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【書籍化・コミカライズ】偽聖女!? ミラの冒険譚 ~追放されましたが、実は最強なのでセカンドライフを楽しみます!~  作者: 櫻井みこと
第一部

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 白い光が、天から降り注いでいた。

 ゆっくりと目を開いたミラの瞳に映ったのは、欠けてひび割れたステンドグラスだった。

(ここは……)

 横たわった身体に、冷たい石の感触。

 どうやら石畳の床の上に寝かされていたようだ。

 頭を動かそうとすると、頬がずきりと痛む。その頬の痛みが、アーサーに囚われていたことを思い出させてくれた。

 ミラは腫れた頬に手を当てたまま、ここがどこなのか確かめようと、ゆっくりと身体を起こすと、慎重に周囲を見渡した。

 天井には、ひび割れたステンドグラス。

 ミラが暮らしていたとは別の場所のようだが、崩壊しかけた礼拝堂のようだ。

(どうしてこんなところに……)

 服装はシンプルなワンピースのままだが、白いレースのようなものが身体に掛けられていた。何となく広げてみると、それは美しい刺繍が施されたベールのようだった。

 まるでウェディングドレスのようだ。

 そう思った瞬間、ぞくりとした。

 アーサーは礼拝堂にミラを連れ込んで、何をするつもりなのか。

 逃げなくては、と思った瞬間、軋んだ音がして入り口が開かれた。びくりと身体を震わせたミラは、ゆっくりと振り返る。

「ああ、目が覚めたみたいだね」

 出逢った頃のように穏やかな笑みを浮かべたアーサーが、ミラに歩み寄る。

「嫌……。来ないで」

 ミラは立ち上がり逃げようとするが、走り寄ってきたアーサーに腕を掴まれ引っ張られる。

「どこに行く? 今日は私達の結婚式だというのに」

 こんな廃墟のような場所で、何を言っているのだろう。

 礼拝堂は崩れ落ち、愛を誓うべき神も、ここには不在である。

 アーサーの狂気に、ミラは身を震わせた。

 とにかく彼から逃げなくてはならない。

 掴まれた腕を振り払おうとするが、アーサーの力は少しも緩まず、ますます強くなるだけだ。骨が軋むほどの強さで握られて、痛みのあまり涙が滲みそうになる。

「お前は私の婚約者だ。結婚するのは当然だろう」

「それを破棄して私を追放したのは、あなたよ。そのときにもう、あなたとの縁はなくなったの。結婚するなんて、絶対にありえないわ」

「うるさい!」

「!」

 突き飛ばされ、机にぶつかって蹲る。

 痛みですぐに動けないミラの頭に、アーサーがベールを乗せた。

「王位もお前も、ジェイダーには渡さない。お前は私のために聖女の力を使えばそれでいい」

「……聖女は、あなたの道具ではないわ」

 聖女であるのなら、ミラでも誰でもいい。アーサーはそう思っているのだろう。

 こんな場所で結婚式を挙げても、それが正式に認められるとは思えない。王族の結婚とは、それほど簡単なものではない。

 でも、たとえ後で無効にすることができたとしても、アーサーと結婚するなんて絶対に嫌だった。

「離して! 私は絶対に、あなたなんかと結婚しないわ」

 逃げようと身を捩るが、両腕を掴まれて壁に押しつけられる。

 魔物相手ならば圧倒的な強さを持つミラも、人間相手には無力だった。

「抵抗しても無駄だ。お前はこの私の妻となり、このロイダラス王国の聖女になるのだ」

 壁に挟まれて動けないミラに、アーサーが迫ってくる。顎を掴まれ、無理矢理上を向かされた。

 結婚式で交わす、誓いの口づけ。

 それは将来を誓い合う神聖な儀式のはずだ。

 こんなふうに押さえつけられながら、無理矢理奪われて良いものではない。

「ラウル……」

 涙とともに零れ落ちたのは、ずっと一緒に旅をしてきたひとりの男の名前だった。

 こんなところに居たくない。

 彼の傍に戻りたい。

 そう願った瞬間、周囲が銀色の光に包まれた。


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