表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/121

2-13

「お兄様、左側の茂みの奥に魔物がいるわ」

「わかった」

 剣を振るう兄に声をかけると、兄は頷き、左側に向かっていく。そこには、ミラの宣言通りに獣型の魔物がいた。まだこちらに気が付いていなかったようで、先制攻撃をして楽に倒すことができた。

(何だか、少し違う……)

 感覚が、ますます研ぎ澄まされている。

 ラウルと話し、自らの在り方がしっかりと定まったからだろう。

「ミラ。また力が増したか?」

 兄もそれに気が付いたようで、ラウルが周辺を調査している間に、こう言った。

「ええ」

 ミラは自分の中にある力を確かめるように、じっと手のひらを見つめる。

「私がどうなりたいのか、はっきりとわかったからかもしれない」

「どう、とは?」

「ラウルが言ってくれたの。私を、希望だと。だから私は、この世界に生きる人達の希望になりたい。魔物から、この世界を守りたいの」

 大それたことを言っているのはわかっている。それもミラは、それを生涯の目標として定めた。

「そのためには、もっと強くならなくてはならないわ。それでも、私ひとりの力ではできないことがたくさんある。だからこれからも、お兄様の力を貸して欲しいの」

 この地で再開してから、兄はミラの増していく力に戸惑っていた。

 だから少し不安はあったが、この大陸において、兄のエイタス王国の国王としての影響力は大きい。その協力は、必要不可欠だ。

 緊張して返答を待つミラに、兄は過去を思い出すように目を伏せる。

「父もよく言っていた。この子は希望だと。この国だけではなく、世界を救う存在になると」

「お父様が?」

 まだ幼いミラを連れて、大陸中を回っていたという父。

 ミラは覚えていなかったが、滅亡前のリーダイ王国にも行ったことがあったらしい。そこで、ラウルとも出会っていた。

 ミラを【護りの聖女】と呼んだのは、他ならぬその父だ。

「そんな父の言葉に反発して、ミラをエイタス王国から出すまいとしていたが。やはりお前は、その道を選ぶのか」

 ミラの婚姻話が出たとき、兄は強固に反対していた。娘の将来を考えて他国に嫁がせることにした母とは、随分やり合ったと聞いている。あまりにも兄が反対するので、姉たちも訝しんでいた。それには、こんな理由があったのかと納得する。

「ごめんなさい、お兄様……」

「謝る必要などないよ。ミラは自分の道を自分で選び取った。それを誇りに思うことはあっても、咎めることはない」

 兄の大きな手が、まるで父のように優しくミラの頭を撫でる。

「それに、ラウルと一緒なら安心だ。お前の使命を、俺も全力で支援しよう」

「ええ、ありがとう。とても心強いわ」

 それでも、まだ肝心のラウルに話していないことを思い出す。あのときはミラが感極まって泣いてしまい、兄を心配させてしまったのだから仕方がない。でもなるべく早く、ラウルと話さなくてはならない。

 森の魔物退治は順調に終わり、今後も魔物が寄り付かないように瘴気を浄化した。そのあと、川辺と町の周辺も同じように魔物退治と浄化を終える。町に帰還する頃にはもう日が暮れていた。

 迎えてくれたジェイダーも、この町や周辺の被害状況。避難している人数の把握や物資の数の把握など、収穫は大きかったようだ。

 さらに町の代表者だけには身分を打ち明け、王都を奪還したあとは必ず支援することを約束したようだ。

 兄は、まだ王都の様子がわからない今の状況で、その約束は時期尚早だと思ったようだが、口は出さなかった。

 この国を立て直すのはジェイダーだ。自分達は、その手助けに過ぎない。


 その翌日にはこの町を出て、王都に向かう。

 町で得た情報によると、王都に向かう街道にかなり強い魔物が出現し、誰も王都に近寄れないらしい。

 王都に入るには、その魔物を倒す必要がある。

「話によると、魔物は巨大なドラゴンのようだ」

 街道を歩きながら、ラウルがそう話す。

「ドラゴンか。少し厄介だな」

 兄がそう呟いたように、剣と大剣を使う二人と、空を自在に飛び回るドラゴンとは、あまり相性が良くない。その上、ドラゴンブレスは魔法攻撃と同じである。

 瘴気で巨大化したドラゴンなら、浄化すれば元の大きさに戻る。だが、話を聞く限り、そうではないようだ。

「だが、倒さねば王都に辿り着けない。何とか倒すしかない」

「もしドラゴンが飛び立ったら、私が魔法で地面に落とすわ」

 ミラは、兄にそう提案する。

「頼む。あとはひたすら攻撃するしかない」

 消耗戦になるだろう。

 緊張感が走る。

 ジェイダーが雇った護衛達も戦闘に参加してくれるようだが、相手が巨大なドラゴンということで、少し怖気づいている。

 兄もそれは理解しているようだ。彼らはジェイダーを守るのが最優先であり、もし危険だと思ったらこちらに構わず逃げるように指示していた。

 やがて、地の底から響き渡るような咆哮が聞こえてきて、地面が激しく揺れた。

「きゃっ」

 バランスを崩してしまったミラを、ラウルが支えてくれる。

「ラウル……」

「気をつけろ。聞いていたよりも大型だ」

 そう言うと、大剣を構えたラウルは先頭に立った。ミラも、その視線の先を見つめる。

 町から王都に向かって、大型の馬車でも容易にすれ違うことができる大きな街道がある。

 その街道を塞ぐようにして、巨大なドラゴンがいる。

 まだかなり距離があるのに、咆哮は地面を揺らし、翼を大きく広げた姿は、普通の家くらいありそうだ。

「……っ」

 思わず息を呑む。

 あれほど大きい魔物は、見たことがない。

 不気味に光る血の色のような鱗。

 それは、このドラゴンが火属性だということを示している。ドラゴンブレスは灼熱の炎となるだろう。

「大きいな」

 兄が庇うようにミラの前に立った。

 魔物退治に明け暮れている兄でも、これほどのドラゴンとは対峙したことがないようだ。

「あれが飛んだら落とせるか?」

「多分、できると思う。でも……」

 ミラは周辺を見渡した。

 街道の左右には、大きな森がある。もともとこの街道は、森を切り開いて作られたようだ。あれほど大型のドラゴンが墜落すれば、森にも大きな被害があるだろう。

「森に被害が出てしまうわ」

「残念だが、まったく被害を出さずに退治するのは難しいだろう」

 ラウルの言葉に、兄も頷く。

「どのみち、ドラゴンブレスで焼き尽くされる。それに、あのまま放置していたら、もっと深刻な被害が出る」

「……そうね。全力でやるわ」

 たしかにラウルも兄も強いが、大型のドラゴン相手に無傷で勝利できるとは思えない。二人に癒しの魔法を使いつつ、灼熱のドラゴンブレスを防ぎ、さらにドラゴンが飛び立ったら、魔法で墜落させなくてはならない。

 周囲を気遣う余裕はなさそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ