーも、今はまだ前に出るな。俺が対応する」

「お兄様」

 気を付けて、と言おうとしたところで、町の中からひとりの男が出てきた。

 かなり大柄な壮年の男で、いかにも裏世界の人間のような、剣呑な雰囲気をまとっている。額のあたりに大きな傷跡があった。

 彼は兄の前に立つと、驚いたことにその場に跪いた。

「エイタス王国の、リロイド国王陛下」

「俺を知っていたのか」

「はい。以前、ビーヤ王国で」

 男は頷いた。

 数年前。ビーヤ王国で魔物退治のために冒険者を大量に雇ったことがあり、男もそれに参加したらしい。

 だが魔物は予想以上に多く、冒険者達はかなり苦戦した。

そこに援軍としてやってきたのが、エイタス王国の国王である兄だった。

「今度はこの国をお救いになるために、いらっしゃったのですね」

「そうだ。ロイダラス王国が滅びることはない。速やかに町を解放しろ」

「……承知しました。もとより、我らはこの町を守っていただけのこと。我らが守り、保護した人達もたくさんいます」

 多くの人が保護されていることを知り、ミラはほっとする。けれど、庇うように前に立つラウルは警戒したままで、兄の表情も硬い。

 油断しないほうがいいと悟り、ミラはローブのフードを深く被り直した。

「後ろの方達は?」

「今回、協力してもらっている者達だ。見知った顔もいるだろう」

 兄は、男にジェイダーやミラのことを隠しておくことにしたようだ。

 ふたりとも長いローブを着て、フードで顔を隠している。今のところ、正体が判明してしまう恐れはない。

 男はジェイダーの護衛、そしてラウルに視線を移して、小さく頷いた。

「わかりました。どうぞ町の中へお入り下さい。我々も魔物が徘徊していて、危険だから見張りをしていただけです」

 男はそう言うと、仲間達を引き連れて、町に戻っていく。

 その後ろ姿を見送る。

「あの男。魔物の襲撃によって混乱したビーヤ王国を、乗っ取ろうとしたことがある」

 視線を前方に向けたまま、兄がこちらだけに聞こえるように、そう言った。それを実行する前に、兄が援軍として駆け付けたのだろう。

 ならば今回も同じようなことを企み、同じように兄によって事前に阻止されたのだとしたら。

 従順な態度とは裏腹に、かなり忌々しく思っているに違いない。

「俺の顔を知られていたのは仕方がないが、ミラとジェイダーは、あの男に正体を知られないほうがいい」

「ええ、わかったわ」

 ミラは頷く。

 服装も魔導師のものなので、ラウルとパーティを組んでいる魔導師だと言えばいい。念のため、ローブの中に隠れていた銀髪を、以前この町で変えたように、茶色にしておく。ジェイダーもローブのフードを深く被り、警戒していた。

 そうして一行は、町の中に足を踏み入れた。

 兄が先頭に立ち、そのあとにミラが続く。ミラの背後には、彼女を守るようにラウルがいる。その後ろに、冒険者達に守られたジェイダーが続いた。

 あのときから荒んだ雰囲気だった町は、魔物によってかなり破壊し尽くされている。だが、店や家が荒らされているのは、魔物の仕業ではないだろう。

(まさか混乱に乗じて、略奪行為をしていたの?)

 卑劣な行為に、ミラは怒りを感じた。

 町の様子を注意深く探り、虐げられている者はいないか、きちんと見定めなくてはならない。

 そう思ったが、町に人影はない。ただ男の仲間達が、無言でこちらの様子を伺っている。

 町の人達はどこにいるのか聞こうとしたが、兄に止められた。声を発して、若い女性だと知られないほうがいいと言う。

「保護している人達は、どこにいる?」

 代わりにラウルがそう尋ねると、ひとりの男が教会を指さした。どうやらそこにいるらしい。


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